2019年12月6日、三菱UFJ銀行が来年秋にも年間1,200円の口座維持手数料を導入することを検討している報道がされました。
現時点での計画では、口座維持手数料の対象となるのは2年間取引のない「不稼働口座」のみで、かつ既存口座は対象にしないとのことです。
口座維持手数料については、2017年12月にも三菱UFJ銀行に加えて三井住友銀行、みずほ銀行といったメガバンクが導入を検討し始めたと報じられていました。
いよいよ口座維持手数料の導入が現実味を帯びてきたわけですが、納得できないという方も多いことでしょう。
この記事では、
ということを解説します。
また、結果的に口座維持手数料の導入が避けられない場合、メリットはあるのかという点にも触れていきます。

目次
口座維持手数料の導入は法的に許されるのか
口座維持手数料の導入に対しては、
「銀行のサービスを無料で受けられる方がおかしい」
などの理由で肯定的な意見も一部にはあります。
しかし、おおかたの意見は否定的です。
たしかに、貯めるため、あるいは保管するために口座にお金を入れておいたのに、そのお金が減らされてしまうのではたまったものではありません。
それ以前に、各預金者の個別の同意を得ることもなしに勝手に口座維持手数料などを導入することが法的に許されるのかという疑問が湧いてこないでしょうか。
まずは、この点を解説したいと思います。
新規口座に口座維持手数料を導入するのはOK
預金者と銀行の法的関係は、消費寄託契約を主としつつ委任ないし準委任の要素も混合した契約関係です。
法律用語ばかりでわかりにくいと思いますが、ここは重要な点ではないので説明を割愛し、解説を続けます。
契約関係にある預金者と銀行との関係は「約款」によって拘束されます。
普通預金口座を開設したら「普通預金約款」や「普通預金規定」などという名称の、小さな文字で決まりが書かれた紙を渡されます。
預金者も銀行もお互いにその約款に合意して契約関係に入ったわけですから、以降はその約款を守る必要があります。
ということは、「口座維持手数料を徴収します」という規定が約款に入っている場合には、口座維持手数料を徴収することに何の問題もありません。
つまり、これから新たに開設する口座に口座維持手数料を導入するのはOKということです。

既存口座に口座維持手数料を導入するのも不可能ではない
既存口座の約款の中にも、口座維持手数料について「別途定めるところにより徴収することができる」という規定が入っている場合があります。
この場合は、手数料の金額などの内容が不合理なものでない限り、口座維持手数料の導入もOKといえるでしょう。
問題はそのような規定が入っていない場合です。
この場合には、各預金者の個別の同意なしに、預金者の不利に約款を変更することができるのかという問題が出てきます。
結論をごく簡単に申し上げると、
「変更内容が合理的なものであり」
「預金者の不利益が最低限にとどめられ」
「事前の周知」
が徹底されていればOKです。
低金利が長引き、金融機関の収益悪化している現在の社会情勢では、変更する必要性が認められてしまうでしょう。
変更内容も、月数百円程度の手数料であれば合理的と認められてしまうと考えられます。
さらに、預金者の不利益についても、口座を解約すれば手数料の徴収を免れることができるという理屈で「最低限」の要件を満たしてしまうことでしょう。
したがって、事前の周知さえ徹底すれば既存の口座に口座維持手数料を導入することも法的に可能ということです。
今後の見通しについての私見
三菱UFJ銀行が口座維持手数料の導入を検討しているのは、現在のところ新規に開設される口座のみです。
この点、将来的には既存口座にも広がるであろうという見解もありますが、そう簡単には広がらないでしょう。
上で解説したとおり、既存口座に口座維持手数料を導入することも法的に可能ですが、実際にはかなり高いハードルです。
だからこそ、三菱UFJ銀行も既存口座は検討の対象から外したのでしょう。
りそな銀行ではすでに不稼働口座に対する口座維持手数料を導入していますが、やはり対象は原則として2004年4月1日以降に新規開設された口座に限っています。
将来的に既存口座にも口座維持手数料が導入される可能性も否定できませんが、それほど近い将来ではないと考えられます。
ただし、これは私見に過ぎないことをお断りしておきます。
残高0円の口座はどうなるのか
口座維持手数料が導入された場合、残高が0円の口座や、わずかな残高しかない口座はどうなるのかという点は多くの方が気になるところでしょう。
これも私見ですが、このような場合は自動解約になると考えられます。
残高から手数料を引き落とせない場合に預金者に対して別途請求して取り立てるのは大変で、明らかにコストに見合いません。
すでに口座維持手数料を導入しているりそな銀行でも、手数料の金額未満の残高しかない場合にはその残高のみを手数料の一部として充当した上で口座は自動解約されることになっています。
これが妥当な取扱いだと考えられますし、こうするしかないと考えられます。

口座維持手数料に預金者のメリットはあるのか
当面は対象が既存口座に限られるとしても、口座維持手数料の導入は避けられない流れになっています。
そうである以上は、口座維持手数料に何らかのメリットを見いだして上手に付き合っていきたいところです。
では、預金者にとって、口座維持手数料にメリットはあるのでしょうか。
貯蓄する習慣が身につく
口座維持手数料が広まっていく場合、一定の金額以上の残高がある口座には手数料がかからないことになる可能性が高いと考えられます。
りそな銀行でも、1万円以上の残高がある口座には手数料がかからないことになっています。
将来的にはこの金額が引き上げられる可能性もあります。
そうだとすると、口座維持手数料を引き落とされないようにするためには決まった金額以上の残高にしておく必要があります。
これはお金を動かせないという点でデメリットでもありますが、必然的に貯蓄の習慣が身につくと考えればメリットともいえます。
金融リテラシーが身につく
リテラシーとは、知識や情報を保有し、かつ利用する能力のことです。
お金を貯めたり保管したりするためには、銀行口座以外にもさまざまな預け先があります。
投資にお金を回すのもよし、リスクを避けたいなら国債や地方債、社債などを購入するのもよいでしょう。
株式や不動産投資に手を出して赤字を出したのでは目も当てられませんが、投資信託ならリスクも低く、銀行の預金利息よりは大きなリターンを得られます。
また、銀行でも特定のサービスを利用することを条件に口座維持手数料を免除する特典が設けられることでしょう。
今までは単に銀行口座にお金を保管していただけの人でも、今後はどこに預ければ損しないかを調べて、考えることで金融リテラシーが身につきます。
口座維持手数料が広まっていくことは避けられない
三菱UFJ銀行が現在検討している口座維持手数料は「新規口座のみ」、「年間1,200円程度」ということで、思ったよりも良心的な内容だと感じた方が多いと思います。
将来的には、口座維持手数料が広まっていくことは避けられないでしょう。
年間で1,000円~数千円程度のコストが気にならない方ならともかく、少しでも損を避けたいのなら、今から金融リテラシーを高めていきましょう。(執筆者:川端 克成)