失業保険について、次のような認識をお持ちの方は多いのではないでしょうか。
・ 就職したら失業保険はすべて消滅する
この認識は間違いではありませんが、非常にもったいないです。
今後のみなさんの労働意欲の向上やキャリアアップの妨げになっています。
雇用保険の失業給付には、一般的に失業保険や失業手当と呼ばれる「基本手当」の他に、就職した後でも受給できる制度があることはご存じでしょうか。
その制度の中心になるのが「再就職手当」です。
これは早期に就職した方だけが受給できる雇用保険の失業給付の1つです。
通常の給与をもらいながらも受給できるのが特徴です。
本記事ではみなさんの労働意欲を維持しながら受給できる「再就職手当」や、その他にも「就業促進定着手当」、「就業手当」についても詳しく解説したいと思います。
目次
「再就職手当」とは

雇用保険の「再就職手当」とは次のように定義されています。
再就職手当は、
(1) 基本手当の受給資格がある方が
(2) 安定した職業に就いた場合(雇用保険の被保険者となる場合や、事業主となって、雇用保険の被保険者を雇用する場合など)に
(3) 基本手当の支給残日数(就職日の前日までの失業の認定を受けた後の残りの日数)が所定給付日数の1/3以上あり、
(4) 一定の要件に該当する場合
に支給されます。
それぞれかみ砕いて説明していきましょう。
(1) 基本手当の受給資格がある方
たとえば、「離職前に雇用保険に加入していなかった」、「離職前の2年間で被保険者期間が12カ月ない」、「待期期間が満了していない」など基本手当を受給できる要件を満たしていない場合には、再就職手当を受給できません。
(2) 安定した職業に就いた場合
安定した職業に就いたという意味は、1~2か月の短期雇用ではなく、1年を超えて雇用されることが確実でなければならないということです。
また、就職するだけではなく、自分で起業する場合でも対象となります。
(3) 基本手当の支給残日数が所定給付日数の1/3以上
「再就職手当」は、早期就職者のお祝い金的な要素があるので、基本手当がある程度残った状態で就職しなければなりません。
そのため所定労働日数の1/3以上を残すことが条件となります。
また、後ほど解説しますが、残日数が「1/3以上で2/3未満の場合」と「2/3以上ある場合」では給付率が変わってくるので、覚えておいてください。
(4) 一定の要件に該当する場合
「再就職手当」は、通常の給与をもらいながら国からの補助を受け取ることになるため、相当に細かな要件があります。
「再就職手当」の受給要件のまとめると次の通りです。
「再就職手当」の受給要件のまとめ
・ 待期期間が満了していること
・ 失業保険が1/3以上残っていること
・ 1年を超えて雇用されることが確実な職業に就いた(1年契約は不可)または事業を開始したこと
・ 就職先が前職の会社でないことまたは関りがないこと
・ 休職の申込日前に内定した企業への就職でないこと
・ 前職を自己都合で退職した場合、1か月間はハローワークもしくは職業紹介事業者等の紹介による就職であること
・ 安定した職業に就いた日前3年以内に、再就職手当または常用就職支度手当の支給を受けたことがないこと
ご覧のように要件は多いですが、難しいものは1つもありません。
「再就職手当」はいくらもらえるのか

では、実際に再就職手当をいくらもらえるのかを見ていきましょう。
支給額の計算式
再就職手当の計算式は次の通りです。
支給残日数と給付額の事例
前述の通り、基本手当の所定給付日数の支給残日数が「1/3以上で2/3未満の場合」と「2/3以上ある場合」で給付率が変わってきます。
どのくらい違うのかを例に沿って解説しましょう。
前提
被保険者:20代男性
所定給付日数:90日
基本手当日額:6,000円
離職の年齢が60歳未満:6,165円
離職の年齢が60歳以上65歳未満:4,990円
支給残日数が60日ある場合
所定給付日数の支給残日数が2/3以上あるので、給付率は70%です。
支給残日数が30日ある場合
所定給付日数の支給残日数が1/3以上2/3未満なので、給付率は60%です。
働きながらこれだけまとまった額を一時金として受け取れれば大きいですが、これだと基本手当の6~7割程度しか受け取れません。
それであれば基本手当を全部もらってから、就職したほうがよいという人も出てくるはずです。
ただし、早期就職によって、受給できる失業給付はこれだけではありません。
次は、「就業促進定着手当」という制度について解説していきます。
「就業促進定着手当」

「就業促進定着手当」とは、「再就職手当」を受けた方がその勤務先で6か月間継続して雇用され、離職前(基本手当の計算の元となった勤め先)の賃金より下がった場合に、低下した賃金の6か月分が支給されるというものです。
支給額の計算式
支給額の計算式は次の通りです。
算出事例
具体的に計算してみましょう。
前提
仮に離職前の賃金日額が1万円で、再就職後の日額が9,000円とすると、
(1万円 – 9,000円)× 182日 = 18万2,000円
です。
ただし、これだと失業中にもらえるはずだった「基本手当」の満額を超えてしまうので「就業促進定着手当」には上限額があります。
先ほどの再就職手当の例を元に計算すると、次の支給額が上限です。
支給残日数が60日ある場合の上限額
支給額の上限額 = 6,000円 × 60日 × 30% = 10万8,000円
「再就職手当」の給付率が70%なので、給付率が30%となります。
支給残日数が30日ある場合の上限額
支給額 = 6,000円 × 30日 × 40% = 7万2,000円
「再就職手当」の給付率が60%なので、給付率が40%となります。
つまり、
というわけです。
常用雇用以外の形態で就職した場合の手当

さて、ここまでは安定した職業に就いた場合の給付を紹介しましたが、やむを得ずパートやアルバイトなどに就くこともあるでしょう。
そのように常用雇用以外の形態で就職した場合の手当も紹介しておきます。
「就業手当」
「再就職手当」は、1年を超えて雇用されることが確実でないと受給できないという条件があります。
たまたま見つかった仕事が1年契約だったり、短期間のパートだったりすると、「再就職手当」ではなく「就業手当」を受給できます。
就業手当の受給要件
・ 基本手当の受給資格があること
・ 再就職手当が受給できない雇用形態で就職した場合または事業を開始したこと
・ 基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上かつ45日以上
・ 待期期間が満了している
・ 就職先が前職の会社でないことまた関りがないこと
・ 休職の申込日前に内定した企業への就職でないこと
・ 前職を自己都合で退職した場合、1か月間はハローワークもしくは職業紹介事業者等の紹介による就職であること
支給額
60歳未満:1,831円
60歳以上65歳未満:1,482円
雇用契約が満了して失業となった場合に受給期間(前職の離職した翌日から原則1年間)が過ぎるまでに残りの基本手当が受給できそうな場合には、就業手当を受け取らない方がよいこともあります。
受給期間のリミットと残日数、収入額などを勘案して決めるべきでしょう。
「就業手当」の申請方法と期限
申請方法と期限を見ていきましょう。
申請方法

再就職手当の申請には、まず「再就職手当支給申請書」を入手する必要があります。
そのためには次の書類を用意して、就職日の前日にハローワークで失業認定を受けましょう。
・ 採用証明書(事業主に署名してもらう箇所あり)
・ 失業認定申告書
・ 雇用保険受給資格者証
「再就職手当支給申請書」を受け取ったら記入して、ハローワークに提出すれば申請完了です。
11.~18.は事業主に記入してもらう箇所になるので、入社したら自分で記入するところを記入して、会社の総務部に依頼しましょう。
提出期限
「再就職手当」の申請期限は、原則就職日の翌日から1か月以内です。
ただし、雇用保険の「失業給付」は失業者の生活保護のためにあるものなので、申請期限を過ぎたとしても2年間の時効期間内であれば申請可能です。

転職当初は、何かとバタバタとしていて気づいたら1か月過ぎていたということもあるので、あきらめずに一度ハローワークに問い合せるようにしましょう。
「再就職手当」の受給中に再び失業した場合
「再就職手当」を受給できたとしても、再び失業するケースもあります。
次はその際の取扱いについて解説します。
再離職した場合
「再就職手当」の受給中に会社を退職することになった場合に、失業給付を受けられるのでしょうか。
この場合には、
があります。
「再就職手当」を受給していた期間がある場合には、受給した日数分は「基本手当」を受給したときと同様の取扱いとなることに注意してください。
受給できるのは給付期間内であって「基本手当の支給残日数」から「再就職手当に相当する日数」を差し引いた日数分となります。
就職後に得たスキルや将来の収入の方が断然価値がある
次の条件を満たしている人は、「基本手当」をすべてもらわずに早期に就職することをおすすめします。
・ 基本手当の日数が1/3以上残っている
・ 基本手当日額が6,165円(離職の年齢が60歳以上65歳未満の場合は、4,990円)を上回らない
・ 再就職手当の受給要件を満たしている
・ 6か月以上続きそうな仕事である
・ 前職より賃金が下がっている
上記の条件に当てはまらなくても、早期に就職することは自分自身のためにもよいことばかりです。
「もったいない」という精神は日本人にとって非常に大切ですが、時に自分の成長の妨げになることもあります。
目の前のお金よりも、就職後に得たスキルやそれによって生み出される将来の収入の方が、断然価値があるという認識を持っていただきたいと思います。(執筆者:社会保険労務士 須藤 直也)