2つの仕組みを比較して理解するシリーズの3回目は「遺言」と「家族信託(民事信託)」です。
目次
「財産移転」が指定できるという共通点
遺言も信託も、自分の死後、財産の承継先をあらかじめ決めておけるという共通点があります。
信託銀行には「遺言信託」という商品があることから、両者を似たようなものだと考えてしまうかもしれませんが、両者にはむしろ相違点の方が多いです。
遺言信託は、「遺言による信託」のことですが別の機会に説明いたします。

遺言と信託の違い
遺言は「一方的な意思表示」
遺言は民法が定めた制度で、自分1人だけで意思表示(遺言の作成)ができ、相続させる相手方の意思がどうであっても、自分の死後に効力が発生します。
信託は「双方の意思の合致」
信託は、法律では「契約行為」の1つとして扱われ、自分(信託者)と相手(受託者)の意思が合致して初めて有効となります。
逆の見方をすると、遺言は単独行為なので、本人がいつでも好きな時に撤回や内容変更ができるのに比べ、信託は相手が合意しないと撤回(正確には「解約」)も変更もできないということになります。
遺言は自分の死後
遺言は、自分の死後に、相続人や受贈者に財産権が移転します。
信託は存命中からでも効力が発生
信託は、自分の存命中から財産権を受託者に移転し、契約内容に沿った管理や運営を任せることが多いです。
これは、「自分に何かあった時」というのが、遺言では「死んでしまった時」であるのに比べ、信託では「認知症になったり、寝たきりになったり」で財産管理ができなくなることを念頭に置いているからです。

財産の使い道を指定できない遺言
遺言でできるのは、誰にどの財産を譲るかという指定だけです。
「財産を相続した人がその後に亡くなったら、次はこの人にその財産を譲る」
などという指定はできません。
「付言事項」として遺言内にそのような希望を書けても、法的な効力はありません。
しかし、信託であれば「契約自由の法則」どおり、互いが納得すれば、本人(信託者)が死亡し、その後信託の目的が終了してからその残った財産をどこかに寄付したり、別の誰かに移転させたりということも可能となります。
遺言と信託で大切な財産が思い通りに移転可

ここまでの流れだと、信託の方に俄然メリットがありそうな気がするという方も多いと思います。
しかし信託は、信託の目的のために使用されるとはいえ、自分がまだ元気なうちから財産権を移転するというところに引っ掛かりを感じることもあるのではないでしょうか。
信託できる財産は金銭か不動産のみで、その他の財産を移転はできません。
信託契約で自分の全財産を移転させるということはないと思いますので、遺言と信託の両方を、バランスを見ながら取り入れることを考えてみてください。(執筆者:橋本 玲子)