親が亡くなった後、通帳の残高を調べてみたら、複数回にわたって何百万円もの預金が引き出されていたということも珍しくありません。
相続人によって、被相続人の生前に預金が引き出された場合には、遺産の使い込みとして問題となることがあります。
今回は、使い込まれた遺産を取り戻す方法について説明します。

目次
遺産の使い込みかどうかを特定する
被相続人の生前に預金が引き出されたとしても、必ずしも常に使い込みがあったといえるわけではありません。
多額の預金が引き出された場合であっても、被相続人から生前贈与として相続人がお金をもらうこともあります。
被相続人から頼まれて預金を引き出したということもあります。
遺産の使い込みとなる典型的な事案は、被相続人に無断で預金を引き出したという事案です。
遺産の使い込みを特定する方法
まずは、預金の引き出しが被相続人に無断で行われたかどうかを特定する必要があります。
(ア) 預金の出金状況の特定
まずは、いつ、いくら預金が引き出されたのかを特定する必要があります。
相続人であれば、単独で金融機関から被相続人の預金口座の取引履歴などを取得できます。
被相続人と取引のあった金融機関に出向き、取引履歴の照会をしましょう。
(イ)誰が出金したかを特定
次に、被相続人の預金を誰が引き出したのかを特定する必要があります。
遺産の使い込みをした人物が自ら使い込みの事実を認めることはないでしょうから、言い逃れできないような証拠を集める必要があります。
被相続人が認知症で外出もできないような状況であった場合には、生前に通帳を管理していた者が出金をした疑いが強まります。
また、金融機関の窓口で引き出した場合には、払戻請求書を記載しますので、払戻請求書の筆跡から推認することもできます。
ATMでの出金の場合には、防犯カメラの映像で特定できると考える方もいるかもしれません。
普通、金融機関から防犯カメラの映像の開示を受けることは困難ですので、その方法はあまり期待できません。
ただし、被相続人の生活する地域から離れたATMで出金がなされたという事実は、被相続人以外の者によって出金がなされたという証拠ですので、預金の取引履歴については、細かく分析することが重要です。

(ウ)被相続人が認知症であったかどうか
誰が預金の使い込みをしたかどうかを特定したとしても、その者から、被相続人から生前贈与を受けたなどと反論されてしまっては、遺産を取り戻すことは困難にです。
そのような場合には、生前の被相続人の介護記録などから被相続人が認知症であったかどうかを調査することが有効な手段となります。
なぜなら、認知症の人は、有効な法律行為を行えず、生前贈与を受けたという反論は成り立たなくなるためです。
遺産を取り戻す方法
遺産の使い込みの証拠を集めた場合には、次の段階として、使い込んだ者に対して、遺産の返還を求めます。
まずは、使い込んだ者と直接交渉するなどして遺産の返還を求めます。
これで任意に返還を受けられたらよいのですが、使い込んだ者が使い込みを認めるということはあまり期待できないため、任意での返還を求めることは難しいケースが多いです。
次の手段としては、裁判を提起して、裁判の中で解決するということになります。
遺産の使い込みをした者に対し、返還を求める場合、法律上は、不法行為と不当利得の2つの法律構成が考えられます。
どちらで構成するかによって、証明する内容には大きな差はありませんので、時効期間との兼ね合いで選択するとよいでしょう。
早めに相談
使い込まれた遺産を取り戻そうとする場合には、場合よっては、裁判前の保全手続きを行う必要がある場合もあります。
使い込まれた遺産を取り戻す手続きは、専門的な判断が必要です。
遺産の使い込みの疑いが生じた場合には、早めに相談しましょう。(執筆者:弁護士 山本 静人)