
二世帯住宅は、親子で暮らすには便利でも、相続では「売るか」「住み続けるか」「誰が取得するか」で意見が分かれやすい財産です。現金のように簡単に分けられず、有効な対策の多くは生前しかできません。お盆で家族が集まるこの時期に知っておきたい分け方と備えを整理します。
二世帯住宅の相続が不公平になりやすい理由
相続で引き継ぐ不動産の評価額は、土地と建物で計算の仕方が異なります。土地は路線価方式または倍率方式で評価します(国税庁 No.4602)。路線価方式では補正後の路線価に土地の面積を乗じて計算するため、敷地の広い二世帯住宅は評価額が大きくなりがちです。建物は原則として固定資産税評価額がそのまま相続税評価額になります。
ここで押さえておきたいのが名義の考え方です。二世帯で住んでいても、土地と建物が親の単独名義というケースは少なくありません。名義人が複数になるのは、親子などで共有名義にしている場合や、各世帯の部分を別々に登記する区分所有登記の場合などです。
問題は、評価額の大きい二世帯住宅ほど、遺産全体に占める割合が高くなりやすいことです。同居していた子はそのまま住み続けたい一方で、ほかの相続人は自分の取り分が少ないと感じます。このすれ違いが、相続でもめる典型的な構図です。だからこそ、所有する親世代と引き継ぐ子世代の双方で、名義と分け方を考えておくことが大切です。
現物分割・換価分割・代償分割という3つの分け方
二世帯住宅の土地と建物が親の単独名義だった場合を例に、遺産分割の主な選択肢を整理します。
まず現物分割は、不動産をそのままの形で特定の相続人が引き継ぐ方法です。親と同居していた子が二世帯住宅を相続し、預貯金など残りの財産をほかの相続人で分けるのが典型です。住まいを動かさずに済む半面、不動産以外の財産が少ないと取り分の差が大きくなり、不公平感が残りやすいのが難点です。
換価分割は、不動産を売却して換金したうえで、その金銭を相続人で分割する方法です。金額で分けられるため公平性は高いものの、その家に住み続けたい世帯がいる場合は、引越しの費用や新しい住まいの確保が重くのしかかります。
代償分割は、相続財産を現物で取得した人が、ほかの相続人に対して代償となる金銭などを支払う方法です(国税庁 No.4173)。二世帯住宅に住む子が家を取得し、きょうだいへ代償金を払うイメージです。公平感を保ちやすい一方、取得する人に支払える資力がなければ成り立ちません。

名義の確認と遺言書による相続前の備え
最初の一歩は、登記上の名義を確認することです。親の単独名義なのか、親子の共有なのかで、取るべき対策は変わります。共有の持分を生前に動かすと税負担が生じる可能性があるため、金額を確かめてから判断しましょう。
なお2024年4月1日から相続登記の申請は義務化されています。期限は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内で、正当な理由がないのに申請を怠ると10万円以下の過料の対象です(法務省)。同日より前に開始した未登記の相続も対象となり、こちらは原則2027年3月31日までに申請しなければなりません。
あわせて有効なのが、親が健在なうちに遺言書を作っておくことです。遺言書がないと相続人同士の話し合いで分け方を決めることになり、利害がぶつかりがちです。被相続人は遺言で遺産の分割方法を定めることができ(民法908条)、遺言書があればまずはその内容が尊重されるため、トラブルの回避につながりやすくなります。エンディングノートには法的拘束力がないため、確実を期すなら遺言書を選びましょう。
ただし、遺留分への配慮は欠かせません。遺留分は、配偶者・子・直系尊属といった兄弟姉妹以外の相続人に認められた最低限の取り分です(民法1042条)。2019年7月1日施行の改正相続法により、侵害された相続人は金銭での支払いを請求できます(遺留分侵害額請求)。同居の子に家をすべて残す内容の遺言でも、ほかの子の遺留分を無視すれば、かえって争いの火種になりかねません。
二世帯住宅でも使える小規模宅地等の特例
節税面で理解しておきたいのが小規模宅地等の特例です。被相続人と同居していた親族が自宅の敷地を相続する場合、330平方メートルまでの部分について評価額が80%減額されます(国税庁 No.4124)。評価額が大きくなりやすい二世帯住宅では、効果の大きい特例です。
ただし要件は細かく、同居親族の場合は相続税の申告期限までその家に住み続け、敷地を保有し続けることなどが求められます。適用を受けるには、相続税の申告書にその旨を記載し、計算明細書や遺産分割協議書の写しなど一定の書類を添付することも必要です。配偶者以外の親族が相続するケースでは、条件を満たせず特例を使えないおそれもあります。
また、2014年1月1日以後の相続では、被相続人が住んでいた一棟の建物に区分所有建物である旨の登記がなければ、玄関が別の完全分離型でも、親族が住む部分の敷地は一定の範囲で特例の対象に含まれ得ます。ただし、取得する人の区分ごとの要件や申告の手続きは別途満たす必要があり、間取りが分かれていること自体で適用が決まるわけではありません。適用可否の判断は専門性が高いため、税理士に確認しながら進めるのが安心です。
区分所有登記と生前贈与という2つの落とし穴
注意したいのが登記の形です。1階は父名義、2階は長男名義のように区分所有登記がされている建物では、親と生計を別にする子は同居親族として扱われず、その子が住む部分の敷地は特例の対象から外れます(国税庁 平成26年1月15日付情報)。親の居住部分の敷地は配偶者が取得すれば対象になり得ますが、同居の子に適用したいなら、相続開始前に区分所有登記の解消を検討しましょう。
もう1つの落とし穴が生前贈与です。自宅の名義を贈与により変更すると贈与税がかかる可能性があり、住宅取得等資金の贈与の非課税も新築などに充てる金銭が対象で、いまある持分の贈与には使えません(国税庁 No.4508)。
贈与時の負担を抑える選択肢が相続時精算課税です。原則として60歳以上の父母・祖父母などから、18歳以上の直系卑属である推定相続人や孫などへの贈与で選択でき、選択届出書の提出が必要なうえ、一度選ぶとその贈与者からの贈与は暦年課税に戻せません(国税庁 No.4103)。2024年1月1日以後は年110万円の基礎控除に加え、選択した贈与者ごとに累計2,500万円を限度とする特別控除がありますが、特別控除は贈与税の期限内申告が条件です。
ただし、相続時精算課税に係る贈与で取得した宅地等は、相続時に小規模宅地等の特例の適用を受けられません(国税庁 No.4124)。特例の利用を見込むなら、贈与の是非を税理士と慎重に判断しましょう。
元気なうちの話し合いが何よりの相続対策
二世帯住宅の相続は、評価額の大きさと「住んでいる人がいる」という事情が絡み合い、分け方の正解が1つに定まりません。だからこそ、名義の確認、分け方の選択肢の共有、遺言書の準備といった手を、親が元気なうちに打っておくことが効きます。お盆や年末年始など家族がそろう機会に、まずは実家をどうしたいかを話すところから始めてみてください。迷う点は税理士など専門家の力も借りながら、一歩ずつ備えを進めていきましょう。


