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環太平洋戦略的経済連携協定、あるいはパートナーシップ協定など、TPPの日本語解釈はいくつかありますが、ここで重要な言葉は「経済」です。
経済活動全般におけるルール作りがTPPの本質なのです。
報道では農産物の関税の話、自動車部品などの貿易における関税ばかりが取り上げられ、日本の農業を守るとか、食品価格が下がるとかということばかりを取り上げられていますが、それらはTPPにおいてはほんの一部なのです。
私の情報誌「ら・ぽ~る」では、報道では取り上げられていない重要な部分をピックアップしています。TPPの本質に迫っていくため、何回かに分けて解説しています。その内容を掲載いたします。
まず今回取り上げるのは「雇用」です。
目次
これかの日本の雇用はどう変わる?
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雇用に関しては、日本のマスコミではほとんど取り上げていませんね。
今後の日本社会構造を大きく変えるものだということは誰も気づいていません。
安倍総理は羽田空港再開発を訴え、羽田空港のハブ化によりアジアの玄関口にすることを明言しました。その際、羽田空港近くにアジアで一番のビジネス拠点を作ると言っていました。
安倍政権の経済政策の柱に海外企業の日本誘致があります。海外資本の積極的な取り込み、日本への投資を誘導するものです。
なぜ今まで海外企業は日本に本格的に進出してこなかったのか、それは他国と比べて高い法人税にあります。これに関しては、政府は法人税減税を推し進める姿勢を見せています。法人税を韓国以下にすることを目標としています。
今よりも10%以上下げることになりますね。
そしてもうひとつ重要なことがあります。それが日本の雇用形態を変えることです。日本ではいったん従業員を雇ったら、会社が倒産しない限り解雇することができません。それが海外企業の日本進出の大きなネックとなっているのです。
企業にとって最も重い固定費は人件費ですからね。日本撤退となったとき、人の問題で身動き取れないということもありますからね。
岩盤規制と呼ばれるもののひとつが「雇用」です。「農業」や「医療」がほかの岩盤規制です。
その岩盤規制を打ち破るにはかなりの抵抗があるので、安倍政権肝煎りで導入した国家戦略特区で、雇用規制を緩和することにしました。解雇規制の緩和、つまり、解雇を金銭で解決するというものです。
最初に解雇法制に取り組んだのが小泉純一郎内閣のときで、『雇用の流動化』という言葉を用いていました。以降、政権が解雇法制を取り上げるときは雇用の流動化という言葉を用いています。非正規雇用の問題では自由な働き方と表現し、ゆとりある働き方をイメージさせる感じです。第一次安倍内閣では『再チャレンジ』という言葉を用いていましたね。
派遣法の改定で派遣の「臨時的・一時的」原則が崩壊
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雇用に関しては、今国会で派遣法が改定されました。
そもそも派遣は「臨時的・一時的」という原則に基づくものです。派遣法が制定されたのは1985年で、当時派遣は「原則禁止」で、通訳など専門性の高い業務だけを例外的に認めていました。
1999年に対象業務が原則自由化となり、2004年に製造業への派遣が解禁されるなど、規制は大幅に緩和されてきましたが、この「臨時的・一時的」という原則は守られてきました。
今までは同じ仕事で派遣社員を受け入れられるのは最長3年でした。1年契約で派遣を受け入れ、延長措置で3年間だけ派遣社員受け入れを認めてきましたが、その後は同じ業種では会社側は派遣社員を受け入れることができず、その業務を廃止するか正社員が引き継ぐことになっていました。
ただ、法律で定められている「26業務」だけは、3年を超えても無期限で派遣社員を受け入れることができました。「26業務」にはソフトウェア開発、通訳や秘書、事務、財務処理、案内、受付、駐車場管理などがあります。
今国会で通った改正派遣法では、この「26業務」で区別するのをやめて、すべての業種で派遣社員受け入れ期限を3年としました。
今までは「26業務」以外の仕事では3年経過後は派遣社員を受け入れることはできませんでしたが、改正派遣法で、人を変えれば、その業務を廃止するか、正社員が引き継ぐことなく、派遣社員を受けいれることができるようになりました。
ある業務でAさんを派遣社員と受け入れ、3年経てばBさんと契約して、Aさんが行っていた業務をしてもらうことができるのです。
一方派遣期間無期限だった「26業務」についていた人は、3年で派遣契約は切れることになります。派遣期限が無期限の「26業務」につくため資格を取り、勉強してきた人たちは大変です。
ただし派遣会社が雇用期間に定めがない「無期雇用」の契約を派遣労働者と結んでいる場合は派遣期間を制限しないことにしました。無期雇用の派遣労働者は、3年という縛りはなく、ずっと派遣先で働くことができます。
ただ、今は派遣労働者の8割以上は雇用期間が限られる「有期雇用」です。それに無期雇用といっても正社員ではありません。定期昇給もボーナスもありません。雇う側は、正社員ではなくずっと契約社員を雇うことができることになりますね。
派遣は「臨時的・一時的」が原則としていたものが崩れたのです。
国際的な労働競争のなかで緩和される解雇規制
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「限定社員」という制度もあります。これは産業競争力会議や規制改革会議でルール整備が提案された、安倍晋三首相の経済政策“アベノミクス”の成長戦略の一つで、仕事や勤務地などを契約で限定するもので、
非正規雇用者と正規雇用者との中間とも言われています。
給与は通常の社員よりかは低いですが、転勤はなく、職種変更もなくなります。ただし解雇しやすい要素があると指摘されています。
例えばある事業所で非正規社員を限定正社員にした後、経営環境が悪化して事業所を閉鎖したとします。契約で働く場所をその事務所に限定していれば正社員より解雇しやすくなりませんかね。
「ホワイトカラー・エグゼンプション(残業代ゼロ)」というのもありますね。
このような労働環境の変化の後に、今回の解雇規制の緩和が行われるのです。
いよいよ正社員もうかうかとしていられなくなるわけです。
これらはTPPのための「露払い」と揶揄する人もいます。
TPPにより国際的な雇用の流動化が始まります。日本の労働者は、海外の労働者と仕事を取り合うことになるのです。同一労働同一賃金って言いますが、低い賃金に合わすとなるとどうなるでしょう。海外労働者は、職種にもよりますが、単純労働の場合はおそらく、日本人よりも賃金は低いと思われますからね。
かなりうがった見方ですが、政府はそうなることはないと述べています。
内閣官房のHPでは、「人の移動についての議論はされていますが、これは、ビジネスマンの出張や海外赴任などに関する手続等を容易にすること等を主眼として議論されているものです。」と書かれています。
さらに、「労働条件や環境基準については、貿易や投資を促進することを目的に、環境基準や労働者の権利保護の水準を引き下げないようにすることなどが議論されているようです。したがって、むしろ不当な労働条件の下での輸出拡大や環境基準切り下げの防止等の効果が期待されます。」と書かれています。
でも、労働競争は起こるでしょうし、その範囲は日本国内だけというよりかは世界に広がるでしょうし、その競争の中で解雇規制は緩和されていくのでしょう。
日本人が労働競争に勝つためには、付加価値を生み出すことができるようになることが重要です。今の若者のような「ぶら下がり社員」とか「新・ぶら下がり社員」ではだめなんじゃないかな。日本に来るアジアの労働者は生きるのに必死ですからね。(執筆者:原 彰宏)