失業した時、再就職した時、育児・介護で休みたい時、高齢になり給与が下がった時、自己啓発をしたい時などさまざまな場面で使えるのが雇用保険です。
給与から差し引かれる保険料も安いのが特徴です。以下のような給付金が支給されます。
雇用保険は、毎年8月に失業等給付の上限額・下限額などを見直しますが、令和2年も金額の変更や法律改正が行われました。
どのような改正があったのかを確認していきましょう。
目次
令和2年8月1日以降の退職から「月80時間以上労働」の月も雇用保険被保険者期間(加入期間)に入るようになりました
会社を辞めた後に失業等給付(雇用保険から基本手当)をもらうには条件があります。
(イ)労働の意思・能力があること
(ロ)離職してから職業についていないこと
(ハ)離職日より前2年以内に、雇用保険被保険者期間(加入期間)が通算して12カ月以上あること(倒産、解雇、賃金未払いなど特別な事情があるときは6カ月以上の雇用保険被保険者期間(加入期間)でOK)
上記の条件(ハ)の内容に関わることの改正です。
令和2年8月1日以降に離職した人からは、賃金支払い基礎日数(給料をもらった日)が11日以上の月が12か月以上ない場合、「労働時間月80時間以上」だった月を被保険者期間(加入期間)として算入できることとなりました。
たとえば、以下の職歴のAさん
(1) 平成30年9月1日から平成31年1月31日(1日7時間で月11日勤務のパート):5か月
(2) 令和元年7月1日から令和元年9月30日(1日9時間で月10日勤務のバイト):3か月
(3) 令和2年3月1日から令和2年8月31日(1日5時間で月16日勤務のパート):6か月
(2) の期間後、令和元年9月30日に自己都合で退職した時に雇用保険被保険者期間(加入期間)が合計12か月なかったことから、離職票をハローワークへ持って行っても基本手当(失業等給付)は受けられず、令和2年8月31日に退職してから再度ハローワークへ離職票3枚(3社分)を持っていき、基本手当(失業等給付)の手続きをします。
(2) の職歴の「1日9時間で月10日勤務のバイト」が「月11日以上は勤務していないが月80時間以上の労働時間の月」として、3か月間、雇用保険の被保険者期間として認められる可能性が高くなりました。
雇用保険に入れる条件
退職後に失業等給付を受けるには、働き始める際に雇用保険に加入し、辞める際に離職票を会社に書いてもらわなければなりません。
そもそも働き初めに雇用保険に入れる条件とは何でしょうか。
下記の(1) のどれかと(2) の2点の条件を満たした場合に雇用保険に入れます。
採用された際に、または今働いているところで労働条件をよく確認しておきましょう。
(1) 31日以上引き続き雇用されることが見込まれる者。具体的には、次のいずれかに該当する場合
・ 期間の定めがなく雇用される場合
・ 雇用期間が31日以上である場合
・ 雇用契約に更新規定があり、31日未満での雇止めの表示がない場合
・ 雇用契約に更新規定はないが同様の雇用契約により雇用された労働者が31日以上雇用された実績がある場合
・ 働き始めるときに31日以上の雇用が見込まれない場合でもその後、31日以上雇用されることが見込まれることとなった場合には、その時点から雇用保険が適用
(2) 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
雇用保険は会社側も労働者側も保険料が安いので、ぜひ、会社に手続きしてもらいましょう。
もちろん、働き初めではなくても今現在要件を満たしていることがわかれば、雇用保険に入れてもらえます。
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日雇派遣も雇用保険に入れる
上記の雇用保険の条件を見て「31日以上の雇用見込みなんてないし、31日以上働いた実績もないし」と言う方でも「日雇い労働被保険者」にはなれる可能性はあります。
31日以内の期間を定めて働いている場合にも「日雇い労働被保険者」になれるので、お住いの地域のハローワークで「日雇い手帳」をもらってきましょう。
派遣会社から日雇い派遣の賃金が支払われる際に、日雇い手帳を提出して派遣会社から印紙を貼って消印をもらいましょう
日雇い手帳の印紙が2か月で26日以上であれば翌月ハローワークから「日雇い労働給付金」をもらえます。
なお、同じ事業主の下で31日以上日雇い派遣を続けていたり、2か月続けて18日以上日雇い派遣で働いている場合には雇用保険の「一般被保険者」になれる可能性があります。
令和2年8月分以降の雇用保険の失業等給付金額の上限額、下限額が変更になりました
雇用保険には失業等給付(基本手当等の求職者給付、雇用継続給付、育児・介護休業給付など)がありますが、毎年8月分以降に金額が見直しされています。
基本手当は俗に「失業手当」と言われている、会社退職後に受けられる手当です。
令和2年度は8月の他、3月にも上限額・下限額の変更がありました。
令和2年8月分より、基本手当日額(失業等給付)の上限額が変更になります。
【基本手当日額上限額が変更】
30歳未満:6,850円(6,815円から35円上げ)
30歳以上45歳未満:7,605円(7,570円から25円上げ)
45歳以上60歳未満:8,370円(8,335円から35円上げ)
60歳以上65歳未満:7,186円(7,150円から36円上げ)
最低支給額(下限額):2,059円(2,000円から59円上げ)
基本手当の支給は最初は3週間分(待機期間7日あるので)、その後は4週間ごとに支給されます(待機期間後給付制限があることもあり)。
一般的には失業等手当は給与の6割と言われていますが、上記のように支給上限額の制限があります。
たとえば、年齢43歳、年収800万円(月給55万円、賞与120万円)の場合でも、基本手当日額上限は8,370円なので、4週間分であれば23万4,360円が最高額です。
基本手当の給付日数の延長(特例延長給付)
令和2年6月に雇用保険法が改正になりました。
法施行日(令和2年6月12日)以後に基本手当の所定給付日数を受け終わる人は次の表の給付日数より60日(給付日数270日、300日の人は30日)給付日数が延長になります。
なお、就職困難者はもともと給付日数が長いので対象外です。
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・ 令和2年4月7日以前に退職:離職理由の如何を問わず60日延長
・ 令和2年4月8日~令和2年5月25日に退職:倒産等、解雇等、契約終了、疾病、転居伴う結婚、出産などの理由で退職した場合60日延長
・ 令和2年5月26日以降に退職:新型コロナの影響により離職を余儀なくされた場合60日延長
この特例延長給付(60日延長)は、ただ退職しただけでは受けられません。積極的に求職活動を行っている方が対象です。
そのため次の場合には、特例延長給付の対象とはなりません。
・ 所定の求職活動がなくて失業認定日に不認定処分を受けたことがある場合
・ やむを得ない理由がなく、失業認定日に来所しなかったことがある場合
・ 現実的ではない求職条件に固執する場合
・ 正当な理由なく、公共職業安定所の紹介する職業に就くこと、指示された公共職業訓練を受けることを拒んだことがある場合
令和2年10月より自己都合退職の給付制限期間が2か月に短縮
解雇や倒産等で会社を退職した場合、住所地のハローワークへ手続きに行ってから1週間の待機期間後に基本手当(失業等給付)が支給されます。
自己都合で会社を辞めた場合には、1週間の待期期間後3か月待ってからでないと基本手当は支給されません。
3か月待つ期間を「給付制限期間」といいますが、令和2年10月1日以降に退職した人は、正当な理由がない自己都合によって退職した場合でも「5年間のうち2回までは給付制限期間が2か月」になります。
自己都合で退職しても、ハローワークで手続き後2か月待てば基本手当を受けられるようになりました。
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令和2年8月分より、高年齢継続給付、育児・介護休業給付の上限額・下限額が変更になります
60歳過ぎに給与が下がった時、育児休業中、介護休業中にも一定要件で給付金が出ます。毎年8月に上限額下限額の見直しをしています。
令和2年3月にも上限・下限額が見直しされています。
高年齢雇用継続給付(令和2年8月1日以後の支給対象期間から変更)
60歳以降賃金が75%以下になったときに、最長65歳まで賃金月額の最高15%までの額が支給されるのが高年齢雇用継続給付です。
【支給限度額(上限額)】
8月以降:36万5,411円
3月~7月:36万3,344円
令和元年8月:36万3,359円
支給対象月に支払いを受けた賃金の額が支給限度額(36万5,411円)以上であるときには上限額までしか支給されません。
最低支給額(下限額)8月以降2,059円(令和元年8月~7月2000円)以下の場合には支給されません。
育児休業給付
出産後休暇が終わった後、原則1歳(最長2歳)までの育児休業中に月給が80%未満だった際には育児休業中、育児休業給付を受けられます。
開始後半年は賃金月額67%、それ以降は50%が支給されます。会社がハローワークに申請手続きをします。
【育児休業給付の支給限度額上限額(支給率67%)】
8月以降:30万5,721円(育児休業開始後の半年)
3月~7月:30万4,314円
支給限度上限額(支給率50%)
8月以降:22万8,150円
3月から7月:22万7,100円
介護休業給付
配偶者や父母、子等の対象家族を介護するための休業を取得した被保険者で、介護休業期間中の賃金が休業開始時の賃金と比べて80%未満に低下した人は介護休業給付を最長3か月受けられます。
支給上限額は次の通りです。
【介護休業給付支給限度額(上限額)】
8月以降:33万6,474円
3月から7月:33万4,866円
令和元年8月:33万5,067円
新型コロナウイルス感染症対応休業支援金
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「新型コロナウィルス感染症対応休業支援金」は、雇われている会社から休業手当を受け取っていない中小企業労働者への直接給付するという政府の目玉政策です。
新型コロナ感染防止や感染防止のため、中小企業で働く労働者が
です。
申請期限が延長されて令和2年4月から9月までの休業は令和2年12月31日、令和2年10月から3月までの休業は令和2年3月31日までです。
参照:厚生労働省
支給対象者
支援金支給対象者は令和2年4月1日~12月31日の間に、新型コロナの影響で仕事が減り、事業主の指示により休業した中小企業の労働者で、その休業に対する賃金(休業手当)を受け取れない人です。
申請方法
申請方法は、郵送(オンライン申請準備中)です。宛先は
です。労働者本人からの申請のほか、事業主を通じた申請も可能です。
必要書類
必要書類は次の通りです。
「休業給付金・支援金支給申請書」
「本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)」
「口座確認書類(預金通帳、キャッシュカードなど)」
「休業開始前賃金および休業期間中の給与を証明できるもの(給与明細、賃金明細など)」
「支給要件確認書(事業主の指示による休業であること等の事実を確認。事業主の協力を得られない場合は事業主記入欄が空欄でも労働者からのみの申請可能、都道府県労働局から事業主に報告を求めるとのこと)」
会社の協力を得られない場合には、労働局から会社に照会が行きますので支援金の支給が遅くなることがあります。
実際に、雇っている会社が休業を認めずに支援金が不支給になったケースもあるそうです。
厚生労働省では会社に休業手当を支払い雇用調整助成金を使うよう要望していますし、会社が休業手当を支払っていないことを認めたがらないケースもあるようです。
令和2年10月1日時点の支援金支給申請は累計43万1,572件で、支給決定件数が21万1,950件なので支給申請のうち、支給決定は今のところ半分以下です。
いまだに「休業手当を支払っていない」ことを認めていない会社が多い表れなのでしょう。
新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金コールセンター0120-221-276(平日8時半より、土日も受付)
参照:厚生労働省
支給申請は複数回可能
今年度はコロナ失業などが多く、会社の証明が取れずに支給が遅くなったり、不支給になることもあるようですが、支給申請は複数回可能です。
あきらめずに令和3年3月31日までに申請をしてみましょう。(執筆者:社会保険労務士 拝野 洋子)