日本に帰国するとよく感じることですが、60歳を超えた女性がとても元気です。おばあちゃんと呼ぶには少々失礼に思えてしまいます。
でもお孫さんがいても全くおかしくない年齢の人が実に元気にしておられます。
ここオーストラリアも同様、年配の男性、女性が仕事をリタイヤして楽しそうな生活を送っています(少なくともそう見えます)。実際、オーストラリアの老後とはどのようなものなのか紹介します。
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目次
高齢者としての心構え
ただの私の感覚に他ならないのですが、日本で看護師をしていた者からみて、オーストラリアの高齢者の方は日本の高齢者に比べて自立心が高いように感じます。
親を慕う気持ちや子を愛する気持ちに国境や文化は感じませんが、親子という前に個人がしっかり確立されている気がします。
親子であっても親の意見を押し付けえることはなく、個人を尊重している場面をよく目にしますが、それと同様に、親に「子どもを頼る」という感覚があまりないのではないでしょうか。
親と「同居」が少ないオーストラリア
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オーストラリアに移住して10年以上経ちますが、親と同居している家族を2組だけ知っています。
一組はグラニーフラットといい、敷地内にキッチンやトイレなど独り暮らしができる小さい家を建てて、そこに暮らしているというパターンでした。何度も遊びに行きましたが、お会いしたのは、パーティーの食事のときだけでした。
80歳を超えるおあばさんでしたが、普段はグラニーフラットで一人でやりくりしている様子でした。
もう一組は完全に同居というパターンでしたが、親の面倒をみるためというよりは、共働きで忙しいから子供の面倒をみてもらっている、という印象の強いお宅でした。
こちらもおばあちゃんでしたが、学校の送迎や習い事にいたるまで、親同様に忙しくされていました。
このように例外もありますが、多くは子どもとは別で暮らしています。
家族で過ごす休日が大好きなオーストラリアですから、休日をおじいちゃん、おばあちゃんと一緒にという話や、放課後はおじいちゃんがお迎えに来てくれるなどという話はよく聞きます。
でも、一緒に住むというのは少ないのが一般的のようです。
オーストラリアの高齢者はどこに住んでいるのか?
リタイアメントビリッジ
「リタイアメントビリッジ」といい、高齢者専用の住宅施設が所々にあるのを目にします。施設によって入居できる年齢は違うようですが、中にはリタイアをしていない人もいます。
1ベッドルーム、2ベッドルーム、3ベッドルームとさまざま用意がされていて、施設内にはプールやジムや運動場、レストランなどが完備されています。メンテナンスも行ってくれます。
オーストラリアは基本的に家の敷地面積が日本に比べて大きく、家をメンテナンスするのに大変な労力と時間を必要とするのが通常です。
したがって、リタイアメントビリッジに移ることで、家を少し小さくし、メンテナンスを気にせずにもっとリラックスした生活を送ることができるというわけです。
多くの人は自分の家を売って、そのお金で入居することになるでしょう。費用はリタイヤメントビリッジの立地場所、サービスの内容、によって大きく変わってきますが、中には入居時に多額の費用がかかるところもあるようです。
入居費だけでなく、維持費にお金がかかるのも通常ですから、誰でも入居できるというわけではなく、オーストラリアの高齢者の5%が利用しているということです。
自宅
住み慣れた自宅に住み続ける高齢者が一番多いのではないでしょう。少しの不自由ぐらいであれば、ホームケアといい、政府のアセスメントを受けた結果によって、必要な援助を自宅で受けることが可能になります。
入浴やトイレの介助がしてほしいのか、リハビリが必要なのか、話し合い相手がほしいのか、食事の準備、車の運転、ショッピングなど自分のニーズを基本的にきいてくれます。
近くに住んでいる家族がいる場合は、庭の手入れを手伝うという風景はよく目にします。家族であっても、それぞれの生活があるわけですから、できる範囲で行うのが通常のようです。
夫婦が介護をするというパターンも多く、その場合には幾らかの手当が支給されるそうです。もちろん、休暇を取ったり、自分の時間を楽しむことは大切という考え方ですから、介護者が家を空けるときのために、代わりのケアの人が自宅に来てくれたり、一時施設に行けるようにもなっています。
老人ホーム
自宅で介護するのは難しい、独り暮らしだから心配、という場合は老人ホームという選択肢もあります。日本人にしてみると、老人ホームでは部屋を提供するイメージがあるかもしれませんが、オーストラリアでは必ずしもそうではありません。
どれだけのケアが必要とされているかによります。老人ホームといっても、自分でできることは自分でするというスタンスです。
シドニーで知り合ったおばあさんは、日本でいう2DKに似た住まいに電動の車いすで暮らしていました。
食事は施設にお願いすることもできるようですが、多少の歩行はできるので、自炊をしていました。将来的にケアの度合いが増してくると、施設内にある、よりケアの必要なところに移動できるというのが一般的なようです。
公的な支援を受ける場合には
では、金銭的に余裕がない高齢者は自宅でしのぐしかないのかというと、決してそうではありません。公的な支援を受けたいと思えば、アセスメントを受けることになり、その結果によって、必要な援助を受けることができます。
自宅で必要な援助を受ける続けることも可能ですし、老人ホームに移り住むことも可能です。自分の希望とアセスメントの結果によって、決定されます。
自宅での援助も、入浴やトイレの介助がしてほしいのか、リハビリが必要なのか、話し合い相手がほしいのか、食事の準備、車の運転、ショッピングなど自分のニーズを基本的にきいてくれます。
他にも、介護者に対するケアも忘れていません。自宅で介護をすることを選んだ場合、幾らかの手当が支給されるそうです。
もちろん、休暇を取ったり、自分の時間を楽しむことは大切という考え方ですから、介護者が家を空けるときのために、代わりのケアの人が自宅に来てくれたり、一時施設に行けるようにもなっています。
介護にかかるお金は高齢者が払うの?
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「
オーストラリアの給料と貯金、3人に1人は貯金ゼロ」でも紹介したように、オーストラリア人はあまり貯金をするという意識がないのですが、どのように支払われているのでしょう?
介護の申請をすると、資金調査も徹底して行われます。給料や年金、厚生年金、土地、宝石など過去何年かにさかのぼり贈与された土地や資金まで徹底的に調べられると言います。
老人ホームの場合、食事やケア、洗濯、掃除などが含まれて1日幾らと決まっています。資金調査をしたうえで、個人が支払うお金が決定することになります。全くお金がない場合にも年金が支払われますので、年金の何%を老人ホームの支払いに回す仕組みで、結局は入居できます。
お金がある人には払ってもらい、お金がなくても、政府の援助によって必要なケアは受けられます。
これから高齢化が増していくので、政府としては頭の痛い問題の一つであると思います。年金を受給できる年齢も少しずつ上がっていますし、税金も十分に高いです。今のようなシステムを何とかキープして、誰もが住みやすい世の中を続けてくれることを願うばかりです。(執筆者:松下 歩)