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2025年4月の3つの改正によって、年金の繰上げ・繰下げ受給が増える

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2025年4月の3つの改正によって、年金の繰上げ・繰下げ受給が増える

公的年金の保険料を納付した期間や、免除(学生納付特例、納付猶予も含む)を受けた期間などが原則10年以上あると、国民年金から老齢基礎年金が支給されます。また老齢基礎年金の支給要件を満たしたうえで、厚生年金保険の加入期間が1月以上あると、厚生年金保険から老齢厚生年金が支給されます。

これらの老齢年金を受給できるのは65歳からになりますが、減額しても良いのなら最大で60歳まで、受給開始を繰上げ(前倒し)できるのです。一方で受給開始を65歳よりも繰下げ(後ろ倒し)して、受給できる老齢年金を増やすこともできます。

2025年4月の3つの改正によって、前者の繰上げ受給と後者の繰下げ受給が以前より増えると予想しますが、その理由は次のようになります。


繰上げ受給と繰下げ受給の2022年4月の改正点

繰上げ受給した時の1月あたりの減額率は0.5%でしたが、2022年4月に改正が実施されたので、誕生日が1962年4月2日以降の方は減額率が0.4%になります。そのため60歳まで受給開始を繰上げした時の減額率は、30%(0.5%×12月×5年)から24%(0.4%×12月×5年)に下がりました。

繰下げ受給は1つの老齢年金だけを繰下げできますが、繰上げ受給は原則的に2つの老齢年金を一緒に繰上げするため、この減額率は2つの老齢年金に適用されます。

一方で繰下げ受給できる上限年齢は70歳でしたが、2022年4月に改正が実施されたため、誕生日が1952年4月2日以降の方は上限年齢が75歳になります。そのため受給開始を繰下げした時の最大の増額率は、42%(0.7%×12月×5年)から84%(0.7%×12月×10年)に上がりました。

なお繰下げ受給する際には、最低でも66歳まで受給開始を待つ必要があるため、最小の増額率は8.4%(0.7%×12月×1年)になります。

改正1:年金の支給開始年齢の引き上げ

現在は老齢基礎年金の支給要件を満たしたうえで、厚生年金保険の加入期間が1年以上あると、65歳になる前に老齢厚生年金を受給できる場合があります。この65歳になる前に支給される老齢厚生年金、いわゆる特別支給の老齢厚生年金は、受給開始を繰下げしても年金額が増えないなどの、老齢厚生年金との違いがあるのです。

また特別支給の老齢厚生年金の支給開始は、職業、性別、誕生日によって次のような年齢になりますが、段階的に支給開始が引き上げされているため、受給できる方は減っています。

【会社員の男性、公務員(私立学校教職員)の男性と女性】

  • 誕生日が1953年4月1日以前:60歳

  • 誕生日が1953年4月2日~1955年4月1日:61歳

  • 誕生日が1955年4月2日~1957年4月1日:62歳

  • 誕生日が1957年4月2日~1959年4月1日:63歳

  • 誕生日が1959年4月2日~1961年4月1日:64歳

  • 誕生日が1961年4月2日以降:引き上げ完了で支給なし

【会社員(厚生年金保険に加入するパートも含む)の女性】

  • 誕生日が1958年4月1日以前:60歳

  • 誕生日が1958年4月2日~1960年4月1日:61歳

  • 誕生日が1960年4月2日~1962年4月1日:62歳

  • 誕生日が1962年4月2日~1964年4月1日:63歳

  • 誕生日が1964年4月2日~1966年4月1日:64歳

  • 誕生日が1966年4月2日以降:引き上げ完了で支給なし

2025年は1961年に生まれた方が64歳の誕生日を迎えますが、1961年4月1日以前生まれの男性は、64歳から特別支給の老齢厚生年金を受給できます。一方で1961年4月2日以降生まれの男性は、特別支給の老齢厚生年金を受給できないため、老齢厚生年金が支給されるのを65歳まで待つ必要があります。

生涯に受給できる年金額に影響を与える、このような年金の支給開始年齢の引き上げが、2025年4月に実施されます。

改正2:高年齢者雇用確保措置の義務化

特別支給の老齢厚生年金の支給開始年齢が引き上げされると、60~65歳までの間に失業した時に、無収入になってしまう場合があります。

そこで政府は高年齢者雇用安定法を改正して、次のような高年齢者雇用確保措置の実施を、企業などの義務にしたのです。

  • 65 歳までの定年年齢の引き上げ

  • 65 歳までの継続雇用制度(再雇用制度、勤務延長制度など)の導入

  • 定年の廃止

この高年齢者雇用確保措置の義務化は、男性が特別支給の老齢厚生年金を受給できる年齢の引き上げに合わせて、段階的に実施しています。そのため例えば継続雇用制度を導入している企業の場合、現在は就労を希望する方のすべてを、64 歳まで雇用すれば良いのです。

しかし2025年4月以降は上記のように、65歳まで老齢厚生年金を受給できない方が出てくるため、65 歳まで雇用する必要があります。これにより就労を希望する方は65 歳まで働けますが、60歳以降に再雇用された時などに、賃金が下がる場合が多いのです。

改正3:高年齢雇用継続給付の支給率の引き下げ

60~65歳までの各月の賃金が下がったため、所定の支給要件を満たした場合、雇用保険から次のような2種類に分かれる高年齢雇用継続給付が支給されます。

(A)高年齢雇用継続基本給付金

雇用保険の被保険者期間が5年以上ある方が、60歳以降も雇用保険の一般被保険者として継続的に雇用されている時に、最長で65歳まで支給されます。高年齢雇用継続基本給付金の支給要件を満たすのは、60~65歳までの各月の賃金が、60歳時点の賃金と比較して75%未満に下がった場合です。

例えば61%以下まで下がると支給率は最大になり、各月の賃金の15%程度が支給されます。

(B)高年齢再就職給付金

雇用保険の被保険者期間が5年以上ある方が、60歳以降に退職して雇用保険の基本手当を100日以上残して再就職した時に、最長で再就職から2年ほど支給されます。高年齢再就職給付金の支給要件を満たすのは、再就職した後の各月の賃金が、基本手当の基礎になった賃金日額の30日分と比較して、75%未満に下がった場合です。

例えば61%以下まで下がると支給率は最大になり、各月の賃金の15%程度が支給されます。以上のようになりますが、2025年4月に改正が実施されるため、両者の最大の支給率は15%程度から、10%程度に引き下げられるのです。

繰上げ受給と繰下げ受給が増える理由

2025年4月以降は高年齢者雇用確保措置の義務化により、就労を希望する方は65歳まで働けるようになっても、60歳以降は賃金が下がる場合が多いのです。そのうえ特別支給の老齢厚生年金を受給できない方が増えたり、高年齢雇用継続給付の支給率が引き下げられたりします。

こういった60~65歳までの収入の低下と、継続的な物価上昇から推測すると、収入の不足を補うために繰上げ受給を利用する方が、以前より増える可能性があるのです。また特別支給の老齢厚生年金を受給できる方が、65歳から支給される2つの老齢年金の受給開始を66歳以降に繰下げすると、年金の受給が65歳で途切れます。

これにより当面は収入が下がるため、繰下げ受給に抵抗を感じますが、特別支給の老齢厚生年金を受給できない方は、受給開始を繰下げしても途切れは生じません。そのため繰下げ受給に対する抵抗が少なくなるため、2025年4月以降は繰上げ受給だけでなく繰下げ受給も、以前より増える可能性があるのです。

《木村 公司》
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木村 公司

執筆者:社会保険労務士 木村 公司 木村 公司

1975年生まれ。大学卒業後地元のドラッグストアーのチェーン店に就職。その時に薬剤師や社会福祉士の同僚から、資格を活用して働くことの意義を学び、一念発起して社会保険労務士の資格を取得。その後は社会保険労務士事務所や一般企業の人事総務部に転職して、給与計算や社会保険事務の実務を学ぶ。現在は自分年金評論家の「FPきむ」として、年金や保険などをテーマした執筆活動を行なう。 【保有資格】社会保険労務士、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、DCプランナー2級、年金アドバイザー2級、証券外務員二種、ビジネス実務法務検定2級、メンタルヘルス・マネジメント検定Ⅱ種 寄稿者にメッセージを送る

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