今回は、「老齢年金」の都道府県別の平均受給額と豊かさの関係について見ていきたいと思います。
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目次
「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」の支給対象
原則65歳になると公的年金から支給される「老齢年金」は、次のような2種類に分かれています。
(2) 厚生年金保険から支給される「老齢厚生年金」
(1)「老齢基礎年金」の支給対象
この中の (1) を受給できるのは、
です。
会社員や公務員が加入する厚生年金保険の保険料の一部は国民年金の保険料として使用されているため、厚生年金保険の保険料が給与から控除された期間もこの原則10年の中に含めてよいのです。
また、会社員や公務員に扶養されている年収130万円未満の配偶者(20歳以上60歳未満)は、所定の届出をすれば、国民年金保険料を自分で納付しなくても納付したことになるのです。
(2)「老齢厚生年金」の支給対象
一方で、(2) を受給できるのは、
です。
そのため (1) を受給できる方であれば、厚生年金保険に1か月しか加入していなかったとしても、「(1) + (2)」を原則65歳から受給できるのです。
平均年金月額の高い都道府県は「1都3県」
厚生労働省が作成している「令和元年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況 (pdf)」を見てみると、都道府県別の平均年金月額が記載されています。
会社員だった方が受給している「(1) + (2)」を12で割った金額の平均を都道府県別に紹介しているのです。
この中の上位に位置している、平均年金月額の高い都道府県は次の通りです。
1位:神奈川県(16万6,546円)
2位:千葉県(16万997円)
3位:東京都(15万9,556円)
4位:奈良県(15万9,318円)
5位:埼玉県(15万7,019円)
一方で下位に位置している、平均年金月額の低い都道府県は次の通りです。
43位:沖縄県(12万4,217円)
44位:山形県(12万3,969円)
45位:宮崎県(12万2,795円)
46位:秋田県(12万2,488円)
47位:青森県(12万2,081円)
これだけの差がついた理由を考えてみます。
(1) は20歳から40歳までの40年間に亘って国民年金の保険料を納付すると、収入の多い少なを問わず一律に、2021年度額で78万900円(月額だと6万5,075円)になります。
それに対して (2) は、厚生年金保険に加入していた時の給与(月給、賞与)の平均額と、厚生年金保険に加入していた月数を元に算出します。
したがって、厚生年金保険に加入していた期間の給与が多いほど、または厚生年金保険に加入していた月数が長いほど、(2) の金額は増えるのです。
こういった仕組みであるため、首都圏にある1都3県(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)が上位に位置しているのは、他の都道府県より給与の水準が高いからだと推測されます。
「1都3県に住んでいるから豊か」だとは限らない理由
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ただし、次のような3つの理由により、1都3県に住んでいる方が豊かだとは限らないと思うのです。
理由1:全国平均より物価が高い
総務省が作成している「小売物価統計調査(構造編)- 2019年(令和元年)結果 – (pdf)」を見てみると、地域や店舗形態の違いによって物価がどのくらい変わるのかが分かります。
この中にある「都道府県別消費者物価地域差指数(総合)」は、全国平均を100として各都道府県の物価を比較しているのですが、上位に位置している物価の高い都道府県の指数は次のようになっています。
1位:東京都(104.7)
2位:神奈川県(104.0)
3位:埼玉県(101.0)
4位:千葉県(100.7)
5位:京都府(100.6)
一方で、下位に位置している物価の低い都道府県は次の通りです。
43位:岐阜県(97.3)
44位:福岡県(96.8)
45位:群馬県(96.6)
46位:鹿児島県(96.3)
47位:宮崎県(96.0)
1都3県は前述の通り平均年金月額が高いのですが、物価も高く、かつ全国平均を上回っているので、豊かだとは限らないと思うのです。
なお、九州地方は物価の低い都道府県が多いため、現役時代は給与水準の高い1都3県で働き、定年後に物価の低い九州地方に移住すると豊かな老後を送れる可能性があるのです。
理由2:夫婦共働き世帯の割合が低い
夫婦共働きの場合には、夫だけではなく妻も厚生年金保険に加入することが多いため、当然のことながら世帯で受給できる (2) の金額が増えます。
また、夫婦共働きだと世帯収入が多くなり、定年後に取り崩す老後資金を準備しやすくなるので豊かな老後を送れる可能性があるのです。
総務省が作成している「平成29年就業構造基本調査 結果の概要 (pdf)」によると、夫婦共働き世帯の割合が高い都道府県の上位は2017年の調査では次のようになっています。
1位:福井県(60.0%)
2位:山形県(57.9%)
3位:富山県(57.1%)
4位:石川県(56.1%)
5位:長野県(55.9%)
一方で、1都3県は東京都が49.1%、神奈川県が46.3%、千葉県が45.4%、埼玉県が46.5%になっていて、全国平均の48.4%より低い都道府県が多いのです。
こういった結果から、1都3県では世帯で受給できる (2) の金額が夫婦共働き世帯の割合が高い都道府県より少なくなってしまう可能性があるため、豊かとは限らないと思うのです。
理由3:必要な介護を受けられない
大学教授などの有識者によって2011年5月に発足した「日本創成会議」は、日本のエネルギー問題や人口問題などについて政策提言をしています。
この組織が多くの方に知られるようになったのは、2014年のユーキャン新語・流行語大賞の候補語にもなった「消滅可能性都市」ではないかと思います。
具体的には、若年女性の人数が2010年から40年にかけて5割以下に減ってしまう市区町村(日本全国で896)をこの消滅可能性都市に選んだようです。
日本創成会議が発表した試算の中でもうひとつ印象に残っているのは、団塊の世代が75歳以上になる2025年に1都3県だけで13万人くらいが必要な介護を受けられない「介護難民」になるというものです。
こういった事態を避けるため日本創成会議は、医療・介護ともに受け入れ能力のある41の地方都市への移住を提言しています。
実際のところ、1都3県では介護職員の人手不足がすでに問題になっているため、日本創成会議の試算は程度の差こそあれ現実のものになる可能性が高いと思います。
もし介護施設を利用できなかった場合には家族が介護を担うことになりますが、状況によっては介護のために仕事を休んだり、仕事を辞めたりする必要があります。
そうすると世帯収入が減ってしまうため、平均年金月額の高い1都3県に住んでいたとしても、豊かとは限らないと思うのです。
豊かな老後を考える
老齢年金の平均年金月額と物価から考えてみると、豊かな老後をおくれる可能性のある地域が見えてくるかも知れません。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)