各人に課税される所得税や住民税は、1~12月の所得の合計を元にして算出されます。
所得を少しでも減らすために、11月や12月に入ってから駆け込みで、次のような節税策を実施する方がいるようです。
目次
駆け込み節税策(1)
その年の所得から、「生命保険料控除(一般の生命保険料控除、介護医療保険料控除、個人年金保険料控除)」を差し引けるため、この分だけ所得が少なくなります。
ただ3つの生命保険料控除のいずれについても、年間に支払った保険料が8万円(住民税は5万6,000円)を超えると、一律で4万円(住民税は2万8,000円)しか控除できません。
また個人年金保険の保険料を一時払いした場合には、個人年金保険料控除の対象にはならず、一般の生命保険料控除の対象になる点にも、注意する必要があります。
駆け込み節税策(2)
その年の所得から、「社会保険料控除」を差し引けるため、この分だけ所得が少なくなります。
同居する家族の分の保険料を納付した場合には、納付した方の所得から控除できるため、自分の保険料以外も節税に活用できます。
自営業やフリーランスで働いている方であれば、小規模企業共済の掛金を前納して、その年の所得から、「小規模企業共済等掛金控除」を差し引くという節税策も考えられます。
ふるさと納税を利用すると納付先が変わる

最近は上記のような節税策の他に、自分が応援したい自治体(都道府県、市区町村)に寄付をする、「ふるさと納税」を利用する方が増えているようです。
このふるさと納税を利用すると原則的には、「寄付金額の合計-2,000円」の分だけ、寄付した年の所得税が還付されたり、寄付した翌年の住民税が減額されたりします。
そのため節税になっているような気がしますが、還付されたり、減額されたりするのは、自分が支払ったお金です。
2,000円は自己負担しているので、ふるさと納税を利用する前より負担が増えます。
しかし寄付先の自治体から送付される返礼品の多くが、自己負担の2,000円を超えているため、たくさんの方が利用しているというわけです。
このようにふるさと納税は、厳密な意味では節税のための制度ではなく、税金の納付先を変える制度です。
ふるさと納税で税収減に直面する市区町村
ふるさと納税で税金の納付先を変える方が増えると、地元の自治体は税収が減ってしまいます。
ただ税収が減った分の75%は地方交付税という形で、国から補てんされる仕組みです。
そのため税収が減っても、大きなダメージは受けません。
しかし地方交付税の不交付団体に指定されている、東京都や神奈川県などの都市部にある市区町村に対しては、国からの補てんがないため、大きなダメージになっているようです。
こういった状態が続くと、行政サービスが低下したり、地域インフラの整備に支障が出たりする可能性があるため、一部の市区町村ではふるさと納税を控えて欲しいと、住民にお願いしているようです。
また東京都23区は2020年8月に、ふるさと納税の是正を求める共同声明を発表しております。
地方債は他の債券より安全性や信用度が高い
東京都は2020年11月に、資金の使い道を新型コロナ対策に限定した「コロナ債」の、発行条件を決定しました。
それぞれの自治体は財政上必要とする資金を、外部から調達するために、「地方債」を発行しております。
東京都が発行条件を決定したコロナ債は、この地方債の一種です。
自治体が新型コロナ対策に限定した地方債を発行するのは、国内では東京都が初めてだったので、大きな話題になりました。
コロナ債の発行額は600億円程度、利率は0.01%、償還期間(債券の発行日から満期までの期間)は5年と報道されました。
こういった地方債は厳密には、元本保証の商品ではありませんが、自治体が元本と利息を支払うため、他の債券よりは安全性や信用度が高いと思います。
地元の自治体を応援したい時は地方債を購入する
ふるさと納税を利用して、地元の自治体に対して寄付を行い、所得税の還付や住民税の減額を受けることはできるようです。
しかし返礼品を希望しての寄付は、実施できない場合が多いため、返礼品というふるさと納税のメリットを楽しめません。
一方で地方債を購入した場合には、一般的には半年ごとに、定期預金くらいの利息を受け取れます。
そのためふるさと納税による税収減や、新型コロナなどで困っている、地元の自治体を応援したい場合には、それぞれの自治体が発行する地方債を購入してみます。
インターネットで〇〇県債や〇〇市債などと検索してみると、地元の自治体の地方債に関する情報が、見つかるのではないかと思います。
宝くじが外れた時は寄付したと考える
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宝くじの還元率(集めたお金の中から購入者に還元する割合)は、約47%と言われているため、半分も戻ってきません。
公営競技(競馬、競艇、競輪、オートレース)の約75%、パチンコの約85%と比較すると、かなり低くなっているため、金融関係の専門家で宝くじの購入を推奨している方は、ほとんどいないと思います。
ただふるさと納税による税収減や、新型コロナなどで困っている、地元の自治体を応援したい場合には、地元の宝くじ売り場で宝くじを、あえて買ってみます。
その理由として宝くじの売上金のうち、当選金や経費などを除いた約40%が、発売元の都道府県や20の指定都市に収益金として納められ、高齢化・少子化対策、防災対策、公園整備、教育や社会福祉施設の維持・整備などに活用されているからです。
宝くじが当たらないと、がっかりしますが、外れた分のお金が地元の自治体に対する寄付になります。
それが地域社会のために役立っているとしたら、少しは気持ちが晴れるのではないかと思います。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)