遠く離れて住む親が亡くなり、実家の土地を相続するというのはよく聞く話です。
しかし相続した土地が農地だった場合、新たに所有者となった者が勝手に売買はできません。

目次
勝手に売買できない「農地法」とは
農地は「農地法」という法律で守られています。
農地とは登記上「田」または「畑」に分類される耕作を目的とした土地のことです。
日本の食料自給率は40%程度と高くないため、農地は原則的に耕作の用途のみに使われることになっています。
勝手に家を建てて売ったり、駐車場にしたりということができません。
したがって、農地を農地として使用する場合のみ売買が許可されます。
自治体の農業委員会が管理
許可をするのは農地の存する自治体の農業委員会です。
許可の種類にはいくつかあり、農地の売買(賃貸・贈与も)については「農地法3条」による許可が必要です。
実家近くの親戚や知人が運よく耕作目的で農地を引き取ってもいいと言ってくれ「これで万事解決」と言いたいところですが、譲受人側がいくつか要件を充たさなければなりません。
要件が複雑
特に厄介なのが譲受後の農地経営面積が一定面積以上必要という要件です。
都市圏であれば10アールが下限という自治体もありますが、北海道では2ha以上であることが原則になっています。
すなわち、相続した土地が面積要件を充たさなければ、譲受人となれるのは既にある程度の耕作地を持っている農業従事者に、まず限られてしまいます。
近隣ならまだしも、実家が遠く、知人もほとんどいない場合、譲渡も自分で耕作もできずで、結局休耕地となっている農地の増加が問題となっています。
ところが、相続した農地につき宅地として売買することも、要件を充たせば可能です。

「農地の転用」なら売買可能
登記上田畑ではなくなるので「農地の転用」といいます。
その要件とは、当該農地が「市街化区域」内にあること。
無秩序な市街地の拡大を防止し、計画的な市街化を図るため、一体の都市として総合的な整備や開発がされる「都市計画区域」内では、市街化区域と市街化調整区域に区分されています。
市街化地域はネットで確認できます。
参照:MapExpert
相続した農地が市街化区域、すなわち積極的に開発を推進する場所にあれば、不動産会社との取引が可能となります。
しかもこの場合農業委員会の許可は不要で、事前の届出だけで済みます。
また、市街化調整区域であっても将来市街化が見込まれる農地は一定の要件を充たせば許可を受ければ売買が可能です。
ただし要件はかなり厳しくなっています。
転用ができない場合
一方、転用ができない農地は現地の農業委員会や農協で相談に乗ってくれることもありますが、各都道府県の農地中間管理機構が行っている買い取りや仲介がお勧めです。
ここで農地を売却した場合、譲渡所得税等(住民税、国民健康保険税及び後期高齢者医療制度保険料等)の特別控除が受けられます。
控除額は機構が買い取るより仲介で個人が買い取る方がかなり高くなっています。
手数料はかかりますが売買価格の1~1.5%程度です。
売却にかかる税金
最後に農地売却の際にかかる税金については、譲渡益(売値-諸経費)に対し、所得税と住民税が加算されます。
所有期間が5年以下の短期譲渡所得では所得税率30%、住民税率9%です。
5年以上の長期譲渡所得だと所得税率15%、住民税率5%とほぼ半減するので、売却のタイミングは熟考した方が良さそうです。(執筆者:行政書士 橋本 玲子)