こんな宣伝文句を聞いたことはありませんか。
昔は一部のお金持ちだけの悩みごとであった相続税も、今や一般的なサラリーマン世帯でも課税対象となる時代に突入しています。
そんな中で私たちは「節税」や「非課税」というパワーワードに魅了されてしまいがちですが、このようなうまい話には注意が必要なケースが多いです。
冒頭の相続時精算課税制度について、「非課税」という言葉がセットで使われている場合には要注意です。

目次
非課税とは、今もこの先もずっと課税されることがないもの
もし仮にあなたの収入が「非課税」と言われたら、どう感じますか。
私も含め、きっと誰しもがとても得をした気分になることでしょう。
それは「非課税」という言葉から「一切税金がかからない」ということを連想しているからだと思います。
「非課税」という言葉の解釈は税務上もまさにこの通りであり、その対象となる収入や取引そのものについては、現時点でも、そして将来的にも一切課税されることのないものであることを指しています。
相続時精算課税制度とは
では相続時精算課税制度とはいったいどんな制度なのでしょうか。
相続時精算課税を適用する場合には贈与者(財産を渡す人)と受贈者(財産をもらう人)がそれぞれ以下の通りでなければなりません。
・ 受贈者:贈与を受けた年の1月1日において、20歳以上の子、孫
つまり財産を渡す人ともらう人は、「親と子」や「祖父母と孫」のような関係でなければなりません。
このような要件を満たした場合には、通算で2,500万円までの枠内であれば、贈与税を支払うことなく財産を移せます。
なお「通算」であるため、1度に2,500万円分をまとめて贈与することも可能ですし、複数年かけてコツコツと贈与することも可能です。
また2,500万円を超えた場合には、超えた部分に対して20%の贈与税がかかります。
相続時精算課税は「税金がかからない」のか

上記の制度概要を見ると、「やっぱり2,500万円まで非課税じゃないか」と思われるかもしれません。
しかしこの制度には続きがあります。
確かに財産を贈与した時点では課税されることはありません。
しかし贈与者(親や祖父母)がいずれ亡くなった時、生前に相続時精算課税を適用し、子や孫に贈与した2,500万円分の財産については、亡くなった方の相続財産に加算されます。
つまり相続時精算課税を適用した財産は、すべて相続税の課税対象です。
「贈与の時点では課税しないけど、相続が発生したらその分も含めて課税します」という考え方に基づくものなので、「相続時」精算課税という名称がつけられているのです。
したがって「相続時精算課税=非課税」という誤解を持ってしまっていると、いざ相続が発生した時に納税資金の不足という事態を招きかねません。
相続時精算課税制度は「非課税」ではなく、単なる「課税の繰延べ」であることをご理解ください。
【参考】国はなぜこのような制度をスタートしたのか
相続時精算課税制度は平成15年に創設されました。
この制度の目的は、ズバリ「経済活動の活性化」にあります。
国としては、老後に備えて貯蓄傾向が増す親や祖父母世代よりも、就職や結婚・育児、マイホーム購入などの大きな支出を伴うライフステージをこれから迎える「現役世代」にお金や財産を持たせた方が、国全体での消費・経済活動は活発化すると考えました。
しかし従来通り贈与時に課税してしまっては現役世代への贈与が思うように進まないため、課税のタイミングを相続発生時まで先送りする「相続時精算課税制度」を創設しました。
節税のための制度でないことに注意
つまり「相続の時まで税金はかけないから、早めに子や孫に財産を移して経済を活性化させてください」というのが、この制度を通じた国からのメッセージです。
決して「この制度を使ってぜひ節税してください」というお人よしの制度ではありませんので、お間違えのないようご注意ください。
このように制度が作られた趣旨や目的を理解することによって誤った解釈を防ぐことにもつながりますので、ぜひ制度のねらいも併せて抑えておくようにしましょう。(執筆者:税理士 服部 大)