あまり聞きなれませんが、国民年金から支給される年金に「寡婦年金」という年金があります。
年金制度の中で唯一「婚姻期間」が支給要件に含まれている珍しい年金です。
また、遺された妻が60歳から65歳に達するまでの間の「期間限定」の年金です。今回は、「寡婦年金」にフォーカスをあてて解説していきます。
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目次
「寡婦年金」とは
「寡婦年金」は、第1号被保険者の独自の給付制度です。
支給要件
(1) 死亡日の前日において、死亡日の属する月の前月までの第1号被保険者としての保険料納付済期間と保険料免除期間を合算した期間が10年以上ある夫が死亡
(2) 死亡の当時、夫と生計維持関係があり、かつ夫との婚姻期間が10年以上
(3) 亡夫が障害基礎年金の受給権者でないこと、老齢基礎年金の支給を受けていないこと
※(2) 事実婚でも対象ですが、一定の証明(健康保険の被扶養者になっていた場合はその証明や葬儀の喪主になっている場合はその証明など)が必要です。
他の年金との併給
まず、死亡を支給事由とする給付を整理しましょう。
「死亡一時金」と「寡婦年金」
「死亡一時金」と「寡婦年金」は選択受給(いずれか一方を選択して受給する)となるので、両方は受給できません。
「遺族基礎年金」と「寡婦年金」
そして、「遺族基礎年金」と「寡婦年金」も選択受給ですが、受給する時期が異なれば両方受給することも可能です。
たとえば、「遺族基礎年金」は障害を有しない子と生計を同じくする場合には18歳の年度末までしか受給できません。
しかし、その後時間が経過して、寡婦である妻が60歳に到達すると「寡婦年金」も受給できるということです。
「死亡一時金」と選択受給の際の注意点
「遺族基礎年金」と同様に「寡婦年金」は再婚した場合には受給権は消滅してしまいます。
よって、「死亡一時金」を受給せずに「寡婦年金」を選択したものの、60歳到達前に再婚した場合には「両方とも受給できなかった」ということが起き得ます。
「遺族厚生年金」と「寡婦年金」
「遺族厚生年金」と「寡婦年金」も選択受給の関係です。
よって、受給額を計算してどちらが多いかを確認しておくのが望ましいと考えられます。
しかし、「寡婦年金」は寡婦が60歳から65歳に達するまでの有期年金であるのに対して、「遺族厚生年金」は遺された妻が受給する場合に30歳以上であれば、期間の到来を持って消滅する年金ではありません。
従って、選択替えが可能です。(たとえば「遺族厚生年金」→「寡婦年金」→「遺族厚生年金」)
「寡婦年金」の受給額
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「寡婦年金」の受給額は、
です。
たとえば、20歳~60歳まで全て第1号被保険者であった場合の「老齢基礎年金」は約78万円ですが、「寡婦年金」はその3/4である約58万5,000円です。
「寡婦年金」受給の際の留意点
「寡婦年金」受給の際の留意点を見ていきましょう。
「在職老齢年金」
60歳以後も会社で働く場合には「在職老齢年金」を避けて通ることはできません。
しかし、報酬に応じて全部または一部が支給停止となる「在職老齢年金」の対象に「寡婦年金」は含まれません。
従って、「寡婦年金」の年金額が少ないからといって「老齢厚生年金」を選択して、その結果、報酬との兼ね合いで「老齢厚生年金」が全て止まってしまうのであれば、むしろ「寡婦年金」を選択するほうがお得だということです。
婚姻期間
現代は旧来と比較して晩婚化の時代です。冒頭でも記載したとおり、「寡婦年金」は年金制度の中で唯一、婚姻期間が支給要件に含まれる年金です。
よって、婚姻期間が10年に満たない場合にはそもそも支給されませんので、注意が必要です。
しかし、その場合でも「死亡一時金」(原則として夫の第1号被保険者としての期間が36月)は受給できる可能性があります。
繰上げ請求
繰上げ請求によって生涯にわたって老齢を支給事由とする年金の受給額が減額するだけはでなく、せっかく「寡婦年金」の受給権を有していたににも拘らず、一切を受給できない事態にもなりかねません。よって、繰上げ請求は慎重に判断すべきです。
知識がなければ失権してしまう
「寡婦年金」は他の年金と比べてあまり耳にすることのない制度なのかもしれません。
しかし、いざ受給権を得たとしても知識がなければ失権してしまう可能性があります。
この機会に知識を深めて損をしないようにしてください。(執筆者:社会保険労務士 蓑田 真吾)