2017年8月分(10月支給)から、「10年以上」の加入期間で老齢年金が受給できることになりました。
これはあくまでも老齢年金を受給するための措置であり、「障害」と「遺族」の給付を受けるための要件は変わっていません。
今回は、遺族年金について、誤った期待感をもってしまった人のお話です。
目次
厚生年金、15年しか加入していません

昭和27年6月生まれのKさんは、学校を卒業してから家業を手伝い、そのまま受け継ぎました。
自営業ですから、自分で「国民年金保険料」を納める義務があったのですが、払ったことがありませんでした。
定年のあるサラリーマンと違って、老後の収入を心配する必要はないと思っていたのです。
ところが50歳になる頃、事業が続けられなくなり、知り合いの会社に雇い入れてもらって、初めて厚生年金保険に加入しました。
65歳まで勤めましたが、公的年金制度の加入期間が15年しかないため、老齢年金は受給できずにいました。

妻のT子さんは昭和30年5月生まれで、独身時代に5年間厚生年金保険に加入しましたが、Kさんと結婚して寿退職した後は、夫とともに国民年金保険料を未納にしていました。
Kさんが厚生年金保険に加入して、国民年金の「第3号被保険者」となりましたが、受給資格期間の25年には足りず、「特別支給の老齢厚生年金」の支給開始年齢である60歳になっても受給できず、夫婦でパート勤務をして暮らしています。
黄色い封筒が届いて…
そんなKさん夫妻のもとに、2017年の6月、日本年金機構から黄色い封筒で年金請求書が送られてきました。
2017年8月分(10月支給)から、10年以上の加入期間で老齢年金が受給できるようになったためです。

Kさん夫妻は、
と喜びました。
ところが、そんな夫妻に突然の不幸が訪れました。
遺族厚生年金、受けられません

2018年の春、Kさんが心筋梗塞で急死しました。
T子さんは、夫を亡くした悲しみもさることながら、これからの生活が不安でした。
そんなとき、T子さんの姉が、こんなことを教えてくれました。
お姉さん自身も、亡き夫の遺族厚生年金で暮らしています。

T子さんは、年金事務所へ遺族厚生年金の手続きについて相談に行きました。
ところが、
と言われてしまいました。
25年以上の受給資格期間が必要でした
Kさんは、「10年以上」の受給資格期間短縮により、老齢厚生年金を受給しました。
しかし、受給資格期間が短縮されたのは、老齢年金に関してのみでした。
老齢厚生年金を受給している人が亡くなったときの「遺族厚生年金」は、「老齢厚生年金」の受給資格期間が25年以上あることが必要です。
(2026年3月末までの間に現役の被保険者等が亡くなったときは「死亡日の前々月までの直近1年間に未納がなければよい」という特例がありますが、65歳以上の人には適用されません)
T子さんは、結果として誤った期待感をもってしまったわけですが、お姉さんを責めることもできません。
お姉さんは、自分自身の経験をもとにアドバイスしただけですから。

世代によって異なる年金制度にもご注意を
年金制度は、改正を繰り返してきました。
今回は受給資格期間の短縮が絡んだ問題でしたが、
など、世代の違いには気を付けなければなりません。
たとえば、これから受給する息子さんに、昭和ひとケタ世代のお父さんがアドバイスするなどの際は、制度が変わっていることに十分ご注意ください。(執筆者:服部 明美)