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2022年4月に年金手帳が廃止
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2022年4月に年金手帳が廃止され、これ以降は新規に発行されないというニュースが新聞に掲載されていました。
このニュースを初めて見た際に、年金手帳の中に記載されている「基礎年金番号」(公的年金で共通して使用する1人に1個の番号)も廃止され、マイナンバーに1本化されるのかと思ったのです。
しかし、たとえば、2022年4月以降に国民年金に加入する20歳になった方には「基礎年金番号通知書」が送付されると記載されていたので、基礎年金番号は引き続き発行されるようです。
基礎年金番号の記載されていないオレンジ色の年金手帳を保有している方に対して1997年頃に基礎年金番号通知書が送付され、それを年金手帳に張り付けたという歴史があるので、昔に戻ったような感じがします。
個人的には基礎年金番号通知書に加えて、かなり昔に短期間だけ加入していた企業年金の一種である厚生年金基金の加入員証も年金手帳に張り付けております。
また、「国民年金の記録」や「厚生年金保険の記録」の欄に、資格取得日、喪失日、事業所名、事業所の所在地などを自分で記入したので、かなり年金手帳を活用しているのです。
しかし、おそらく大部分の方はここまで記入していないと推測されるので、年金手帳が廃止になっても特に困らないと思います。
約125万人が請求を忘れている「厚生年金基金」
年金手帳の中に資格取得日、喪失日、事業所名、事業所の所在地などを記入しておいたのは、自分の年金記録を残しておきたかったからです。
しかし現在は、誕生月(1日生まれは誕生月の前月)に送付される「ねんきん定期便」の中に、各人の年金記録が記載されているため、これを保管しておけば年金記録を残せます。
一方で、年金手帳に「厚生年金基金」の加入員証を張り付けておいたのは、この請求忘れを防ぐためです。
各厚生年金基金や企業年金連合会が調査したところ、次のように合計で約125万人の方が「厚生年金基金」から支給される年金を請求していないということです。請求忘れが非常に多いのです。
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なお、データが上下に分かれているのは、たとえば、2014年3月までに厚生年金基金の加入期間が10年未満で中途退職した場合の年金支給のための原資と記録が、厚生年金基金から企業年金連合会に移換されたからです。
このようにして原資や記録が移管されると、年金の請求先は各厚生年金基金から企業年金連合会に変わります。
また、上段と下段のデータを比較してみると、請求忘れの大部分は企業年金連合会に移管された方なので、該当する方は注意する必要があると思います。
種類が多すぎてわかりにくい企業年金と退職金
企業年金や退職金は事業主の義務ではないため、これらの制度がない企業もあります。
企業年金
また、一般的に企業年金と呼ばれるものは、
「確定給付企業年金(DB)」
「企業型の確定拠出年金(企業型DC)」
の3種類です。
ただし、従業員数が300人以下の中小企業では、次のような制度も実施できるのです。
少ない事務負担で始められる、中小企業向けのシンプルな確定拠出年金です。
【中小事業主掛金納付制度(iDeCo+)】
企業年金を実施していない場合には、個人型の確定拠出年金(iDeCo)に加入する従業員に対し、事業主が掛金を上乗せして拠出できる制度です。
この2つを含めると5種類になるため、国民年金と厚生年金保険の2種類しかない公的年金より制度が複雑になっているのです。
しかも、厚生年金保険はどこの企業も同じルール(厚生年金保険法)を元にして運営していますが、企業年金はそれぞれが作った独自のルール(規約)を元にして運営しているため、同じ企業年金を採用している場合でも制度内容が異なる場合があるのです。
退職金
一方で、退職金と呼ばれるものには、それぞれの企業が独自のルールで運営している退職一時金の他に、「中小企業退職金共済(中退共)」や「特定退職金共済(特退共)」などの公的な制度もあります。
ただし、近年は退職一時金の全部または一部を「企業型の確定拠出年金」に移行する企業が増えているという話を聞きます。
「企業型の確定拠出年金」は、年金だけではなく一時金でも受け取れるからです。
また、一時金で受け取ると退職一時金と同じように「退職所得控除」を差し引けるため、所得税や住民税が課税されにくいのです。
このように企業年金や退職金は、種類が多くて分かりにくいうえに、入社してから退職するまでの間に実施する制度が変わってしまう場合があるのです。
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年金の請求忘れと資産の放置で企業年金が活用されていない
厚生年金基金から支給される年金の請求を忘れている方は、前述の通り約125万人もいます。
また、「令和元年度 国民年金基金連合会業務報告書」によると、退職後に「企業型の確定拠出年金」の資産を放置して国民年金基金連合会に自動移管になった方は、2020年3月31日時点で約89万人(資産額は約2,229億円)にも上るそうです。
参照:国民年金基金連合会「令和元年度 国民年金基金連合会業務報告書 (pdf)」
国民年金基金連合会に自動移換されると、毎月控除される手数料によって資産が目減りするだけでなく、60歳以降になっても老齢給付金を受給できないのです。
こういった請求忘れや資産の放置が発生しているのは「企業年金は種類が多く、それぞれの制度の仕組みを理解するのが難しい」というのも理由のひとつだと思います。
また、「企業年金に関する情報は、インターネットで検索しても公的年金ほどは見つけられない」というのも理由のひとつだと思います。
いずれにしても、企業年金や退職金は複数の制度が併存するという前提で、請求忘れや資産の放置の対策を考える必要があります。
企業年金や退職金の記録を手帳で管理する
2007年に身元不明の年金記録、いわゆる「宙に浮いた年金記録」が約5,000万件もあると発覚し、大きな話題になりました。
この問題はまだ解決していないのですが、ねんきん定期便が送付されるようになってからは自分の年金記録を手軽に確認できるようになったので、同様の問題は発生しにくくなったのです。
一方で、企業年金の請求忘れや資産の放置は、ねんきん定期便のような決定的な解決策が打ち出されていないので、今後も増え続けていく可能性があります。
そこで、年金手帳が廃止された後には「基礎年金番号通知書」を張り付ける手帳を買ってきて、この中に
・ 制度の移り変わり
・ 企業年金の請求先や資産の移管場所
などを記入しておくのが請求忘れや資産の放置を回避するよい方法だと思います。
企業年金(中退共、特退共)に加入していたことを証明できる書類などを手帳に張り付けておきましょう。
このように自作の手帳で管理するのは公的年金の記録ではなく、企業年金や退職金の記録になるため「企業年金・退職金手帳」という名称になると思います。
なお、自分が受け取れる企業年金や退職金の種類が分からない方は、次のような方法で調べてみましょう。
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企業年金や退職金の調査と整理は早めに始める
少々手間がかかるかもしれませんが、昔の記憶は曖昧になる場合が多いので、自分が受け取れる企業年金や退職金の調査とこれらの記録や資料の整理は、できるだけ早いうちに始めた方が良いと思います。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)