自宅や相続した家を売りたいという相談を多く受けますが、
「リフォームして売って利益を得たい」
という声に私は基本的に「リフォームはするべきでない」とお答えしております。

目次
家を売る際にするべきこと
「リフォームはするべきでない」理由は、リフォーム費用を買主から回収できない可能性が高いからです。
しかしながら、物件に何も手を加えずに売りに出せばよいとは思いません。リフォームをしない代わりに「修理、掃除」をしてください。
大切なのは、
です。
室内が荒れていて不潔では、中にすら入ってもらえません。私物が散乱し、キッチンやトイレが汚れていたら、新しい生活のイメージは膨らみません。
今回は、「自宅売却で損をしないため、リフォームをせずに売却する理由」をお伝えします。
・ 自宅を持っているが、両親の住居を相続した
という場合を対象にして、紹介します。
年に数件、中古物件を購入、売却して収入を得たい(副業にしたい)との相談もありますが、これは宅建業にあたります。
1年に2件以上の不動産を不特定多数の人に売約すると、宅建業者としての免許が必要との指導を過去に受けたことがあります(岐阜県庁)。
今回はこのような方は対象としません。
中古物件を売却する対象
中古物件を売却する対象は、主に2つに分けられます。
B. 不動産会社(再販業者)
A. マイホームが欲しい人(自宅購入希望者)
・ 基本的に新築より安い物件を望む人
・ 与信能力が相対的に低く、住宅ローンの借り入れ可能額が低い人
・ 手頃な価格で、立地を重視する人
・ 自身の思い通りにリフォームした物件に住みたい人
2019年12月のアットホーム株式会社の調査では、「リノベーション前提で中古住宅を購入した」と回答した人が77%に上ります。
その中の半数近くが「自分の好みに内装を変えたいと思う人」です。
この調査では、リフォームを「老朽化した建物を新築時の状態に戻すこと」、リノベーションを「大規模な工事を行い、住まいの性能を新築の状態よりも向上させ、価値を高めること」と定義しています。
リフォームよりリノベーションの要求が高いので、リフォームを行う前提の人は77%よりも多いと思われます。

B. 不動産会社(再販業者)
・ 転売をして利益を出したい不動産会社
・ 再販業者は定期的に中古物件を購入したい
再販業者は中古物件を安く買って、リフォームして販売します。
このビジネスモデルでは、たくさんの物件を購入・販売するほどコストが下がってきます。
次に、再販業者のビジネスモデルを取り上げます。
再販業者のビジネスモデル

再販業者は定期的に中古物件を購入します。「商品」の仕入ですが、それ以上の目的があります。
再販業者は場合によっては、価格が高く利益が薄い物件でも(場合によって損失が出ないのであれば)、中古物件を購入します。
再販事業を継続的に行うため、ステークホルダーである金融機関、不動産仲介業者、リフォーム会社と定期的な関係(発注)を保たないといけないからです。
A. 金融機関(融資元)
再販業者は中古物件の購入ごとに、金融機関からの融資を検討します。自己資金での購入には限界があります。
同時に再販業者は金融機関に、常に物件購入の案件を提案しなければなりません。
継続性があれば融資枠は拡大し、物件を購入する際の借入利息も下がっていきます。
しかし「条件のよい案件があるときの」スポット取引になると融資額は増えていかず、借入利息の交渉もできません。
再販業者は、仕入れ数を増やして利息を安くするために継続的に中古物件を購入します。
B. 不動産仲介会社
再販業者は不動産仲介業者に、リフォームした物件の売却を依頼します。同時に、仕入れ物件の依頼もします。
再販業者は不動産仲介業者に継続的な売却の依頼をすると、客付けにより便宜を図ってもらえると同時に、仕入れ物件(リフォーム前の中古物件)を優先的に紹介してもらえます。
購入物件(仕入れ)を再販業者に紹介した不動産仲介会社は、リフォームされた再販物件売却の仲介を独占的に行います。
仲介不動産業者は、1つの物件で2度の仲介ができます。再販業者にとって、仕入れと販売が1社で回ると業務が効率化します。
この流れを維持するために再販業者は物件を購入し続けます。
C. リフォーム会社
再販業者はリフォームという付加価値を付けて転売します。
再販業者は建設会社に定期的なリフォーム案件を発注し、コストを下げます。
自社でリフォームする会社は、住宅設備(キッチン、ユニットバスなど)の掛け率を下げるため、また、工事作業員(職人)の作業単価を下げるため、業務を定期的に発注します。
これによって工事単価を下げて、利益を確保します。
再販業者はリフォームが事前に行われている物件よりも、程度の良いリフォームすると見栄えする物件を好んで購入します。
なぜリフォームをしてはいけないのか

ここからは、自宅を売却する際に「なぜリフォームをしてはいけないのか」をそれぞれの視点で掘り下げていきます。
A. 自宅購入希望者
自宅購入希望者には、自分の思い通りにリフォームしたいという方が多いです。デザイン性、機能性の高い家に住みたいと思っているからです。
売主の「それなりのリフォーム」や業者への「お任せリフォーム(安価な設定)」が売主の希望に必ずしも叶うとは限りません。
また、デザイン性を追求するにはノウハウと相当のリフォーム工事が必要です。
最近ではリフォームの際に配管など見えない部分を入れ替えて、情報開示や瑕疵担保責任を付与するなどして、品質を担保しています(安心R住宅など)。

配管などの入れ替えは、住宅設備を解体して行わなければなりません。事前にリフォーム済でも、それを再度解体してリフォームします。
デザイン性・見えない部分の信頼性が大切な市場で、素人の方の中途半場リフォームは無駄になります。
B. 再販業者
前述の通り、仕入れた物件をリフォームして、付加価値を付けて転売するビジネスモデルです。
また、相場より安価にリフォームするため、定期的な発注や職人の囲い込みを行っています。
再販業者は一定期間に一定量のリフォーム工事を行わないと単価が割高になり、固定費が回収できなくなります。
従って、一定量の中古物件を仕入る必要があります。
再販業者は中古物件の売買を繰り返すなかで、地域、リフォームの仕様、客層等から独自のノウハウを蓄積します。
たとえば、「a地域はハイクラスの人が多く、高級な仕様のリフォームをしたほうがよい」「b地域は、予算の上限が限られるから、安価なリフォームをしたほうがよい」などです。
リフォームの仕様やデザインにもノウハウがあります。
ノウハウを有効活用するためにも、リフォームが可能な物件(事前にリフォームしていない物件)を求めます。
中途半場なリフォーム物件は割高で売れ残る
・ 単価を下げるために1軒でも多くの物件をリフォームしたい再販業者
・ 自社のデザインや販売ノウハウを活かして営業活動を行いたい再販業者
このような過酷な市場競争のなかで中途半場なリフォーム物件は、事前のリフォームを解体して再度リフォームされる可能性が高いです。
これが、売却希望者にリフォームを進めない理由です。(執筆者:金 弘碩)