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介護保険制度が支援している「住宅改修」には、住み慣れた自宅で暮らしたいという高齢者の願いを実現させる、という目的があります。
住み慣れた自宅で暮らしたいと願う高齢者は多いものですが、昔ながらの日本家屋などは、段差が多く、膝の曲げ伸ばしが辛い高齢者には負担のかかる和式トイレなどが多いものです。
膝の悪い高齢者が、しゃがむ姿勢がとれないばかりにポータブルトイレや紙おむつを使用するといった対応では介護保険の意味がありません。
介護保険の目指している1つには、介護費用のかかる老人ホームなどの老人施設に入所することなく、在宅での生活を継続することで、介護費用の負担を軽減することがあります。
介護保険では、住み慣れた地域、ご自宅での暮らしを継続できるよう応援してくれています。その1つに、住宅改修のサービスがあります。住宅改修はよく聞くけど、漠然としている方も多いのではないでしょうか。
今回は、知っておけば損をしない住宅改修について、できる事とできない事をポイントにして、わかりやすく解説していきたいと思います。
目次
1. 住宅改修の内容
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20万円までは1割又は2割負担
住宅改修は、工事の内容の条件を満たしていれば、1つの家屋につき20万円まではかかった費用の1割又は2割の負担ですみます。限度額内であれば、数回に分けて利用することもできます。
20万円を超えた分は自費
20万円を超える費用は全額自己負担となるので、少し注意が必要です。見積もりの時点で、最終的な金額をしっかりと確認しておくと安心です。
一人ひとりに限度額支給
1つの住宅に複数の要介護者がいる場合には、お一人おひとりに支給限度額が与えられます。
できないこと
対象となる工事が同一の場合には、重複しての請求はありません。また、利用者からの重複した請求もできません。
住宅改修の種類は6つに限定
(2) 居室や廊下、トイレ、浴室などの間の段差の解消
(3) 移動を円滑にさせる為の畳やフローリングへの変更や、滑り防止の為の階段や通路の滑り止め加工
(4) 開き戸を引き戸やアコーディオンカーテンなどに取り替える扉の取り替え
(5) 和式便器から洋式便器への取り替え
(6) (1)から(5)までの改修に必要な工事
できないこと
住宅改修で対象となるのはあくまでも最低限の改修です。動力を利用した昇降機や段差解消機の設置は対象外となります。
また、トイレの水洗化や洋式便器から洋式便器の変更は対象外です。
できること
和式便器から洋式便器に取り替える際に、洗浄機能のある便器や暖房便座が付いたものを選択することは対象となることがあります。
2. 申請方法
支給を受ける為には、住宅改修の工事の前後に市区町村への申請が必要になります。
一般的には、担当のケアマネージャーや地域包括支援センターの職員に住宅改修の相談から始まります。住環境についてのアセスメントから住宅改修の必要性をチェックしてくれます。
申請には工事を実施する前に、介護保険被保険者証と印鑑、住宅改修申請書、住宅改修が必要な理由書、住宅改修に要する費用の見積書、住宅改修の予定の状態が確認できるもの(改修前の図面や写真)、を市区町村(保険者)へ提出します。
介護保険の適用が認められると、「住宅改修の決定通知」が届きます。
工事を実施した後にも、介護保険被保険者証と印鑑、住宅改修に要した費用に係る領収書、工事内訳書、住宅改修の完成後の状態を確認できるもの(撮影日のわかる改修前後の写真)、住宅の所有者が本人でない場合には住宅の所有者の承諾書、を市区町村(保険者)へ提出します。
できること
上記のように申請には書類が必要になります。大変だと思われてしまうかもしれませんが、これらの書類作成はケアマネージャーや業者が代行してくれます。
実際の工事も、専門職が連携して進めていきますので、不具合や希望があれば我慢、遠慮せず伝えるようにしましょう。
3. 支払い方法
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気になる支払い方法ですが償還払いといって、かかった費用を利用者がまずは全額支払います。その後に、申請して9割、8割分の現金の払い戻しを受けます。
できること
市区町村によっては、登録業者に対して利用者が自己負担分の1割又は2割の負担額を支払えば良い受領委任払いをしている場合もあります。一時的とはいえ、全額負担はたいへんです。是非、確認しておきましょう。
4. その他の知っておくべきポイント
転居した時や、要介護度が3段階以上上がった時(要支援からの場合には4段階以上上がった時)には、新たに20万円までの支給をうけることができます。
介護予防の方でも、同等の支援が受けられます。
住宅改修の落とし穴
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最後に見落としがちなできないポイントを1つお伝えしておきます。
新築の場合には、介護保険制度の住宅改修は認められていません。新築購入や設計の際には、将来的な介護保険制度の住宅改修についての検討も相談しておくと良いかもしれません。
また、増築の場合には制限もあるので、保険者である市区町村に事前に確認しておくことをおすすめします。
実際に携わると奥が深い介護保険制度の住宅改修でした。しかし、少しの工夫で活動範囲が広くなったり、ヘルパーの手を借りていたことが自分でできるようになり、結果的に介護費用を削減につながることも期待できます。
まずは、身近なケアマネージャーや地域包括支援センターの職員、または利用している介護サービスの介護職員に相談してみましょう。
手すり1つで、介護される側も介護する側も驚くほど負担が軽くなるものです。(執筆者:佐々木 政子)