新型コロナウイルスの発生からわずか半年間で私たちの生活は一変しました。
たとえば、自宅勤務による残業減、職場休業による収入減、赴任終了による手当減により家計が破綻する寸前まで追い込まれた家族を筆者は見てきました。
緊急事態宣言が解除されて以降も感染者数は一進一退という感じで長期戦の様相を見せています。
尊い人命を奪うという直接的な影響だけではなく、明日の金銭を失うという間接的な影響も甚大です。
筆者は夫婦の離婚や別居、再婚などの家計相談を受けもっていますが、最も深刻なのはステップファミリー(連れ子がいる再婚家庭)です。
コロナで収入が減り養育費が支払えない
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今回紹介する秋葉真利亜さんの夫は離婚経験者で、一緒に暮らす夫婦間の子を養いつつ離れて暮らす元妻の子にも毎月6万円の養育費を支払っている状態です。
そうした矢先に発生したのがコロナ禍でした。
【家族構成と登場人物、属性(すべて仮名。年齢は現在)】
夫:秋葉康生(41歳)→ 会社員(去年の年収600万円)
妻:秋葉真利亜(42歳)→ 専業主婦 ☆今回の相談者
夫婦の子:秋葉真理恵(6歳)
*元妻:三浦理恵(39歳)→ パートタイマー(離婚時)
*元妻との子:三浦莉緒(13歳)
日本(支社)は解雇せず、今いる社員をどうにか守りたい。痛み分けで全社員の給与削減が決まり、主人の場合、夏のボーナスはカットです。冬もどうなることか。」
真利亜さんの夫は外資系飲食チェーンに勤務し、世界中で感染が広がっているコロナウイルスの影響が日本にも及んだ格好です。
コロナ前の夫の月収(手取り額)は30万円でボーナスは夏冬それぞれ40万円、毎月の収支は以下の通りですが、コロナ前も毎月3万円の赤字です。
毎月の赤字はボーナス月に補填できていたので特に問題はありませんでした。
しかし、コロナ後は頼みのボーナスがカットされたので、毎月3万円の赤字を垂れ流す危機的な状況に陥ります。
夫婦の貯金を取り崩したり、親戚に借金を頼み込むのも限界があります。
・ 家賃:12万円
・ 電気代、インターネット、水道:2万円
・ 夫の昼食代:2万5,000円
・ 食費:6万円
・ 携帯電話の料金:1万6,000円
・ 雑費:3万円
・ 元妻の子への養育費:6万円
計33万1,000円
このまま手をこまねていると養育費を満額支払うことは難しく、振込額を減らすしかありませんが、元妻が文句を言ってくるのは目に見えています。
正式に養育費を減額するには元妻の同意もしくは裁判所の決定が必要です。
遅かれ早かれ元妻と相対するのは避けられないので、真利亜さんは元妻に連絡をとり直接会う約束を取り付けました。
コロナによる収入減は上記の事情変更に該当することでしょう。
養育費をどのように計算するか
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再婚や養子縁組、子の誕生など複雑な事情を抱えるステップファミリーの養育費をどのように計算すればよいのでしょうか。
具体的には家庭裁判所が公表している「新しい算定方式」(判例タイムズ1111号291頁)を使うのですが、昨年12月に公表された平成30年度司法研究により用いる数字が変わりました。
1. 算定方式における基礎年収(年収の0.4倍)を算出します。
2. 大人を100、14歳以下の子どもは62、15歳以上の子どもは85とし、
夫の年収に係数を掛けると「元妻の子の生活費」になります。
3. 元妻の子の生活費 × 夫の基礎年収 ÷ 夫の基礎年収 + 元妻の基礎年収が妥当な養育費の金額です。
夫の年収は8月以降、600万円から480万円に下がります。
一方、元妻の年収ですが、元妻が素直に教えてくれるとは思えません。
離婚当時はパートタイマーだったので仮に100万円以下とします。
このことを踏まえたうえで元妻の子の養育費を計算すると毎月2万4,000円が妥当な金額であることが分かりました。
真利亜さんの家計の赤字は毎月3万円です。
養育費を毎月6万円から3万円に下げれば、赤字を解消できます。
元妻がすんなりと承諾してくれたわけではありませんが、紆余曲折の末、何とか説得することができたのです。
真利亜さん夫婦がコロナショックにより家計が赤字に陥り、貯金を使い果たし、元妻を説得することで赤字を解消するまでの流れです。
そのようなプライドが災いし、親戚に金の無心をしたり、会社に退職金の前借を頼んだり、消費者金融で高金利の借金をしたり…人間関係や経済状況を悪化させるケースも多いですが、まずは養育費は見直しが可能だということを知って、新しい家族のために頭を下げることも検討してください。(執筆者:行政書士、AFP 露木 幸)