今回はよく耳にする「デットクロス」のお話です。
減価償却費や借入金返済のなかで時々出てくるこの言葉ですが、いまだによくわかりにくいと思っている方も多いのではないでしょうか。
結論を先に述べますと最後は「キャッシュフロー」が回る回らないの話になります。
つまり資金繰り悪化のターニングポイントのことですが、以下で説明とその対応策を述べたいと思います。

目次
2つの費用
デットクロスの説明において、2つの重要な費用項目があります。
それは
(2) 借入金返済
の2つです。
また(2) は利息部分と元金部分に分けられ、利息部分は確定申告時に費用として算入できますが、元金部分は費用としては算入できません。
当然どちらもキャッシュフローとしてはマイナスとなるわけですから、元金部分は現金支出が伴うのに費用にできないということになります。
そこで
として以下で説明したいと思います。
相反する性格
(1)と(3)はそれぞれ相反する性格を持っています。
つまり

ということです。
ちなみに
(4)借入金返済(利息部分)とすると

ということになります。
つまり、経理上(申告書上)は(1) と(4) を計上します。
しかし、キャッシュフローでは(3) と(4) がマイナス要因になるということです。
(4)は共通ですからつまり(1) と(3) の金額次第で相反する結果が生じるということになります。
どちらが大きいか

それでは(1) と(3) の間で発生する関係について考えてみましょう。
減価償却費は定額法を適用し、借入金返済方法は元利均等方式を適用するものとします。
つまり元金部分が少しずつ増えてくる返済方法です。
この場合はBより納税額が減りキャシュフローのマイナス部分が減少します。
この場合はAより納税額が増えキャシュフローのマイナス部分も増える。
ということになります。
つまり
します。
つまり経費に計上できる(1) 減価償却費は変わらない(平成28年4月以降。それ以前の定率法の場合は年々減少する)のに、借入金返済の元金部分は徐々に増加するので(元利均等返済の場合)、互いの金額が逆転してしまうポイントがでてきます。
これがデットクロスで、つまりBのケースです。
よって(1) 減価償却費額=(3) 借入金返済(元金部分)額までであればデットクロスは起きないことになります。
デットクロスの影響は
デットクロスの状態はフルローン等自己資金をほとんど入れないケースでは、かなりの確率で発生しています。
平成28年4月以降に取得した物件については基本的に減価償却が定額法のみの適用となったので、初期の節税のうまみもなくなった代わりに、デットクロスの影響も小さくなるのかもしれません。
しかし引き続きデットクロス発生のリスクはあるわけで、ひとたびデットクロスの状態になると、手元にのこるキャッシュよりも申告所得のほうが多くなってしまいます。
不動産投資のなかだけではキャッシュフローが回らないのに、納税額は増えるというダブルショックの状態です。
これは空室がない場合でも発生しますので、最悪の場合いわゆる「破産」や「倒産」状態になるといってもいいかもしれません。
デットクロスへの対策

不動産投資においてキャッシュフローが回らなくなったのであればまずは
【対策1】 自己資金を投入する
ということになります。
つまり借入金(ローン)を繰り上げ返済します。
しかしもし「ない袖は振れない」という状態であれば、金融機関に対しての交渉が必要になるでしょう。
つまり
【対策2】 借入金(ローン)の返済期間の延長交渉
【対策3】 借入金(ローン)の金利の引き下げ交渉
【対策4】 他金融機関での借り換え(金利引き下げ、返済期間の延長)
【対策5】 元金均等返済への変更(元利均等返済の場合)
等が考えられます。
ただ【対策2】~【対策4】は簡単ではありません。
もちろん金融機関側の対応にもよりますが、できるだけ早期に交渉を開始すべきです。
【解決策5】については変更できたとしても効果はあまり大きくはありません。
それでも解決しない場合は
【対策6】 売却
を選択せざるを得なくなります。
ただ売却できても借入金(ローン)が完済できるとは限りませんので、注意してください。
日頃からの心構えや準備が大切です
デットクロスにならないためには、購入時に自己資金をなるべく多く投入し借入金の毎月返済額を下げることが1番です。
それができない場合は、購入後はできるだけ自己資金を積み上げておくことが必要です。
毎月の現金収支のプラス分はもちろん、購入時初期の所得税還付金などは散財せず、きちんと留保しておきましょう。
サラリーマンの場合は、日頃の給与からの積立など、地道な努力も必要です。
そうすればデットクロスや空室などのリスクに対応できます。
金融機関との条件変更の交渉は、ケースバイケースですが難しい場合が多く、交渉のストレス度合いも高いです。
できるだけそこまでいかない様に自己資金での解決を目指しましょう。
ローン残高が残る売却の場合は言わずもがなです。
日頃からの心構えや準備が大切です。(執筆者:不動産投資歴16年 堀江 優)