相続税は、富裕層に対する税金のイメージがあるかもしません。
しかし一般層の方々でも相続税の対象となる人はいますので、実は富裕層向けの税金ではありません。
また「富裕層」といっても、どのくらいの財産を所有してる場合に使用する言葉なのかわかりにくいです。
「富裕層」の定義と日本の富裕層の数、そして相続税の対象になる人の範囲について解説します。

目次
一般的な富裕層は「金融資産1億円以上」の人
株式会社野村総合研究所の分類によると、純金融資産を1億円以上保有している人を「富裕層」と定義しています。
純金融資産とは、金融資産から住宅ローンなどの負債を差し引いた金額を言います。
金融資産の対象になる財産は、
・ 現金
・ 預金
・ 株式
・ 債券
・ 生命保険
などです。
預金1億円、住宅ローン3,000万円を抱えている人であれば、純金融資産は7,000万円です。
日本の富裕層は約133万世帯
株式会社野村総合研究所の2019年の調査結果によると、富裕層と超富裕層の世帯数は約133万世帯です。
超富裕層は純金融資産が5億円以上の人です。
日本の世帯数は約5,700万円世帯なので、全世帯の2%以上は富裕層・超富裕層に属する方々です。
また金融資産には銀行預金や株式、生命保険なども含まれる一方、不動産は金融資産ではありません。
不動産を複数保有している人でも、純金融資産が少なければ富裕層には該当しませんので、1億円以上の資産を保有している世帯数は、2%よりもさらに多いと考えられます。
相続税の課税対象となる割合は8.3%
相続税には基礎控除額があり、下記の計算式で算出した基礎控除額を超える場合、原則相続税を支払うことになります。
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の人数 = 基礎控除額
法定相続人が2人なら基礎控除額は4,200万円、5人なら6,000万円となり、亡くなった人の財産が基礎控除額以内であれば、相続税は非課税です。
相続財産が1億円あれば、基礎控除額を超えて相続税の対象になる一方、相続財産が5,000万円でも相続人の人数によっては相続税を支払うことになります。
また国税庁の「令和元年分相続税の申告事績の概要」によると、令和元年分に相続が発生した人のうち、課税対象となった割合は8.3%です。
富裕層・超富裕層の世帯割合がおよそ2%であることを踏まえると、一般層の人も相続税の申告をしている人が多くいる実態がわかります。

国税庁は富裕層の定義を公表していない
国税庁は有価証券・不動産等の大口所有者、経常的な所得が特に高額な個人などを「富裕層」としています。
富裕層に対する税務調査の強化を重点課題として挙げていることもありますが、国税庁は具体的にいくら以上資産を保有している人を「富裕層」としているか、基準を公表していません。
筆者は主に相続税を担当する資産課税部門に勤務していましたが、1億円を財産を保有している人は特に珍しいものではなく、富裕層との認識も一切なかったです。
実際、令和元年分に相続税の申告を提出した人の平均課税価格は1億3,694万円と、平均で1億円を超えていますので、税務署が富裕層として対応している方の保有する資産は、想像よりもはるかに多いです。
参照:国税庁「令和元年分相続税の申告事績の概要(pdf)」
相続税対策は保有資産を確認することから始める
相続税には多くの節税手段が用意されていますが、最初に行うべきは自己の保有財産を把握することです。
相続税には基礎控除額があるため、保有財産が基礎控除額以内であれば、相続税対策を行う必要は基本的にありません。
また保有資産の種類によって適用できる特例の種類や、おすすめの相続財産の分割方法は変わってきます。
不必要な相続税対策は、余計に費用を支払ったり、相続人間の争いに発展する可能性がありますので、本当に相続税対策が必要なのかを最初に検討してください。(執筆者:元税務署職員 平井 拓)