亡くなった親に借金があったために相続放棄をしたところ、その後に多額の隠し財産が見つかるケースが現実にあります。
しかしこのような場合、残念ながら相続放棄の取消しが認められることはあまりありません。
それでも発見した遺産を取得した場合にはどうすればよいのでしょうか。
今回は、相続放棄の取消しが認められるのはどのような場合か、取消しが認められない場合にも遺産を取得する方法はあるのかを解説します。

目次
相続放棄の取消しは原則として認められない
いったん相続放棄の手続きをすると、撤回することは許されません。
たとえ相続放棄の期限内(3か月)であっても撤回は認められないのです(民法第919条1項)。
相続放棄をした時点で、その人は初めから相続人ではなかったものとみなされます。
それを前提に被相続人の債権者や他の相続人は手続きを進めます。
いったん行った相続放棄を覆してしまうとこれらの人たちに大きな迷惑がかかるため、相続放棄の撤回は認められないのです。
例外的に相続放棄の取消しが認められる場合もある
民法には、不本意な法律行為を行った場合に取消しを認める規定もあります。
いったん行った相続放棄でも、民法の取消規定によって取り消すことができる場合があるのです。
相続放棄の取消しが認められる典型的なケースは、
です。
他にも、錯誤に陥って相続放棄をした場合にも取消しが認められるはずですが、この場合には現実にはかなり難しいと言えます。
他人に騙されて相続放棄をしたケース

父親が亡くなり、相続人として長男と次男の2人がいるとします。
長男は長年にわたり父と同居して事業を手伝っていました。
次男は大学進学を機に実家を出たため、父の財産状況を詳しく知りませんでした。
相続が始まり、長男は次男に対して、
と言って相続放棄をすすめました。
長男は事業を継続するため、相続放棄はしませんでした。
ところが、長男が次男に隠していた相続財産があり、負債を差し引いても3,000万円以上に相当する財産があることが次男の相続放棄後に判明しました。
長男は相続財産を独り占めするために次男を騙したのです。
この場合には、
他人に強迫されて相続放棄をしたケース
民法でいう「強迫」とは、他人に害意を示して怖がらせることを言います。
上記のケースで、長男が次男を
錯誤に陥って行った相続放棄は無効
他人からの詐欺も強迫もない場合には、いったん行った相続放棄を取り消すことはできません。
厳密にいえば、
など、他にも取消事由はあります。
しかし、このような場合には家庭裁判所が相続放棄の申述を受け付けた時点でチェックしますから、現実的に問題となることはまずありません。
ただ、他人から騙されたわけでもなく、強制されたわけでもなく、プラスの相続財産がないと誤信して相続放棄をしてしまった場合は相続放棄の無効を主張できる場合があります。
相続放棄が無効の場合には訴訟が必要

法律行為の重要な部分に誤信があり、その誤信がなければその人だけではなく一般通常人も意思表示をしないというような場合、その法律行為は無効です(民法第95条)。
つまり、
なのです。
無効ですから、取消しの手続きはできません。
取消しというのは有効に成立したものを、なかったことにするものです。
最初から無効の物を取り消すことはできないのです。
言葉遊びのように思われるかもしれませが、
相続放棄の無効を理由として相続財産の所有権の確認あるいは取り戻すための訴訟を起こさなければならないのです。
錯誤による無効を主張する訴訟は非常に難しい
ところが、そのような訴訟を起こしても勝訴できることはめったにありません。
裁判所が錯誤による無効を認めてくれることはなかなかないのです。
それでも、相続放棄の無効を主張して相続財産を取得するためにはダメ元でも訴訟を起こすしかありません。
勝訴できなくても和解によって相続財産の一部を取得できることもあります。
現実的には、
でしょう。
なお、相続人の全員が相続放棄をした場合は相続財産管理人が相手となります。この場合も、事情によっては裁判所の理解を得て相続財産管理人から相続財産を安価で取得できる場合があります。
相続放棄をする前に相続財産を徹底調査する
いったん相続放棄をすると、取消しや無効を主張して後で見つかった相続財産を取得するのは簡単なことではありません。
相続放棄をする前に相続財産の調査を徹底して行うことが最も大切です。
高齢の親がいる場合には、コミュニケーションをしっかりとって、できる限り早い段階で財産状況を把握しておきたいところです。(執筆者:川端 克成)