1. 長生きリスクとは
65歳で退職をして老後のライフプランを考えた場合に、まず何歳くらいまでライフプランを考えないといけないかということが問題になります。平成25年簡易生命表によると65歳の平均余命は男性が19.08年、女性が23.97年となっています。
つまり平均で男性は84歳まで、女性は89歳まで生きるということです。これは平均ですので、現実的にはさらに5年~10年先までライフプランを考えておく必要があります。
日本FP協会の「高齢者世帯(無職)の家計収支(1か月平均額)」(平成25年)によると夫婦世帯(夫65歳以上、妻60歳以上で構成する夫婦一組)のうち世帯主が無職の世帯における1か月平均の家計収支は次のようになっています。
その他 14,554円
計 214,863円
支出 272,455円
収入-支出= -57,592円
90歳まで25年間のライフプランを単純に毎月の赤字を貯蓄から取り崩し、資産運用を考えないとすると、
の貯蓄が必要となります。90歳より長生きすればさらに必要な貯蓄額は増えていきます。つまり、十分な貯蓄がないと老後の途中で貯蓄が底をついてしまい、ライフプランが成り立たなくなってしまうということです。
2. 年金の繰下げ受給
長生きリスクの対処法としては65歳までに十分な老後資金を確保するということが確実ですが、十分な老後資金を確保できなかった場合の有力な対処法として年金の繰下げ受給があります。
年金の繰下げ受給とは、一定の要件のもとに支給の繰下げの申出を行うと年金額に増額率「繰下げ月数×0.7%」(最大42%)をかけた金額が増額される制度です。
たとえば上記の高齢者世帯で社会保障給付が厚生年金、国民年金(繰下げ受給、繰り上げ受給をしていない。)のみであると仮定すると、赤字をなくすために年金を57,592円増額するには、
28.75%÷0.7%≒41.07月
つまり42ヵ月=3年6ヵ月繰下げ受給をすればよいということです。この3年6ヵ月の間は年金を受給できないので、
の貯蓄を取り崩して生活することになります。
しかし、年金受給開始後は赤字が発生しませんので基本的には貯蓄を取り崩す必要はなくなります。繰下げ受給をせずに90歳まで貯蓄を取り崩す場合には約1,730万円の老後資金を準備しなければならないのに比べると、約62.7%の老後資金の準備で足りることになります。また、90歳より長生きした場合にも家計収支は赤字になりませんのでリスクに備えることができます。
もちろん現実には余裕資金や予備資金なども必要ですので準備できる老後資金と収支の赤字額によって繰下げ月数をその分調整することが必要です。また、準備できる老後資金が少なかったり、赤字額が多かったりする場合にはこの繰下げ受給をしてもライフプランが成り立たない場合もあります。その場合には他の方法で準備することが必要になってきます。
いずれにしても老後のライフプランを一度検討されることをお勧めします。(執筆者:犬山 忠宏)