相続が発生した場合には相続税がかかる場合があることはほとんどの方がご存じのことでしょう。
しかし、「家族信託を利用する場合にどのような税金がかかるのか」をご存じの方は少ないのではないでしょうか。
たとえば、
・ 家族信託で持ち家の権利を家族に移した場合に贈与税がかかるのか
・ 委託者が亡くなった時点で相続税がかかるのか
・ 税金はかからないのか
を正確に理解している方は少ないと思います。
そこで今回は、家族信託を利用すると、「どのような場合に」、「誰に」、「どのような税金がかかる」のかを解説します。

目次
基本的には「受益者」に税金がかかる
誰にどのような税金がかかるのかを説明する前に、家族信託における登場人物を整理しておきましょう。
家族信託に登場する人物
家族信託には、次の3種類の立場の人が登場します。
所有財産の管理を他の人に信託する人
【受託者】
委託者からの信託により、委託者の所有財産を管理する人
【受益者】
委託者の所有財産から発生する利益を受け取る人
たとえば、父親が所有するアパートの管理を長男に託し、賃料収入は母親が受け取ることとした場合、3人の立場はそれぞれ次の通りです。
長男:受託者
母親:受益者
この3者のなかで、基本的に税金を負担しなければならないのは「受益者」です。
なぜなら、課税には「実質所得者課税の原則」(所得税法第12条)というものがあるからです。
「実質所得者課税の原則」とは、財産の名義人とその財産から発生する利益を受ける人とが異なる場合には、利益を受ける人に課税されるという原則のことです。
家族信託では信託財産の名義は「受託者」に移りますが、利益を受けるのは「受益者」です。そのため、基本的には受益者に税金がかかります。
ただし、税目によっては受益者以外の人に課税されることもあります。
「どのような場合に」、「誰に」税金がかかるのか

それでは、税目ごとに「どのような場合に」、「誰に」税金がかかるのかをみていきましょう。
相続税がかかるケース
家族信託で信託契約を結んだ時点では、まだ相続税は発生しません。
相続税が発生するのは、委託者が亡くなったことによって受益権が相続人に移転した場合です。
たとえば、父親が委託者でかつ受益者であり、長男が受託者である場合、信託契約で「委託者が死亡すると受益権が長男に移転する」と定めていれば、父親が亡くなった時点で長男に相続税がかかります。
贈与税がかかるケース
贈与税がかかるのは、信託契約で委託者以外の人を受益者に指定した場合です。
その時点で信託財産から発生する利益を受ける権利が委託者から受益者に移転するからです。
たとえば、父親が委託者で長男が受託者の場合、当初から長男を受益者に指定すれば信託契約を結んだ時点で長男に贈与税がかかります。
この場合、後に父親が亡くなったときには、長男は既に贈与税を支払っているため、改めて相続税が課税されることはありません。
なお、父親が委託者でかつ受益者であり、長男が受託者である場合には父親に贈与税が発生することはありません。
なぜなら、この場合は信託契約の前と後とで利益を受ける人が同じであるため、形式的に財産の名義が長男に移っても贈与とはみなされないからです。
譲渡所得税がかかるケース
受益者が有する「受益権」は財産的価値のある債権なので、売買することが可能です。
受益権を他人に売却した場合には、売却益に応じて受益者に所得税と住民税がかかることがあります。
信託中の所得税・住民税がかかるケース
信託中は、信託財産から発生する利益に対して、所得税および住民税が受益者にかかります。
委託者が所有するアパートから賃料収入がある場合には、受益者に不動産所得が発生するので所得税及び住民税がかかります。
登録免許税がかかるケース
信託財産の中に不動産がある場合には、信託契約を結んだ時点で不動産の所有権を委託者から受託者に移します。
不動産の所有権移転登記をする際には譲受人、つまり受託者に登録免許税がかかります。
固定資産税がかかるケース
信託した不動産にも固定資産税はかかります。
固定資産税は受益者ではなく、受託者に請求されます。
これでは受託者の負担が重くなるうえに、受益者にとっても確定申告で固定資産税を経費として計上することができないという不利益があります。
そのため、信託契約において、受益者が固定資産税を負担することを定めておくことが重要です。
税金の問題も考慮して信託内容を設計する
家族信託では、基本的に「受益者」に税金がかかるという原則をまず覚えておきましょう。
ただし、信託の内容によっては相続税がかかるのか贈与税がかかるのかが異なる場合もありますし、財産の種類によってはその他の税目も問題になってくることがあります。
家族信託を利用する際には、税金の問題についても専門家に相談して信託内容を設計するようにしましょう。(執筆者:元弁護士 川端 克成)