平成28年10月1日から、次のような要件をすべて満たすと、パートやアルバイトなどの短時間労働者であっても、社会保険(健康保険、厚生年金保険)に加入する必要があります。
A: 1週間の所定労働時間が20時間以上になること
B: 給与の月額が8万8,000円(年収なら106万円)以上であること
C: 勤務期間が1年以上の見込みであること
D: 学生ではないこと
E: 社会保険の対象となっている従業員数501人以上の事業所に勤務していること
目次
「106万円の壁」
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最近インターネットのニュースなどを見ると、この中の(B) のことを「106万円の壁」と表現し、社会保険の適用拡大に関した特集をよく行っております。
そのため最近は正確な知識が、周知されるようになったと感じるのですが、以前はこの社会保険の適用拡大と、国民年金の第3号被保険者の廃止を、混同している方が多いように感じました。
国民年金の第3号被保険者とは
国民年金の第2号被保険者である会社員や公務員の、配偶者(年収130万円未満が要件)が利用できる制度であり、第3号被保険者になれば保険料を納付する必要はありません。
「社会保険の適用拡大」と「第3号被保険者の廃止」は全く別の話
確かに社会保険の適用が拡大されれば、第3号被保険者の人数は減ってしまうと予想されます。
しかし第3号被保険者の多くは、配偶者控除を受けるため、年収を103万円以内に抑えているため、たとえ社会保険の適用が拡大され、106万の壁が出現しても、第3号被保険者を消滅させてしまうほどのインパクトはありません。
また第3号被保険者の縮小や廃止に関する議論は、継続して行われておりますが、法改正はまだ実施されておりませんので、社会保険の適用拡大と第3号被保険者の廃止は、全く別の話になるのです。
厚生労働省から示された第3号被保険者の改革案
第3号被保険者の縮小や廃止について、本格的な議論が始まったのは、平成12年7月に厚生労働省に設置された、
からだと思います。
ここで行われた議論を基に厚生労働省は、第3号被保険者に関する次のような4つの改革案を示し、この改革案について、厚生労働大臣の諮問機関である社会保障審議会の年金部会で、引き続き議論が行われました。
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(1) 年金権分割案
従来通りに第2号被保険者が保険料を納付するので、第3号被保険者は保険料を納付する必要はない案です。
ただ年金権分割案を採用した場合、第2号被保険者が納付した保険料の半分は、第3号被保険者が納付したと見なすので、実質的な負担は増えていないものの、第3号被保険者に新たな負担を課したことになります。
また年金権分割案を採用した場合、第3号被保険者は保険料の半分を納付したことになるので、原則65歳になると老齢基礎年金だけではなく、老齢厚生年金も受給できるようになります。
(2) 負担調整案
第3号被保険者に対し、基礎年金(例えば老齢基礎年金)という受益に応じて、何らかの保険料の負担を求める案です。
(3) 給付調整案
第3号被保険者を国民年金の保険料の免除者と、同様の取扱いとし、保険料の負担を求めない代わりに、基礎年金(例えば老齢基礎年金)を減額する案です。
(4) 第3号被保険者縮小案
現実に一定数の第3号被保険者が存在していることを踏まえ、当面はその制度を維持しつつ、その対象者を縮小していく案です。
社会保険の適用拡大は第3号被保険者の廃止に行き着く
社会保障審議会の年金部会における議論では、4案のそれぞれについて様々な意見が出され、1つの案に絞ることはできませんでした。
しかしパートやアルバイトなどの短時間労働者に対する、社会保険の適用を拡大して、第3号被保険者を縮小していく方向性については一致しました。
つまり社会保険の適用拡大と、第3号被保険者の縮小や廃止は、一見すると無関係のようで、やはり関係があったのです。そうなると今後は、社会保険の適用を更に拡大して、第3号被保険者の縮小を続けていくはずです。
実際のところ、「公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律」を読むと、社会保険の適用拡大から3年以内に検討を加え、その結果に基づき、必要な措置を講じると記載されております。
自民党と公明党は、この法律に記載されている通りに、必要な措置が講じられるようにするため、平成26年9月から議論を始め、「給与の月額が5万8,000円(年収なら69万6,000円)以上」なら、社会保険を適用するという案も出されました。
ここまで社会保険の適用が拡大されると、第3号被保険者の人数はかなり少なくなるので、第3号被保険者の廃止に関する議論が、本格化すると思うのです。
社会保険の適用拡大を感謝して受け入れる
社会保険と同じように、近いうちに適用が拡大されるものとして、個人型の確定拠出年金があります。
この適用拡大により平成29年1月1日から、国民年金の第3号被保険者であっても、個人型の確定拠出年金に加入できるようになるのです。もし個人型の確定拠出年金に加入しようと思った場合、自分で手続きを行う必要があり、またその掛金はすべて、自分で負担する必要があります。
しかし社会保険の場合には、お勤め先の会社が手続きを行ってくれ、またお勤め先の会社が、保険料の半分を負担してくれます。
例えば皆さんの給与から、厚生年金保険の保険料として1万円が控除されている場合、お勤め先の会社が1万円を出して、両者を併せた2万円が、日本年金機構に納付されているのです。
老後資金の準備ができます
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このように保険料を納付すれば、原則65歳になった時に老齢基礎年金だけではなく、老齢厚生年金も受給できるようになるので、個人型の確定拠出年金と同じように、老後資金の準備ができます。
その他にも様々なメリットがありますので、社会保険の適用拡大をマイナスに捉えるのではなく、むしろ感謝して受け入れた方が良いと思うのです。
「私的保障」を見直しするというアイデア
なお給与の手取りが減って不安という方には、社会保険に加入して「公的保障」が充実した分だけ、生命保険や医療保険などの「私的保障」を見直しするというアイデアを、提案したいと思います。
例えば健康保険の被扶養者から被保険者に変わると、病気やケガで仕事を休んだ時に、傷病手当金を受給できるようになるので、医療保険の入院給付金の金額は下げられるはずです。(執筆者:木村 公司)