安倍総理は平成26年3月19日に、経済財政諮問会議と産業競争力会議の合同会議で、専業主婦がいる世帯の所得税を軽減する「配偶者控除」の、縮小や廃止を検討するよう指示しました。
それから総理の諮問機関である政府税制調査会などで、何度も議論が行われてきましたが、なかなか結論が出せなかったため、先送りを繰り返してきました。
しかしいつまでも先送りにしているわけにはいかないので、自民党は配偶者控除を廃止すると共に、新たに「夫婦控除」を創設する案を、平成29年度の税制改正大綱に盛り込むための議論を、今月から本格化に開始したのです。
もし税制改正大綱に盛り込まれた場合、その内容に従って法改正が実施されるので、平成30年1月から、または遡って平成29年1月から、新制度がスタートする可能性があります。
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目次
所得控除のひとつで年収103万円以下が要件の「配偶者控除」
会社員(正社員、パートやアルバイトなど)の方が納付する所得税は、大まかに表現すると、次のような手順で算出されます。
(2) 給与所得-所得控除=課税所得
(3) 課税所得×所得税の税率=所得税
(4) 所得税-税額控除=最終的に納付する所得税
配偶者控除は扶養控除などと同じように、(2)の中にある「所得控除」のひとつであり、その金額は38万円になります。
また例えば夫が年末調整や確定申告で、配偶者控除を受けるには、妻の年収が103万円以下でなければなりません。
税額控除として創設される予定の「夫婦控除」
最初に配偶者控除を廃止して、夫婦控除を創設するという話を聞いた時、配偶者控除を廃止する代わりに、夫婦控除という新しい所得控除が作られるのかと思いました。
しかし現在までの議論を調べてみると、夫婦控除は(4)の中にある「税額控除」として、創設される予定のようです。
そうなると配偶者控除の廃止により、年末調整や確定申告で利用できる所得控除は、ひとつ減ってしまうことになります。
また配偶者控除は夫の年収にかかわらず、一律に38万円を控除できますが、夫婦控除は夫の年収が一定以下でなければ、控除できない制度になるようです。
そのため年収の制限で夫婦控除を受けられない夫は、配偶者控除が廃止された分だけ増税になります。
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配偶者控除が廃止されても年収の調整は続く
夫の場合は年収が一定以下でなければ、このように増税される可能性がありますが、妻の場合は無税だったのが、課税される可能性があるのです。
夫が配偶者控除を受けるため、妻が年収を103万円にした場合、(1)で給与所得控除の65万円を控除し、(2)で誰でも受けられる所得控除の「基礎控除(38万円)」を控除すると、次のように「課税所得」は0円になります。
(2)給与所得(38万円)-所得控除(基礎控除:38万円)=課税所得(0円)
そのため(3)の中にある「所得税の税率」が何パーセントであっても、次のように所得税は0円になるのです。
しかし妻の年収が103万円を超え、かつ基礎控除以外の所得控除がない場合、(2)の中にある「課税所得」は0円ではなくなるので、所得税が発生する可能性があります。
そのため配偶者控除が廃止されれば、夫がこの控除を受けるため、妻は年収を調整する必要はなくなりますが、妻自身が課税されないための年収の調整は、引き続き課題になると思うのです。
毎月5,000円から始められる個人型の確定拠出年金
もうご存知かと思いますが、平成29年1月1日から、現在は加入資格のない専業主婦や公務員などであっても、個人型の確定拠出年金に加入できるようになります。
要する公的年金に加入している60歳未満の方なら、国民年金の保険料の納付を免除(全額免除、4分の3免除、半額免除、4分の1免除、納付猶予、学生納付特例)されている方を除き、原則として誰でも加入できるようになるのです。
従来であれば専業主婦が加入できるようになっても、掛金を拠出するだけの金銭的な余裕がないという問題がありました。
しかし配偶者控除を受けるため、年収を103万円以下に抑える必要がないなら、ある程度の金銭的な余裕が生まれると思うのです。
個人型の確定拠出年金の掛金の下限は毎月5,000円になり、それ以上であれば一定の上限に達するまで、1,000円単位で自由に設定できます。
年収を103万円以下に抑える必要がなくなり、掛金の下限である5,000円を継続的に拠出するだけの金銭的な余裕ができたら、個人型の確定拠出年金を始める良いタイミングだと思うのです。
掛金を上手く使えば増税や課税を回避できる
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拠出した個人型の確定拠出年金の掛金は、「小規模企業共済等掛金控除」という所得控除になりますので、年末調整や確定申告の際に、その金額を給与所得から控除できます。
つまり個人型の確定拠出年金の掛金は、配偶者控除や扶養控除といった所得控除と、同様の取り扱いになるのです。
そのため年収の制限で夫婦控除を受けられない夫は、個人型の確定拠出年金の掛金を拠出することにより、配偶者控除の廃止による増税を少なくできます。
また個人型の確定拠出年金に、例えば毎月5,000円の掛金を拠出している妻は、年収が109万円までなら、所得税が課税されなくなります。
その理由として拠出した6万円(5,000円×12か月)の掛金は、小規模企業共済等掛金控除として給与所得から控除できるため、「109万円-6万円=103万円」となり、年収が103万円の場合と同様の取り扱いになるからです。
このように個人型の確定拠出年金は、老後資金の準備だけではなく、配偶者控除廃止の対策として活用できると思うのです。(執筆者:木村 公司)