認知症が心配になってくる高齢の親がいる世代では、万一の時の親のため、自分たちのための成年後見人制度に興味がある人が多いと思います。
そんな後見人(任意・法定ともに)になれるのは親族か専門家だけという訳ではありません。
実は「市民後見人」という制度があるのです。

目次
市民後見人とは
市民後見人制度は、厚生労働省が後見人制度の普及と、後見人にふさわしい人材を育成することを目的として、老人福祉法の一部を改正して誕生しました。(法第32条の2を新設。平成24年4月1日施行。)
後見される人(被後見人)の親族や関係者でなく、司法書士などの専門家でもないいわゆる一般市民が後見人を務められるというものです。
もちろん誰でもができる訳ではなく、自治体などが行う養成研修を受けて後見人制度について十分な知識を得たとされる人の中から自治体が成年後見人等として推薦し、裁判所が選任することで初めて市民後見人となれるのです。
研修には基礎研修と実践研修があり、その後後見活動のサポートを1年ほど経験したのちに推薦を受けるというのが大体の流れです。
当然ながら後見人、被後見人とも同じ地域(自治体)に住む人同士での後見活動となります。
市民後見人は原則ボランティア
市民後見人の業務は専門家同様「財産管理」と「身上監護」です。
具体的には預貯金を管理して施設などへの支払いをする、定期的に本人の様子を見に行く、必要であれば入院などの手続きを本人に代わって行う、という感じです。
ただし専門職ではないということもあり、あまり複雑な事案を任されることはありません。
そして、ここが重要なのですが、専門職の法定後見人が月額2万円程度とされているところ、市民後見人は原則「無報酬」なのです(経費のみ支給)。
自治体によっては時間給を支払うところもありますが(品川区の社会福祉協議会など)たいていの自治体では市民後見人をボランティア活動と捉えているのです。
費用節約のために市民後見人をリクエストできるか

市民後見人制度は財産があっても身寄りの全くない人や、生活保護を受けたり貯えがなかったりという人への後見業務を想定しています。
また、一般的に法定後見人には後見監督人がつきます。
市民後見人の場合は監督の役割を社協などが果たすので、本来かかる監督費用も原則としてかかりません。
では、必要が生じて親に法定後見人をつけることになった際、子が後見人に報酬を払いたくないからと、家庭裁判所に市民後見人をリクエストすることはできるのでしょうか。
答えはNOです。
市民後見人は先述のようにあくまでも身寄りのない人や生活困窮者を対象とした制度ですのでご注意ください。
研修を受けると結果的に費用節約になる可能性も
ただし、自分の親族に後見人が必要になるということは将来ありえることです。
そのためにあらかじめ知識を得たい方、業務を経験したい方にとっては市民後見人制度を知ることは有意義です。
市民後見人になることを目的としない人でも研修が受けられる自治体もあるようです。
法定後見人に親族を、と家庭裁判所に希望しても結果的に専門職が選任されやすいのは、親族側の後見に関する知識が乏しいというのも一因です。
研修を受けた、あるいは市民後見人に登録していることで、自らを親族の法定後見人としたいとの希望が通りやすくなる可能性はあると考えます。
やや遠回りですが、後見人費用をかけずに済ませられるかもしれません。(執筆者:行政書士 橋本 玲子)