健康保険の料率は労使併せて10%前後、厚生年金の料率に至っては15%弱と、企業・労働者どちらにとっても社会保険料は大変な負担になっています。
昨今、社会保険料の削減がコスト削減の有効策になっていますが、落とし穴もあるので気をつけましょう。

目次
削減の有効性と具体策
企業にとっては、社会保険料は法定福利費と呼ばれる人件費の一種ですので、固定費を小さくすることができます。
また社会保険料は標準報酬月額という、給与・賞与額に左右されますので、社会保険料の削減は天引きされる所得税・住民税の削減にも結びついてきます。
具体的な削減方法
中小零細企業ですと、代表者が個人の持つお金を会社に貸し付けて運転資金にしていることがよくあります。
例えば代表者の報酬を月30万円から月20万円に減らし、残り10万円を代表者個人への返済に回すことで、代表者個人に対する社会保険料と所得税・住民税を削減できます。
一般従業員に対しては、選択制確定拠出年金の活用が考えられます。給与額面が月25万円として、月5万円を確定拠出年金に回すとすれば、差額20万円に社会保険料や税がかかってきますので、社会保険料や税を削減することができます。
削減の問題点
社会保険による手当金・給付金などの保障では、給与額に基づいているものがかなりあります。削減により下記のような弊害が生ずることにも気をつけないといけません。
落とし穴1. 厚生年金
国民年金であれば、払うときは年度ごとに決まった保険料を支払い、もらう年金額は物価の状況・家族構成によって変わってきます。
ところが厚生年金は、給与額に応じて保険料を支払い、在職時の給与額に基づいた年金をもらうことになります。社会保険料を削減すれば、当然将来の年金に響いてきます。
落とし穴2. 雇用保険(失業給付)
失業した際にもらえる雇用保険の基本手当の日額も、在職中の給与に基づいて金額が決まります。
あとは年齢や退職の仕方によって給付日数が変わってきますが、給与の一部を確定拠出年金に振り分けたりすると、失業給付をもらおうとした際に減額となることに気をつけないといけませんね。
育児休業中の給付金に関しても、給与が影響してきます。

落とし穴3. 労災保険
仕事中の事故などにより労災認定してもらい、給付を受ける場合は、休業(補償)給付がもらえます。障害を負った時など場合によっては、傷病(補償)年金や障害(補償)給付などももらえます。
これらの給付の多くも、被災前3ヵ月間の給与に左右されます。
落とし穴4. 健康保険
健康保険に関しては、医療費の自己負担割合が3割と決まっていることから、一見影響がないように見えるかもしれません。
しかし私傷病による休職の際にもらえる傷病手当金や、産前産後休業の際にもらえる出産手当金は、健康保険料を削減すると減ってしまいます。
なお、1か月間でみて多額の医療費がかかっている場合、金額によっては高額療養費が給付されることがあります。これに関しては給与が低いほうが給付額は増えますので、この点は社会保険料削減のメリットとも言えます。
まとめ
社会保険料のような公的な保険料は、国等に納めるという点で税金と似たような性格がありますが、あくまでも「保険料」というのが重要です。民間の保険料を考えれば理解できると思いますが、保険料が安くなると保障が薄くなります。
休業中や失業中の生活保障をするための公的な保険が多く、もらうほうも払うほうも給与額に連動しているのですから、税金のように単にコストカットの面が先立つと思わぬ弊害が出てきます。(執筆者:石谷 彰彦)