自動車や原動機付自転車(原付バイク)を所有すると自賠責保険への加入が強制です。
さらに、自賠責保険だけでは不足する補償については、民間の任意の自動車保険やバイク保険に加入されることでしょう。
一方で、自動車や原動機付自転車よりも手軽な自転車は、手軽なだけに保険への加入の意識が薄いかもしれません。
しかし、手軽であっても相手にケガをさせてしまう可能性があることを考えると、自転車事故に備えて保険の検討と加入をすべきです。
自転車事故に対する備えはどのように考えればよいのでしょうか。

目次
自転車保険の加入義務化の都道府県が増加中
2015年10月に初めて兵庫県で自転車損害賠償責任保険等(自転車保険)への加入義務化の条例改正が行われました。
そして、下記の<図表1>にもあるように、その動きは徐々に広がり、2019年4月からの1年間だけでも自転車保険への加入義務化の条例を新たに制定した都道府県は6か所もありました。
【加入義務化】
<都道府県:15か所>
山形県、埼玉県、東京都、神奈川県、山梨県、長野県、静岡県、滋賀県、京都府、大阪府、奈良県、兵庫県、愛媛県、福岡県、鹿児島県
<政令市・8か所>
仙台市、さいたま市、相模原市、静岡市、名古屋市、京都市、堺市、福岡市
【努力義務】
<都道府県:11か所>
北海道、茨城県、群馬県、千葉県、富山県、和歌山県、鳥取県、徳島県、高知県、香川県、熊本県
<政令市・2か所>
千葉市、北九州市
※加入義務化・努力義務の都道府県・市区町村に変更がある場合もございます。
参照:MLIT Japan
背景には、<図表2>のように交通事故の件数自体はここ10年で約5割減少しているものの、自転車と歩行者との事故件数については約1割しか減少していないことが挙げられます。
【交通事故の件数】
・ 2009年:73万7,637件
・ 2019年:38万1,237件 → 約5割の減少
【自転車関連の事故件数】
・ 2009年:15万6,488件
・ 2019年:8万473件 → 約5割の減少
【自転車対歩行者の事故件数】
・ 2009年:2,946件
・ 2019年:2,692件 → 約1割の減少のみ
参照:警察庁「道路の交通に関する統計 (pdf)」
さらに、自転車と歩行者との事故の場合においても、<図表3>のように過去の裁判では加害者側の自転車を運転していた人が何千万円といった高額な賠償請求を負うケースがあるのです。
【2013年7月4日判決(神戸地方裁判所)】
賠償額:9,521万円
被害者:歩行者・後遺障害
【2008年6月5日判決(東京地方裁判所)】
賠償額:9,266万円
被害者:自転車運転・後遺障害
【2003年9月30日判決(東京地方裁判所)】
賠償額:6,779万円
被害者:歩行者・死亡
参照:国土交通省「自転車事故の損害賠償に係る現状について (pdf)」
中には、「そのような場合には自己破産をすればいいのでは?」と思われる方もいるかもしれませんが、重過失による高額な不法行為に基く損害賠償金は破産法における免責の対象外ですので、支払い義務は消滅しません。
条例の制定の有無に関係なく、日々使用する自転車はいつ事故を起こすか分かりません。
万が一のことを考えると自転車保険への加入は必須と言えます。
自転車保険はどのように選べばよいのか

1か月数百円程度で加入できる自転車保険など各損害保険会社では自転車保険を取り扱っています。
補償は、自転車事故による自分へのケガ(傷害保険)と被害者に対する人的・対物に対する賠償責任を補償(個人賠償責任保険)する内容が中心です。
そして、大事なのは被害者に対する補償です。
したがって、最低限の補償だけにするのであれば、被害者に対する賠償責任のみを補償として選択しましょう。
自分のケガは、医療保険や死亡保険にすでに加入しているのであれば、それらの保険で代替することが可能だからです。
また、最近は、賠償額の上限が3億円の自転車保険も登場していますが、
・ 示談代行サービスがセットされている
・ 保険の加入者だけではなく家族全員までを補償する
タイプであれば問題ないことでしょう。
クレカなどに付帯されている場合のチェックポイント
自転車事故に対する備えとして、すでに「個人賠償責任保険」に加入していれば自転車保険に加入する必要はありません。
この個人賠償責任保険は、日常生活で他人にケガをさせたり、他人の物を壊したりした時の賠償責任を補償する保険で、自転車事故での補償も含まれています(自動車事故は補償の対象外)。
この保険は
・ 自動車保険
・ 火災保険
・ 傷害保険の特約
・ クレジットカード
に付帯されていることもあります。
自転車保険を検討する前に一度、確認してみましょう。
そして、特約や付帯の場合のチェックポイントは「補償の上限額」と「補償の対象者」です。
です。
もし、どちらかに該当しない場合には、自転車保険への加入を検討しましょう。
加入の有無を必ず確認
家計の支出の見直しとして、死亡保険や医療保険などの生命保険の見直しは昔から定番です。
しかし、これらの保障は自分や家族に対しての保障です。
ところが、この自転車事故に対する備えは相手の損害を賠償するためのものなので、万が一の際に自分や家族の中でコントロールできるものではありません。
自転車に乗る時には安全に運転するのが大原則ではありますが、一方で、自動車を運転する際に「自分は安全に運転するから、自賠責保険だけで大丈夫」という方はほとんどいないことでしょう。
毎月数百円の保険料を支払わなかったがために、「加入しておけばよかった!」と言っても後の祭りです。
また、何らかの保険の特約で付帯している筈だと思っていても、実際のところは何かが違っていたという場合でも同じです。
そのような事態にならないためにも、今すぐ自転車事故に対する備えの状況の確認または加入を検討しましょう。(執筆者:CFP、FP技能士1級 岡田 佳久)