米国をはじめとした先進国では、コロナ禍下において株式相場が年初来の水準にまで回復する国が多くなってきました。
新興国の国々ではどういった株式水準にあるのでしょうか。
先進国よりも値動きが大きく、投資タイミングがよければリターンも大きい新興国への投資はいまの選択肢にあるのでしょうか。
株式相場、債券相場、為替相場の3つに分けて検証したいと思います。

目次
コロナ禍下のいま、新興国株式への投資は選択肢なのか
中国を震源地とした新型コロナウイルスは、欧米を中心とした主要先進国でも広がり、その後に新興国やアフリカ諸国にも広がりました。
先進国でも感染が広がり続けているなかで経済活動は世界規模で縮小しており、世界全体の今年の経済成長率はマイナスが予想されています。
そのような状況にあって、投資の観点から見た新興国はどの位置にいるのかを見ていきましょう。
ここでは新興国の中でも投資対象となりやすい、中国・トルコ・インド・ロシア・ブラジルの5か国を取り上げます。
先進国と新興国の株式相場
こちらのグラフは、先進国株式と新興国株式の直近1年間を比較したものです。

※先進国株式はMSCI ワールド・インデックス、新興国株式はMSCI エマージング・マーケット・インデックス
※2019.6.28を100として、2020.6.30までの毎月末インデックス騰落率
6月末時点で先進国株式指数は、1年前の水準およびコロナ禍以前の今年2月頃の水準を回復しています。
しかし、新興国株式指数は3月の下落幅も大きく、今年2月頃のコロナ以前の水準には戻っているものの1年前の水準からは-8%と下落したままです。
コロナ感染が拡大している地域でもあり、新興国全体で見ると本格的な株式相場回復局面に入ったとは言えない状況ですね。
新興国5か国の株式相場
日本でも投資対象となりやすい新興国5か国(中国・トルコ・インド・ロシア・ブラジル)に絞って見てみましょう。

※2019.6.28を100として、2020.6.31までの毎月末インデックス騰落率
1年前およびコロナ禍以前の今年2月の水準を回復しているのは、震源地ながら経済活動が本格的に始動している中国だけという皮肉な結果となっています。
その他4か国は軒並み下落傾向が続いており、中でも世界第2位の感染者数を出しているブラジルは冬の時期でもあり、まだ投資のタイミングではなさそうです。
そのため世界的な感染拡大に歯止めがかかり、経済再開が目に見えてくるまでは、株式相場が低空飛行を続ける可能性が高いと考えられます。
ブラジルの債券相場
株式相場と反対の値動きをすると言われる債券相場はどうでしょうか。
株式相場が最も下がっているブラジルのケースを見てみましょう。

※2019.6.28-2020.6.30、ブラジル10年国債の毎営業日利回り
7%前後で推移していた利回りは、3月になって最大9.84%まで急上昇(債券価格は急下落)しています。
現在も大きく利回りが低下する(債券価格が上昇する)局面ではなく、ブラジルではコロナ禍で株も債券も同時に売られたことが分かります。
新興国5か国の為替相場
最後に、新興国の為替相場を見てみましょう。

※2019.6.28を100として、2020.6.30までの対米ドル相場における各通貨騰落率
通貨統制されている中国を除くと、新興国はここ1年間で通貨も下落しています。
つまり、
です。
新興国への投資は二番底まで再下落したタイミング
以上、各データを見てきましたが、コロナ感染拡大の状況を見ても、株式相場が底を打って上昇局面にあると言えるデータが現時点では見つかりませんでした。
先進国、特に米国においても株価は上昇というより下落傾向が強いと予想されており、その余波が新興国に回ってくる可能性は高いと想定されます。
それでも大きなリターンを狙って新興国に投資する場合には、今ではなく、各データの二番底まで再度下落したタイミングでの投資をおすすめします。
また、新興国を複数組み入れた投資信託には十分に注意しましょう。
データで見ていただいた通り、新興国の中でもバラツキが大きく、投資信託ごとに組み入れている投資国の比率が違うからです。
しかも、為替変動を伴う投資信託の場合、株価が上昇しても為替が下落して思ったパフォーマンスにならない可能性もあります。
これら複合的な要素で変動する新興国向け投資は、まだ投資タイミングではないと思われますが、「積立NISA」のような少額を積み立てる投資手法であれば今から始めても1年後には良いパフォーマンスになると考えられます。(執筆者:銀行・証券・保険業界に精通 中野 徹)