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「平均余命 vs. お金の寿命」老後生活資金の運用は年率3%で十分!?

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「平均余命 vs. お金の寿命」老後生活資金の運用は年率3%で十分!?

2014年の投資環境を振り返る

 2014年も残りあとわずかとなった。個人投資家の皆さんにとって、今年は様々な波乱要因があった1年だったのではないだろうか。シリア問題に端を発した中東での紛争、さらにはウクライナにロシアが軍事介入した結果のクリミア併合等、地政学的リスクが度々勃発して、投資家のリスク回避姿勢が強まった。

 その一方、先進各国の中央銀行はいずれも金融緩和政策を継続し、経済を金融面で支えた。米国は量的金融緩和政策を終了したものの、日本や欧州ではさらなる追加金融緩和を期待するムードがいまだに衰えていない。

 また、最近の原油価格の大幅下落は個人生活には恩恵が大きいが、産油国や一部の新興国にとっては通貨下落や国家財政を悪化させている。よって、年間を通じて相当の利益を確保した人もいれば、かなり苦戦した投資家も個人・機関投資家を問わず多かったというのが、今年のマーケットの特徴といえるだろうか。



2015年の投資方針・目標を考える

 日本においては、12月の衆議院総選挙で与党・自民党が大勝し、アベノミクスの継続が期待されることから、来年も円安継続と株高を望みたいものだが、心機一転、年明けからの投資方針・目標をあらためて考えてみよう。

 皆さんは、投資を行う際に、目安となる運用利回り、すなわち投資目標をしっかり設定しているだろうか?

 「儲かるのなら、儲かるだけ良い。いちいち目標設定なんてしていない」という読者の方がいたら、来年からの投資においては運用目標をしっかり設定されることをお勧めする。

 なぜなら、利回りであれ、利益金額であれ運用目標を設定していれば、たとえ長期運用であっても、目標到達の都度、利益確定の売却を実行するルールができ、そのルールを守ってこまめに利益確定をし、現金保有比率を常にある程度維持していれば、いつか来るかもしれない相場の大暴落(リーマンショック級の金融危機は当面起きないとしても、アベノミクスの失敗や欧州債務危機の再燃、あるいは地政学的リスクの高まり等で世界の金融市場が大混乱する事態は起こり得る)によって被る損失をある程度小さくすることは可能だ

 筆者が受ける資産運用相談では、相談者の方に、投資の目標利回りもしくは、年間の利益目標を必ず決めて頂いている。投資資金の金額や運用期間、ライフプランに基づくリスク許容度にもよるが、長期投資を前提とした運用ポートフォリオを構築するのであれば、年率換算で3~4%の運用利回りを目安にする様アドバイスをしている。従来から多い相談案件である「リタイアメントプラン作成や、定年退職されたシニア層からの退職金運用相談」では、資金運用の目標利回りは、年率3%程度を目標に資産ポートフォリオを構築するケースがほとんどだ。

老後生活資金の運用は年率3%で十分!?


 「目標とする運用利回り3%というのは、低いのでは? 保守的過ぎるのでは?」と反論があるかもしれないが、おおよそ10年~20年以上という長期間で考える老後生活資金の運用であれば、年平均で3%の運用利回りはけっして低くはない。

 実際の運用では、アベノミクス相場の様に10%を大きく超える利益を得られることもある年もあれば、運用成績がマイナスになる年もあるが、長期で複利運用が継続できれば、年率換算3%の運用で、期間15年で約56%、期間20年で約81%の運用利益が得られる計算になる。あくまで税金・手数料等を考慮しない簡易な計算ではあるが、年3%の運用利回りは、シニア層にとって、リスク許容度を考慮した十分立派な運用目標であるといえよう。

 定年退職した会社員が退職金を受け取り、その退職金と保有金融資産を運用しながら取り崩していく具体的なケースを考えてみよう、ゆとりある老後生活をおくるためには、公的年金だけでは不足するため、年金を補完すべくある程度の資産運用は欠かせない。以下の諸条件・仮定のもとに老後生活資金の運用を想定してみた。

●退職時の預貯金残高1000万円

●退職金2000万円

●公的年金 月額21万円
※平均的な報酬水準で40年勤務し65歳より厚生年金を満額受給。専業主婦である妻の基礎年金を合わせた夫婦合計で、月額21万円受給すると仮定する

●平均余命24年
※夫婦は同年齢と仮定するが、より長生きをする妻の平均余命24年(厚労省による平成25年簡易生命表に基づく、65歳女性の余命年数)を採用した

●ゆとりある老後生活を送るための月額生活費35万円
※生命保険文化センターによる平成25年の調査

●将来の物価上昇はあえて考慮していない
※アベノミクスのもと、日銀が2%の物価上昇目標を掲げ量的金融緩和政策を実施している中、人為的な円安誘導から輸入物価が上昇するコストプッシュ・インフレが起きている。しかしながら、足もとでは、原油価格の大幅下落により、今年4月の消費税増税の影響を除けば、1%を下回る物価上昇に過ぎない。しかも、先進国経済全体が低インフレ状態に陥っており、欧州経済の一部はデフレ状態だ。よって、現時点では資産運用に際し、物価上昇傾向が継続すると想定するのは現実的ではないと考えられる。

 上記前提条件をもとに筆者が試算したところ、年率3%で3000万円の金融資産(退職金と預貯金の合計)を運用しながら、ゆとりある老後生活に不足する資金である14万円(35万円-21万円)を毎月取り崩していった場合、金融資産の残高がゼロになるのは、約26年後すなわち夫婦がともに91歳になる頃となった。つまり、平均余命24年を十分カバーするお金の寿命になる計算だ。もし年率4%の運用ができれば、お金の寿命が約31年へ延び、より安心できる。


 長期にわたり安定的に年率3%の運用を実現することは、相応のリスクを取ることになり、それほど易しくはないが、十分実現可能だと筆者は考えている。

 上記の運用例は、あくまで退職時までにある程度の預貯金の確保と退職金が受け取れる会社員や公務員を想定しているため、若い時期から計画的に老後資金を見据えた資産形成を始めておくことが重要だ

 尚、3%利回りを安定的に実現するためのポートフォリオ構築、つまり、具体的な投資対象や銘柄(国内外の株式や債券、あるいは投資国が先進国か新興国か、さらにはリート・不動産投資信託等をどのような比率で組み合わせるか)についての議論は本コラムの主旨ではないので割愛するが、毎月14万円程の資金を取り崩すため、定期的に分配金を受け取るタイプの投資信託(毎月分配型ファンドという投資商品自体に対する賛否はあるが)を複数組み合わせることが一般的なのかもしれない。

 仮に、老後生活資金の運用のため分配型ファンドへ投資するにしても、トータル収益(分配金と投資元本の含み損益の合計)が、投資元本に対して3~4%となった時点で適宜利益確定のため保有ファンドを売却することが望ましい。いずれにしても、老後資金を見据えた長期の資産運用において、年率3%程度の運用は十分達成可能であるとともに、目標としても無理がなく合理的であることが分かって頂けたと思う。

GPIFの株利回り想定6%は高すぎか?

 ところで、12月9日の日経新聞電子版に、「GPIFの株利回り想定、高すぎか? 制度維持が焦点に」という記事があった。公的年金を運用するGPIF ・年金積立金管理運用独立行政法人の想定する「6%」という国内株の利回りが楽観的すぎると記事では指摘している。中期運用計画によれば、GDP成長率など経済全体の推移は1983~93年を前提とした一方、国内株の利回りはバブル崩壊前の83~89年の企業収益等から導いているとのこと。

 過去の年金積立金の取り崩しのペースや今後の高齢化で年金受給者の増加や平均寿命の延びを考えると、制度維持のためには無理な数字を掲げるしかないという専門家の見方もあるが、はっきり申し上げて、年率6%の国内株式利回りは、中長期的な企業収益の見通しを考えれば高すぎると言わざるをえない。運用資産全体に占める日本株式の比率を外国株式(想定利回り6.4%)とともに25%へ引き上げ、国内債券中心の低利回り運用から脱却しようという方針は十分理解できるが、それにしても、かなり楽観的な想定利回り・運用シナリオであると筆者も感じた。

 老後資金準備のための資金運用を考える賢明な個人投資家の皆さんは、GPIFの想定株式利回り6%をけっして参考にすべきではない。すべての国民に関係する公的年金制度の維持という問題は大きく、シニア層のみならず国民全体が心配するところだが、少なくとも自助努力で行う老後生活資金の運用は、無難かつ現実的な年3%の運用利回りを目標にしてもらいたい。(執筆者:完山 芳男)




《完山 芳男》
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完山 芳男

完山 芳男

独立系FP事務所 FPオフィスK 代表 米国公認会計士(ハワイ州)、日本FP協認定CFP(国際上級資格)、1級ファイナンシャルプランニング技能士(国家資格) 慶応義塾大学商学部卒業。大手自動車メーカーや外資系企業等の経理財務部勤務を経て、カリフォルニア大学バークレーへ1年間留学し、ファイナンスを履修。帰国後、米系・欧州系企業において経理責任者を務める。2004年愛知県名古屋市にて、独立系FPとして事務所を開所し現在に至る。 寄稿者にメッセージを送る

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