例えば1米ドル=100円の時に、2.5万米ドルを購入する場合、250万円(100円×2.5万米ドル)の資金が必要になります。
一方で国内の証券会社などが提供している、個人向けのFX(外国為替証拠金取引)だと、最大で25倍のレバレッジをかけられるため、10万円(250万円÷25)の資金があれば、2.5万米ドルを購入できるのです。
例えば1米ドル=100円の時に、10万円で1万米ドル(100万円)を購入する場合、レバレッジは10倍(100万円÷10万円)になります。
この後に2円ほど円安が進み、1米ドル=102円になった場合、2万円(1万米ドル×2円)の含み益が発生します。
経済指標の発表やイベントなどがあると、1日のうちに2円くらい円安が進むこともあるので、10万円の資金は短期間のうちに、12万円(10万円+2万円)まで増えるのです。
それに対して米ドルを購入した後に、2円ほど円高が進み、1米ドル=98円になった場合、2万円(1万米ドル×2円)の含み損が発生します。
これにより10万円の資金は短期間のうちに、8万円(10万円-2万円)まで減ってしまうのです。
更に円高が進んでいくと、ロスカット(強制的な取引の終了)になるため、FXの取引から撤退しなければなりません。
2021年に行われた調査によると、FXをやったことのある個人の約7割は、1年以内に撤退しているので、FXで勝ち続けていくのは、かなり難しいようです。
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円安のピーク時に急増した米ドルの購入
アメリカの中央銀行にあたるFRBは2022年3月から、インフレ(継続的な物価上昇)を抑えるため、政策金利(中央銀行が誘導目標にする金利)であるFF金利の引き上げを始めました。
しかも4会合連続で0.75%という、急ピッチな引き上げを実施したため、年初は0.00~0.25%だったFF金利の誘導目標レンジは、2022年12月時点では4.25~4.5%になっております。
一方で日本の中央銀行である日銀は、国債の購入によって長期金利(10年物国債の金利)を0.5%以下に抑える、イールドカーブ・コントロールという政策を継続しているのです。
そのため両国の金利差が拡大したので、金利の低い円を売って、金利の高い米ドルを購入する動きが加速しました。
これにより年初の1米ドル=115円から、急激な円安が進んでいき、2022年10月には1米ドル=150円台に達したのです。
ただ財務省が急激な円安を阻止するため、2022年9月と10月に米ドル売り円買いの為替介入を実施した辺りから、円高傾向が続いており、現在は1米ドル=130円台で推移しております。
円安のピークだった2022年9~10月頃に、外貨預金やFXなどを通じて米ドルを購入した方は、こういった状況に不安を感じていると思います。
新聞などの報道によると、新生銀行やソニー銀行などの外貨預金を利用する方が、2022年9月頃に急増したそうです。
また2022年10月には店頭FXを利用する個人が、米ドル円の買いポジション(米ドル買い円売り)を、前月比で73%も増加させたため、過去最高の持ち高になったという報道もありました。
こういった報道から推測すると、円安のピーク時に米ドルを購入した方は、けっこう多かったのかもしれません。
このまま円高傾向が続き、当面は2022年10月に記録した高値付近まで戻らないとしたら、9~10月頃の米ドルの購入は、悪い資産運用の例になると思います。
レバレッジをかけた資産運用はハイリスク
FXはハイリスクというイメージがあるかもしれませんが、レバレッジをかけない、つまり1米ドル=100円の時に、1万米ドルを100万円の資金で購入するのなら、外貨預金と同じような感じになります。
またレバレッジを低くしておけば、米ドルを購入した後に円高が進んでも、すぐにはロスカットになりません。
そのためFXという金融商品がハイリスクというよりも、レバレッジの使い方によっては、ハイリスクな金融商品に変わるのです。
2022年9月にイギリスの年金基金が破綻の危機を迎えたため、イギリスの中央銀行であるBOEが、イギリスの国債を緊急購入したという報道がありました。
また世界第2位の暗号資産の取引所であるFTXが、2022年11月に破綻したという報道がありました。
このような二つの出来事が起きた背景のひとつは、レバレッジをかけたハイリスクな資産運用を、両者が実施していたからのようです。
日本でもレバレッジをかけて、NASDAQ100指数の2~3倍の値動きを目指す投資信託に資金を投じたレバナス民が、株価の急落で大損しているという報道が2022年中にありました。
こういったレバレッジをかけた資産運用は、予想とは逆の方向に向かうと損失が大きくなるので、特に初心者の方にとっては、悪い資産運用の例になると思います。
スタンダードな金融商品で時間をかけて資金を増やす
悪い資産運用になった理由のひとつは、米ドルのような話題になっているものを購入したからだと思います。
なぜ話題になっているものが良くないのかというと、話題になっている時点が価格のピークという場合が多いからです。
また資金を短期間で増やそうとして、高いレバレッジをかけると、悪い資産運用になる可能性が高くなります。
こういった悪い資産運用を反面教師にして、運用戦略を考えてみると、流行に左右されないスタンダードな金融商品を購入し、時間をかけて資金を増やすという、真逆の運用戦略になると思います。
スタンダードな金融商品については、さまざまな意見があるかと思いますが、個人的には全世界の株式の値動きに連動した運用成果を目指す、次のような投資信託だと考えているのです。
- たわらノーロード 全世界株式
- eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)
- つみたて全世界株式
- Smart-iSelect 全世界株式インデックス
- SBI・全世界株式インデックス・ファンド
- SBI・V・全世界株式インデックス・ファンド
- 楽天・全世界株式インデックス・ファンド
また時間をかけて資金を増やすのなら、こういった投資信託を長期に渡って、積立するのが良いと思います。
年間で40万円までの積立投資から生じた利益が、最長で20年に渡って非課税になる、つみたてNISAという制度があります。
この制度を通じて積立できる金融商品の中には、上記のような投資信託が含まれているため、預貯金以外の資産運用をやってみたいと思うのなら、つみたてNISAが良いと思います。(執筆者:社会保険労務士 木村 公司)