上場企業の買収などで実施される株式公開買付(TOB)ですが、2000年代前半には敵対的TOBの構図が大きく注目されました。
2020年は携帯電話に対する新政権の方針が影響し、NTTドコモ(証券コード:9437)をNTT(9432)が完全子会社化することに伴い、9月30日~11月16日にかけてTOBを実施することが注目されました。
ほどなく、島忠(8184)に対するDCMHD(3050)とニトリHD(9843)のTOB合戦も起こっています。
(上場廃止も視野に置いた)完全子会社化に伴うTOBでは、応じないと強制的に手放す羽目になることも予想されるため、価格条件が良ければ手続きしようかという気にもなるでしょう。
問題はNISAの投資先がTOBの対象となった場合、非課税の特典が受けられることもあれば課税になってしまうこともあり、損得が分かれてしまうことです。
TOBに応じることによる売却で、所得税・住民税がどのようになるか整理していきましょう。
目次
「公開買付代理人」でNISA口座を開設しているかで変わる

TOBは、公開買付代理人となった証券会社が手続きを実施します。例えばNTTドコモのTOBは、三菱UFJモルガン・スタンレー証券が公開買付代理人として実施しています。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券でNISA口座を開設してNTTドコモ株に投資していれば、TOBで株式を買い取ってもらっても非課税収入になりますが、三菱UFJモルガン・スタンレー証券以外のNISA口座で投資していた場合は、TOBで売却すると課税です。
なぜこんなことになるのかというと、TOBは公開買付代理人の証券口座でしか手続きできないからです。
公開買付代理人以外の証券口座に保有していた株は、公開買付代理人の会社で一般・特定口座を開設して移管しないとTOBの手続きができません。
通常売却の精算ならNISA株は必ず非課税
公開買付代理人以外のNISA口座で確実に非課税の恩恵を受けるためには、TOBより低い価格になることは覚悟の上で、通常通りに売却するのが確実です。
なおTOBでは売却手数料がかかりませんので、手数料がかかる分の損はあると理解してください。
TOB用口座は特定・一般いずれにすべきか
公開買付代理人以外の証券口座で投資した場合は、TOB用に公開買付代理人の証券口座を開設しなければいけませんが、特定口座と一般口座があり、特定口座は源泉徴収ありとなしが選べます。
特定・一般いずれにすべきかということですが、まずNISA口座を開設していた証券会社において、NISA→課税口座(特定または一般)の振替が行われます。
そして一般口座に振り替えたものは移管先のTOB用口座も一般、特定口座に振り替えたものは移管先のTOB用口座も特定としなければいけません。
なお特定口座は源泉徴収有りと無しが選べますが、この有無に関してはTOB用口座と元々の口座で一緒でなくても構いません。
源泉徴収有無の違い
課税口座でTOBに応じることのマネーへの影響は、源泉徴収ありの特定口座と、源泉徴収なしの特定口座・一般口座で異なってきます。
源泉徴収なしの特定口座・一般口座では、売却段階ではNISA口座と同様に利益が得られます。
しかし課税されるため、原則として確定申告が必要になり、年収2,000万円以下のサラリーマンで本業給与・退職以外の所得1円以上20万円以下の場合は住民税の申告が必要です。
損失を出してTOB成立すれば、確定申告の必要はありません。
一方で源泉徴収ありの特定口座で売却すると、黒字であれば所得税・住民税合わせて2割程度徴収されるため売却収入が少なく入金されます。
ただこの段階で徴収されるため、確定申告の必要はありません。
源泉徴収ありの注意点
源泉徴収ありの特定口座で徴収された所得税等は、他の口座で損失が生じている場合、もしくは過去3年間の損失を繰り越している場合は、申告義務がないとはいえ確定申告を行うことで還付を受けられることがあります。
ただし損失を引き切れる場合は、申告することで国民健康保険料・後期高齢者医療保険料・介護保険料を上昇させる恐れもあります。
また、住民税所得割額を所得制限基準とする社会保障制度で不利になることもあります。
これらは、黒字が生じている口座の確定申告を行わないか、もしくは確定申告を行ったうえで住民税申告不要の申し出を行うことで回避できます。
この回避策をとれる点は、源泉徴収あり特定口座のメリットと言えます。(執筆者:石谷 彰彦)