当初事業所得者しか受けられなかった持続化給付金は、給与所得や雑所得で申告したフリーランスからの声をもとに、対象者が拡大されました。
ただ給与所得や雑所得で申告したフリーランスには、事業所得者より厳しい要件が課せられ、新たな火種になっています。
フリーランス・副業の所得分類をめぐっては、税法上微妙な問題を抱えており、最近の多様な働き方に対しては分類の判断が難しいものも見受けられます。
新型コロナの支援制度に関して、要件を事業所得は対象で雑所得は対象外などと単純に分けたために、減収しているのに支援を受けられない雑所得者も出てきています。
多くの社会保障制度には税法上の所得に基づいた制限がありますが、多様な働き方に対応した所得分類が求められているのかもしれません。
目次
給与・雑所得者向け持続化給付金の要件

給与・雑所得者向けの持続化給付金に関しては、事業所得者には無い下記の要件が追加されました。
・ 事業所得が全くない
・ 正社員ではない
・ 健康保険の被扶養者ではなく、国民健康保険に加入している
このうち、被扶養者非該当・国民健康保険加入要件が強く批判されました。
必要書類
事業所得者に求められていた確定申告書控・売上台帳・通帳の写し・本人確認書類に加え、下記の書類が必要になりました。
・ 源泉徴収票(給与所得)支払調書(雑所得)・業務委託契約書・通帳の写しのいずれか
・ 国民健康保険の保険証
数々の救済策から外された雑所得の減収
新型コロナの特例をめぐっては、生業を雑所得で申告することを想定しておらず、雑所得の減収が対象外となる救済制度が目立ちました。
・ 国民健康保険料(税)の減免
・ 国民年金保険料の全額免除・一部免除
・ ひとり親世帯臨時給付金(家計急変によるもの)
ただ所得税法では「事業」とは別に、事業には至らない程度の「業務」という概念もあり、事業所得・不動産所得・山林所得のほか雑所得も業務から生ずると考えられています。
例えば仮想通貨・民泊の所得は近年国税庁も主に雑所得に該当するものとして紹介しており、いずれも「雑所得を生ずべき業務」という発想がありました。
また勤労学生控除の要件となる「勤労による所得」には、雑所得も含まれます。
さらに当たり馬券の払戻金は一時所得ですが、裁判の判決を基にして、精緻な分析に基づいて当てた馬券の払戻金は「営利を目的とする継続的行為」にあたり、業務によって生じた雑所得として認められるようになりました。
なお業務による雑所得は、副業解禁が原因と考えられますが政府与党の税制専門家が重要性を認識するようになり、令和4年からは事業所得に準ずる扱いもされるようになります。
令和2年分の確定申告結果が令和4年分の申告に影響を与えるため、確定申告書様式も変更される方向です。

フリーランスが生業とするような業務が「営利を目的とする継続的行為」にあたり雑所得として申告されていたことが、経産省・厚労省の制度設計から抜け落ちていたように思えますし、継続的な営利行為・勤労という税法概念も踏まえていないように見えます。
専属的な働き方に使える家内労働者等の特例
内職を行う家内労働者向けに、給与所得控除額の最低額(令和元年まで65万円、令和2年以降は55万円)だけ事業所得や雑所得を下げられる「家内労働者等の必要経費の特例」があります。
この特例は名称が時代に追い付いているといえず、また給与所得・事業所得・(公的年金等以外の)雑所得の中で複数の所得があると、計算が煩雑になります。
さらに公的年金等以外なら業務と関係ない雑所得があっても、経費額が55万円から減らされるのは、煩雑を通り越して問題だとすら感じられます。
シルバー人材センターから業務を受注する高齢者に利用実績があり、一社専属で業務委託契約を結んでいるような(正社員雇用に近い)フリーランスも利用できますが、多様な働き方の時代に使い勝手が良い特例といえるのかは疑問の余地があります。
家内労働者の特例が使える雇用類似のケースは、所得を新設した方がいいのかもしれません。
新たな所得分類の必要性
働き方が多様化していく中で、新たな所得分類があってもおかしくありませんでした。
持続化給付金その他コロナ救済制度の要件をめぐる大混乱で、余計にその必要性が生じてきているといえます。
給与所得と事業所得・雑所得の中間的所得
家内労働者等の要件には、家内労働者だけでなく
・ 特定の人に対して継続的に人的役務の提供を行うことを業務とする人
というものがあり、働き方多様化でこの要件を満たす人のほうが増えているように感じます。
家内労働者等の特例を使える継続的人的役務提供に対しては、もはや所得の新設があってもいいように思います。
このことで家内労働者等特例の使い勝手が良くなるだけでなく、雇用に近い業務委託契約を結んでいるところでも、フリーランスが給与所得で申告するようなことも防げるように感じます。
また「特定の人に対して継続的に人的役務の提供を行う」ことによる収入が大きく落ち込んでいるのならば、減免・給付などの支援対象とせざるをえないはずです。
事業所得と雑所得の中間的所得
また令和4年から現預金関係の記帳義務を導入しようとする雑所得(2年前の収入300万円超の場合)や、生業の雑所得に関しては、「営利を目的とする継続的行為」によるとはいえ雑所得という扱いが疑問です。
生業に関しては所得の新設までいかずとも、確定申告書様式の改正とあわせながら雑所得として申告しないよう周知するだけでもいいのかもしれません。
一方で収入300万円超は、雑所得のうち「業務」を対象とする基準のわかりにくさもあるので、記帳義務を課すのなら別の所得を新設してもいいように思ったのですが、確定申告書様式の改正で雑所得に「業務」という区分が加わる方針です。
確定申告書第一表で業務区分が新設されるからには、今後救済制度を設ける際にこの新区分を考慮した設計を望みたいです。(執筆者:石谷 彰彦)