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異なった会計処理を行っている「のれん」

今回は、日本基準と国際基準とで異なった会計処理を行っている「のれん」について解説します。
のれんとは、企業の合併・買収(M&A)の際に生じる無形資産で、被買収企業の純資産額と買収金額の差額のことです。
のれんの会計処理は、日本基準と国際財務報告基準(IFRS)とで異なっています。
日本基準
日本基準では、のれんは企業の超過収益力をあらわすものであり、通常その価値は時間の経過とともに減価していくものと考えられています。
従って、のれんは定期的に償却(費用計上)するのが妥当ということになります。
国際財務報告基準(IFRS)
一方IFRSでは、のれんは必ずしも減価するものではないうえ、たとえ減価したとしても毎期規則的に減価することはまれであるため、定期償却するのになじまないと考えています。
定期償却しない代わりに、のれんの価値が大幅に低下したと認められた際に、低下した分を一挙に減損処理するという方法を採用しています。
そのため、いずれの会計基準を採用するかによって、同一の企業であっても企業業績(損益)が変わってしまいます。
国際展開した企業がIFRSを採用する理由
国際財務報告基準は大型M&Aを実施した企業が採用する傾向

国際展開している企業は、海外投資家にも有益な情報を積極的に提供する必要があるため、IFRS(ないし米国基準)を採用することが多いです。
一方、従来日本基準を採用していたにもかかわらず、大型海外M&Aをしたのを機にIFRSに移行する企業が多く見受けられます。
これらの企業の言い分としては、外国企業を買収したため外国人株主が増加し、彼らに開示する企業情報は日本基準よりもIFRSによったものの方が適しているということです。
もちろんそれもあるとは思われますが、大型M&Aをした際には高額なのれんが発生することが多く、そののれんを日本基準によって定期償却すると毎期の利益が圧縮され、業績が悪くなります。
そのため、M&Aを機にのれんの償却が不要な、毎期の利益を大きく見せることができるIFRSに移行する企業が散見されるのだと思われます。
企業決算とは投資家に有用な情報を提供するもの
のれんが「減価するものなのか」「しないものなのか」という議論に答えはありません。
しかし、のれんの価値が大きく棄損した際にその分を一挙に減損し、その期のみ利益が大幅に減少するような会計基準で、開示される企業情報よりは、毎期一定額ずつのれんを償却してくれます。
毎期の利益が平準化される会計基準により開示される企業情報の方が、投資家にとっては分かりやすく有益ではないかと思われます。
特に、日本の個人投資家の多くは日本基準になじんでおり、のれんは定期償却されるものと思い込んでいるふしがあります。
そのため、近年増加してきているIFRS採用企業へ投資される際には、のれんに対する考え方が大きく異なっており、高額なのれんの減損が一時に表に出てくる可能性があることを頭に置いておくことをおすすめします。(執筆者:土井 良宣)