目次
1. リビングニーズ特約とは
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リビングニーズ特約とは
被保険者が余命6ヵ月以内と判断されるときに、生きているときに死亡保険金を受け取れる特約です。
受け取れる保険金は一般的に3,000万円を限度として死亡保障の範囲内となります。被保険者本人が保険金を請求できる状況にない場合などには、事前に指定されていた代理人(指定代理請求人)が請求することができます。
病気やけがの治療のために多額の費用がかかる場合や人生最後に充実した時間を過ごすための費用に使いたいといった場合などには力強い味方となってくれます。この特約にかかる保険料は特に発生しないため、保険会社の勧めによりこの特約を付けている方が多いのではないでしょうか。
生きている間に保険金を受け取れることで助かる面もありますが、請求には次のような注意点もありますので慎重に検討することが必要です。
2. 相続税への影響
被保険者が保険料を負担していた生命保険金を被相続人の死亡により相続人が受け取った場合、次の非課税限度額までの金額には相続税はかかりません。
たとえば、法定相続人が3人の場合 500万円×3=1,500万円までの保険金には相続税がかかりません。
被保険者がリビングニーズ特約により請求して受け取った保険金は、「身体の傷害に基因して支払われる」保険金と同様に所得税は非課税となります。しかし、被保険者が亡くなったときにその受け取った保険金に未使用部分があれば、その部分については相続税の課税対象になります。
たとえば、死亡保険金が1,500万円で受取人が相続人の生命保険契約があり、法定相続人が3人の場合で被保険者がこのほか相続税の課税対象となる5,000万円の財産を持っていたとします。リビングニーズ特約で生前に保険金を請求しない場合、保険金1,500万円は非課税限度額1,500万円の範囲内なので相続税は非課税となり、5,000万円だけが相続税の課税対象となります。
一方、リビングニーズ特約を使い被保険者の生前に保険金1,500万円(差し引かれる金利と請求から死亡時までの保険料は考慮していません)を受け取ってすぐに亡くなった場合、5,000万円+1,500万円=6,500万円が相続税の課税対象となります。
この場合、リビングニーズ特約を使って受け取った保険金を被相続人が亡くなるまでに使ってしまえば相続税の課税対象額は5,000万円のまま増えません。
しかし、リビングニーズ特約を使わずに5,000万円の財産の中から1,500万円を使った場合には相続税の課税対象額は3,500万円に減ります。つまり、リビングニーズ特約で保険金を請求した場合、相続税の計算上生命保険金の非課税枠が使えなくなる場合があることに注意が必要です。
上記の場合で死亡保険金が2,000万円で生命保険金の非課税枠を超える場合には、非課税限度額1,500万円を超える500万円についてはリビングニーズ特約を使っても使わなくても相続税の課税対象額は変わりません。
保険金(非課税限度額控除前)を加えても財産の総額が基礎控除額以下である場合や配偶者の税額軽減などが使えて相続税への影響がないことが確実であれば問題ありませんが、生命保険金の非課税枠が使えなくならないようにリビングニーズ特約を使った保険金の請求は慎重に行う必要があります。
3. 遺産分割への影響
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生命保険金は遺産分割の対象となる相続財産ではなく、受取人固有の財産とみなされます
。したがって、
リビングニーズ特約を使って被相続人の生前に保険金を受け取ってしまうと受取人固有の財産であったものが遺産分割の対象となる相続財産に変わってしまうことになります。
遺産分割においてその保険金の受取人であった相続人やその他の相続人の共通の理解が得られれば問題ありませんが、場合によっては余計な軋轢を生じる種となるかもしれません。被相続人から保険金受取人への思いが伝えられなくなったり、保険金受取人の被相続人に対する思いが変わってしまうことも考えられます。また、遺言の内容に影響を与える可能性もあります。
以上のようにリビングニーズ特約を使った保険金の請求に際しては、その影響を十分に検討する必要があるとともに、指定代理請求人とも事前にその認識を共有しておくことも重要であると思われます。(執筆者:犬山 忠宏 )