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企業年金
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会社によっては従業員の老後の生活を豊かにするため、福利厚生の一環として、企業年金を実施しております。
その企業年金には様々なものがありますが、多くの会社は次の3つのどれかを単独で、または組み合わせで、実施していると思うのです。
(1) 確定給付企業年金
外部に法人格を持った企業年金基金を設立し、その基金が主体になって運営を行う「基金型」と、事業主と従業員の合意により年金規約を作成し、事業主が主体になって運営を行う「規約型」があります。
どちらについても将来に支給される年金や一時金の金額が確定しており、確定給付企業年金を運営する基金や事業主は、その金額を賄うのに必要な掛金を、金利や平均余命などを元に算出します。
その掛金は基金型の場合には基金を経由して、また規約型の場合には直接、外部の生命保険会社や信託銀行などに拠出され、管理・運用されるのです。
確定給付企業年金は上記のように、将来に支給される年金や一時金の金額が確定しているため、運用が上手くいかなかったなどの理由により、予定していた金額を支給できない場合には、会社は追加の掛金を拠出しなければなりません。
(2) 厚生年金基金
確定給付企業年金の基金型と同じように、外部に法人格を持った厚生年金基金を設立し、それが主体になって運営を行ないます。
また確定給付企業年金と同じように、将来に支給される年金や一時金の金額が確定しているため、もしそれが実現できない場合には、会社が追加の掛金を拠出しなければなりません。
なお厚生年金基金は日本年金機構が支払う老齢厚生年金の一部を、代行して支払っており、この「代行部分」があるか否かが、確定給付企業年金との大きな違いです。
(3) 企業型の確定拠出年金
会社が拠出した掛金を、従業員が自ら選択した金融商品で運用しますので、将来に支給される年金や一時金の金額は、従業員の運用の仕方によって変動します。
つまり企業が拠出する掛金は確定している一方、将来に支給される年金や一時金の金額は、確定しておりません。
また年金や一時金の金額が確定していないため、従業員の運用が上手くいかなくても、会社は追加の掛金を拠出する必要がないのです。
代行割れによる企業年金の再編
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厚生年金基金は上記のように「代行部分」があるため、代行部分を支払うために必要な資金を、準備しておかなければなりません。
しかしその資金を準備できていない、いわゆる「代行割れ」の厚生年金基金が存在しており、放置しておいたままにすると将来に、大きな問題を発生させる可能性があります。
そのため法改正が行われ、平成26年4月から5年間に渡って、代行割れの厚生年金基金が解散しやすくするための、特例措置が実施されているのです。
また平成31年4月からは、代行割れ予備軍の厚生年金基金に対して厚生労働大臣が、解散を命令できるようになります。
これらの措置により厚生年金基金はだんだんと減っていき、他の制度に移行するので、企業年金は確定給付企業年金と、企業型の確定拠出年金の2つに、再編されていくのです。
マイナス金利による企業年金の再編の可能性
平成28年1月29日に日銀がマイナス金利政策の導入を決定してから、皆さんもご存知のように銀行は、普通預金や定期預金の金利を下げました。
また生命保険会社は一時払い終身保険や個人年金保険など、貯蓄型保険の販売を停止、または保険料を値上げしております。
この背景として銀行や生命保険会社は、国債を中心にした運用を行っているため、マイナス金利政策の影響で国債の金利が低下すると、十分な利回りを確保するのが難しくなったからです。
このマイナス金利政策は企業年金の運営にも影響を与えており、例えば明治安田生命はマイナス金利政策により、十分な利回りの確保が難しくなったので、確定給付企業年金の新規引き受けと、既存契約分の増額を平成28年4月から停止しました。
また週刊東洋経済の記事によると、ある信託銀行では、拠出された掛金にマイナス金利が適用されたので、それをカバーするため、確定給付企業年金を運営する基金や事業主に対して、追加の費用を求めているようです。
こういったニュースはあまり話題にはなりませんが、個人的には大きなニュースだと思いました。
その理由として明治安田生命のように、新規引き受け停止の動きが広がれば、会社が確定給付企業年金を始めようと思っても、引き受け先がなくなってしまうからです。
また上記の信託銀行のように、追加の費用を求める動きが広がれば、その負担に耐えられず、年金や一時金の金額を下げる、または確定給付企業年金を止め、他の制度に移行する可能性があるからです。
企業年金は確定拠出年金に一本化される?
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もし新規引き受け停止の動きや、確定給付企業年金を止め、他の制度に移行する動きが広がった場合、3つのうち最後に残った
企業型の確定拠出年金を、選ぶ可能性が高くなると思います。
この制度は従業員が自ら選択した金融商品で運用しますので、投資などの知識が必要になります。
そのため会社が実施する企業年金が、企業型の確定拠出年金に一本化された先に待っているのは、「一億総活躍社会」ならぬ、「一億総投資家社会」ではないでしょうか?
個人型の確定拠出年金の加入資格が拡充され、現在は加入資格のない専業主婦や公務員なども、平成29年1月から加入できるようになる予定なので、これも一億総投資家社会の到来を後押しすると思うのです。
老後について考える機会を与える確定拠出年金
フィデリティ退職・投資教育研究所という機関が、サラリーマン1万人を対象にアンケートを行ったところ、企業型の確定拠出年金の加入者は非加入者より、老後の生活資金の準備が進んでいることが分かりました。
おそらく確定拠出年金の金融商品を選択するため、老後の生活資金について具体的に考える機会ができた事が、意識や行動に変化をもたらしたのだと思うのです。
いずれにしろ企業型の確定拠出年金の導入を通じて、老後の生活資金の準備が現在よりも進むならば、一億総投資家社会は決して悪い社会ではないはずです。(執筆者:木村 公司)