このほど国税庁は、令和元事務年度に実施した所得税の税務調査の結果を公表しました(事務年度とは7月から6月を1年とし、令和元事務年度は令和元年7月から6月までの1年間のことを言います)。

調査結果は、税務調査を実施した件数は減少したものの、1件あたりの追徴税額は増額したというものでした。

本記事では元税務署職員目線で、調査件数が減少した理由と1件あたりの追徴税額が増えた理由について解説します。

参照:国税庁「令和元事務年度 所得税及び消費税調査等の状況 (pdf)

追徴税額が「前年比 + 35万円」に増加した理由

税務調査件数が少なくなったのは新型コロナウイルスの影響

調査件数が少なくなった最大の理由は、新型コロナウイルスの影響で税務調査が実施できなかったことです。

事務年度は上半期にあたる7月~12月と、下半期の1月~6月に分けて考えるのですが、所得税の税務調査は上半期と下半期の4月から6月までに実施されます。

1月から3月には確定申告の作業があるため、所得税の調査は基本的には行われません。

令和元年分の確定申告期間は1か月延長され、緊急事態宣言なども相まって、下半期に実施する予定だった税務調査が行えなかったという点が調査件数減少の大きな要因です。

実際の件数を見てみると、令和元事務年度の実地調査の件数は

特別調査・一般調査(※1):4.3万件(前年比85.0%)

着眼調査(※2):1.7万件(前年比72.8%)

です。

また、簡易な接触(※3)は 37.1万件(69.1%)と、トータルの調査件数が前年比70%程度まで減少しています。

※1. 実地調査(特別調査・一般調査)は、高額・悪質な不正計算が見込まれる事案を対象にした調査です。

※2. 実地調査(着眼調査)は、申告漏れ等が見込まれる個人を対象に、特別調査や一般調査よりも調査を実施する日数が短い調査のことを言います。

※3. 簡易な接触とは、納税者の自宅などで調査を行うのではなく、電話や文書により来署依頼を行い、申告内容を是正するものです。

追徴税額が増えたのは優先順位の低い調査をしなかったため

令和元事務年度の調査件数は減少しましたが、1件あたりの追徴税額は増加しています。

実地調査による1件あたりの追徴税額は166万円と前事務年度の131万円よりも35万円増加し、簡易な接触を含めた平均でも26万円と、前事務年度の20万円よりも30%増えました。

1件あたりの追徴税額が増えた理由の1つに、調査件数の減少が考えられます

税務調査は優先度の高い案件から実施するため、上半期と下半期を比較した場合、上半期のほうが1件あたりの追徴税額は多くなる可能性が高いと言えます。

ちなみに、優先度の高い案件とは、脱税や高額な申告漏れが想定される案件のことです。

一方で、下半期は比較的優先度の低かった案件や確定申告をしていなかった無申告の案件を中心に実施するため、1件あたりの追徴税額は上半期よりも少ないことが多いのです。

また、令和元事務年度の下半期は、新型コロナウイルスの影響でほとんど税務調査を行えていないため、

上半期の調査結果が令和元事務年度の調査実績に色濃く反映され、1件あたりの追徴税額が前事務年度よりも増加した

ものと考えられます。

税務調査は令和2年9月頃から再開されている

国税庁は、「国税庁における新型コロナウイルス感染症の感染防止策について」を令和2年9月にホームページ上に公開し、税務調査を再開しています。

また、今後は接触機会を少なくするために、電話やお尋ね文書などによる接触が多くなるかもしれません。

お尋ねに回答しない場合には、税務署職員が自宅まで訪問して税務調査を実施する可能性があるため、文書の内容を確認し必要に応じて回答してください。(執筆者:元税務署職員 平井 拓)