来年1月から相続税の改正が施行されます。超過累進税率の改正もさることながら、何といっても、基礎控除額の減額が今回の増税の大きな要因となってきます。
現状の5000万円と1000万円×法定相続人の数の控除額は、3000万円と600万円×法定相続人の数の控除額へと減額されることとなります。この影響を大きく受けるのは、いわゆる2次相続と呼ばれるお母さんの相続のときです。
2次相続が発生する前の相続対策の重要性
一次相続と呼ばれるお父さんの相続の時は配偶者のお母さんが健在であるときが多く、この場合の相続では、小規模宅地等の相続税の課税価格の計算の特例はその宅地等を配偶者が取得すれば必ず適用を受けられることと、さらに、配偶者に対する相続税額の軽減の規定の適用が受けられることにより、相続税がかかってくるハードルはかなり高いこととなってきます。
小規模宅地等の課税価格計算の特例は、被相続人の居住の用に供されていた宅地等を被相続人の配偶者が取得したときには240平方メートルまではその宅地等の課税価格のうち実に80%もの価額が減額されるものです。
来年からの相続税の改正で240平方メートルが330平方メートルまで面積の要件は緩和されることとなります。
そして、配偶者に対する相続税額の軽減は、最低1億6千万円まで、または全体の課税価格のうち配偶者の法定相続分(相続の放棄があった場合にはその放棄がなかったものとした場合の相続分、子供がいる場合は1/2)までは、相続税がかからないようになっている規定です。
話がそれてしまいましたが、配偶者の優遇規定が受けられる妻か(通常は夫が財産のほとんどを所有しているため妻)か夫が相続人にいる場合は、一般のお勤めの方では、今回の相続増税の影響を受ける人は少ないものと思われます。
問題は、2次相続の時…。配偶者に対する相続税額の軽減の規定の適用は当然にないことと、小規模宅地等の相続税の課税価格計算の特例の規定の適用を受けるためのいくつかの要件が必要となってきます。
その住宅に住んでいた被相続人と同居していたこと、もしくは同居していなかった場合は自分もしくは自分の配偶者の持ち家に相続開始前3年以内にすんでいなかったこと等その他一定の要件を満たしている必要がありあます。
このように考えると、2次相続が発生する前の相続対策の重要性がわかってきます。
担税力のあるなしの判断基準
ここで、本題の担税力のお話ですが、相続税もしくは消費税または固定資産税や自動車税等以外の税金は、基本的には儲けに対していくらという計算によって税金を課しています。
これに対して、資産を持っているだけで税金を課すのが固定資産税や自動車税。これは、ある程度の資産を所有している人は担税力があるといった判断が課税根拠となっているものでしょうか。自動車は自分で購入して所有しているものですから、いざ知らず、固定資産税は、代々、家のものを引き継いだものに対して課税されます。
お金を稼げる不動産に課税されるのならまだ理解できますが、何ら、お金を稼げていない不動産にも課税されてきます。それも場合によっては、何もしていない土地が、お金を稼げている土地よりも高い固定資産税となるときも多いにあり得ます。
そして、相続税。相続がおきて先代から財産を無償で引き継いだ。これは、無償で財産が増えたことを意味し、財産が増えるということはこれは利益である。そして税金は利益にたいして課税する。いいかえれば、財産が増えることに対して税金は課されるわけです。
相続税は、その財産が無償で増えることとなるわけですから、課税価格そのものに課税されることとなるわけです。ただ、その相続で増えた財産のなかで、担税力のないもの。例えば、稼げていない不動産。これは、担税力はないか、稼げていなくても、売れば納税できる。物納すれば納税できる。これは、株や投信などの金融商品も同様です。売れば納税できる。
担税力がないといえるかというと、担税力はありそうです。そうなると、担税力のない財産はというと、売るに売れない財産、物納に出せない、相続人に最低限生きていく上で必要な財産。それは、居住用や事業用の財産です。被相続人や被相続人と生計を一にする被相続人の親族の居住用または事業のように供されている不動産や自分の会社の株式です。
このように、必要不可欠な財産には、小規模宅地等の特例や農地の農税猶予、非上場株式の納税猶予、山林の納税猶予等の特例規定があります。最低限、必要な財産、生活するための財産、事業承継の財産といったところです。
こういったものや、または、生前の贈与で次世代に財産を早めに継承していくための住宅取得資金や教育資金等の贈与税の非課税の特例の規定などがあります。
ここで、来年からの相続税の基礎控除額の減額と小規模宅地等の居住用の特例の緩和の規定を考えてみると、基礎控除額の減額、法定相続人を子供三人で考えた場合、現状の8000万円が4800万円の減額となります。その差3200万円。
この基礎控除額の減額で一番影響を受けやすい都心部の戸建て住宅に住んでいる人を想定で、この3200万円を考えてみると、小規模宅地等の居住用の面積要件が240平方メートルから330平方メートルに緩和された。その差90平方メートル(約27坪)。そして基礎控除額の差3200万円をこの27坪で割ってみると@約120万円弱となります。
路線価で120万円。公示価格ベースで坪約150万円。この坪150万円前後の土地相場の地域が税務当局の特例の設定の目安としたものかもしれません。相続増税にあたっては。一応は、生活に必要な居住用の財産についての担税力には気を遣ったのかとは個人的には感じています。
いずれにしても、相続増税には、小規模宅地等の特例と生命保険による金融資産の課税価格圧縮で対応したいところです。まずは、相続税の概算シミュレーションを計算してみたらいかがでしょうか。(執筆者:荒木 達也)