前編では「在職定時改定」の仕組みと年金がどのくらい増額されるかについて見てきました。
後編では前編の内容を踏まえて
・ どのタイミングで年金額が改定されるのか
・ 改定されたことで在職老齢年金の仕組みによって年金の支給停止に該当しないか
という2つのポイントを考えてみたいと思います。

目次
年金はどのタイミングで増額されるのか
「在職定時改定」は1年毎に年金額が改定される仕組みですが、実際にはどのタイミングで改定されるのでしょうか。
年金改正法によれば、
と定められています。
65歳到達後の最初の改定はその人の誕生日によって厚生年金の加入期間が1年未満になることはありますが、66歳以降は丸々1年分の加入期間が年金額に反映されることになります。
在職老齢年金との関係
65歳になると老齢年金の支給が開始されますが、65歳以降も就労して収入を得ている場合にはその収入が一定額以上になると年金支給が停止されます。
この仕組みを「在職老齢年金」と言い、具体的には次の通りに支給停止されます。
年金支給停止の基準
年金支給停止額の計算
要約すると、
というものです。
「在職定時改定」との関係で注意が必要な点は、
ということです。
年収によって年金支給停止はどうなるのか
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老齢年金は個人ごとの加入期間によって金額が異なるため、どのくらいの年収だと年金支給停止になるのかは一概には言えませんが、敢えて年金額等を想定すれば目安となる年収を考察することは可能です。
ここでは、次の想定に基いて試算をしてみました。
年金額等の想定
【老齢年金の受給額】
11万円/月 ※1
【在職定時改定の増額率】
月収の6.5% ※2
※1 日本年金機構ホームページより、令和2年度「夫婦二人分の老齢年金の標準的な年金」月額の半額と想定
※2 厚生労働省の年金法改正に関する検討資料のうち「月収20万円の場合にプラス1万3,000円」とある部分を単純な増額率に換算
試算例
年収420万円の場合を例に計算します。
就労によって得られる収入月額 + 老齢年金本体の月額
420万円 ÷ 12か月 = 35万円/月
35万円 + 11万円 = 46万円/月
在職定時改定により増額される年金額
35万円 × 6.5% = 2万2,750円/年
2万2,750 ÷ 12か月 = 1,896円/月
70歳到達時点の収入と年金の月額合計
46万円 +(1,896円 × 5年)= 46万9,480円
上記の試算では、年金支給停止の基準額47万円にはギリギリ届くことはありませんでした。
あくまでも目安にすぎませんが、試算結果から
であろうと思われます。
資金プランや65歳以降の働き方を見直す
社会経済の構造変化が激しい現代では、老後の生活に必要な資金プランも「現役の時に老後資金を貯蓄し、公的年金と組み合わせながら老後の生活を設計する」から「65歳以降も可能な限り就労して収入を得つつ、老後資金をより増やしていく」ことへと急速に変化しつつあります。
「在職定時改定」は2022年4月に施行される予定です(実際の年金額改定は、同年10月から)。
現在60歳以上で就労されている方にとっては目の前に迫った大きな改正と言えますので、改めてご自身の資金プランや65歳以降の働き方などを見直してみましょう。(執筆者:人事労務最前線のライター 今坂 啓)