筆者がFPとしてお受けする相談テーマのほぼ全てはお金がらみのことであるが、やはり行き着く先は相談者の老後不安であることが多い。
定年退職して間もない人や50歳代に入り退職後の生活を意識した人ばかりでなく、30歳代~40歳代の比較的若い人であっても資産形成やライフプランにおける最大の関心ごとは、結局は老後生活への不安なのである。
では、老後不安を解消するにはどうしたらいいのだろう?
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・ 勉強して金融の知識を得て投資で資産形成を図ること
・ 日々の食事に気を付け運動を欠かさないよう健康に気をつけた生活をすること
等々一般的に老後対策といわれているものはたくさんある。
でも、どの対策も相当な年月と努力を要するし、必ず上手くいくとは限らない。
そこで、もっとシンプルで効果的に老後不安を無くす方法をお教えしよう。
目次
シンプルで効果的、老後不安を無くす方法
それは、「老後期間を可能な限り少なくする」こと、理想をいえば「老後をなくすこと」である。
まず皆さんに認識して欲しいことがある。それは「老後」が始まる時期は単純な年齢で定義はされていないことだ。
かつては60歳、今では65歳が会社を定年退職する時期になりつつある。
65歳から老後が始まると一般的には見なされることが多いが、これはあくまで公的年金が支給される年齢が65歳からと定められているからに過ぎない。
本来は「働くことを止めた時から老後が始まる」と考えるべきだ。
したがって「老後期間を可能な限り少なくする」つまり老後を先延ばしするためには、可能な限り働き続ければいい。
実際、働き続けることで「老後の不安」は概ね解消される。
老後不安の中で大きなもの
老後不安の中で大きなものは、お金、健康、孤独感の3つだ。
まず、働き続けることによって多少のお金は入ってくる。
勤務先を定年退職した後の継続雇用でもいいし、嘱託でもアルバイトでもいいから、現役時代の給料の数分の一になろうとも定期的に収入を得るために働き続けることが大切である。
たとえ月額数万円の収入でも、公的年金だけで生活するよりは幾分かは豊かな暮らしができるだろう。
健康面を考えても、定年退職後、何もせずにじっと自宅に閉じこもっているよりは、外に出て何らかの生産活動をしている方がはるかに健康にいいし、また規則的な生活リズムを持つことで体調管理もしやすくなる。
また、外で働くことによって人と接する機会が多くなるし、何より社会と関わり続けるわけだから、孤独に陥ることもなくなる。
このように、働くことによって老後不安のほとんどが解決されるのだ。
「生涯現役で働く」ことは必ずしも素晴らしい生き方とは言えない
しかしながら「働き続ける」つまり「生涯現役で働く」ことは必ずしも素晴らしい生き方とは言えないかもしれない。
「どうして60歳を過ぎてまで働かなくてはいけないんだ! 私は早く引退して楽に暮したい」と考える人も多いだろう。
実は、欧米ではアーリー・リタイアする(早期に仕事から引退する)ことは成功したビジネス人生の証として考えられている。
20歳代~40歳までの若い時期に馬車馬のように一緒懸命働いて、40歳代の半ばにはその後の余生を悠々自適に暮らせるくらいの財産を築く。
早期引退後は優雅なシニアライフを満喫する…という人生設計は欧米社会では誰もが羨むライフプランと言えようか。
日本人は早期退職すること自体にネガティヴな感情をもつ人が多い
でも、日本人に「 早期リタイアしたいですか? 」と尋ねると、おそらく多くの人が答えに迷うことだろう。
一般的なサラリーマンであれば、勤める企業が業績の大幅悪化で中高年社員のリストラを目的に早期退職を募り、割増退職金等の条件次第でそれに応じることはあり得るかもしれない。
しかし、そういった事態に遭遇しなければ「別に早期にリタイアしたいとは思わない」あるいは「早期リタイアできるほど十分な財産を築いていない」といった考えを持つ人が多いだろう。
また、そもそも日本では早期退職すること自体にネガティヴな感情をもつ人が少なくないと想像される。
これは、日本人と欧米人では考え方に違いがあり、価値観や文化的な背景の違いがあるとも言えそうだが、「日本人は、自分の人生を自分で考える機会や習慣があまりない」ことが早期リタイアに対する考え方に現れているといってもいいだろう。
日本においては、個々人の「ライフプラン」という概念がほとんど浸透していないのがその象徴だと思う。
「セミ・リタイア」という選択肢
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「リタイア = 完全引退」という定義であれば、「部分的なリタイア」つまり、完全に引退して仕事から離れるのではなく「セミ・リタイア」するという選択肢があっていいかもしれない。
今まで所属していた会社や仕事の世界と完全に縁を切って仕事人生を終える完全引退ではなく、早くから資産形成に努め、心身ともにまだ十分に健康で仕事が好調なうちに辞め、その後の余生を悠々自適に過ごしながらも、余裕のあるときには仕事もする…それが「セミ・リタイア」と解釈できる。
「セミ・リタイア」という言葉を使い始め実行していた大橋巨泉
かつて、TV業界を席巻した司会者&マルチタレントの大橋巨泉という人がいた。
実は、セミ・リタイアという言葉は、大橋巨泉さんが1990年(当時、彼が56歳の時)に、出演中のほぼ全てのTV番組を降板する際の記者会見で使った表現で、完全に芸能界・放送界と縁を切る「リタイア」ではないことを強調したものである。
よって、セミ・リタイアという和製英語は、大橋巨泉さんが使い始めた造語ということになるだろうか。
2016年に亡くなるまでの26年間に、大橋さんは温暖な気候を求めて世界各国を飛び回って暮らす、いわば「渡り鳥」のような生活をされていたことが知られていて、オーストラリアではご夫婦でひたすらゴルフをし、欧州では美術鑑賞三昧の日々を送っていたそうだ。
現役時代は年間2億円も稼いでいて、セミ・リタイア後も不動産収入があったとされているので、リッチで豪勢な海外生活を無理なく送ることができたのだろう。
彼のようなセレブの優雅な余生は筆者を含めた一般人にはただ羨むしかないが、こういう生き方もあるのだなあ…と知っておいて欲しい。
「老後」自体を限りなくなくすこと
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セミ・リタイアといったカッコいい余生を送ることはできなくても、何らかの形で働き続けることが、老後の不安をある程度は解消してくれて、あわよくば「老後」自体を限りなくなくすことに繋がる可能性さえある。
長年勤めた会社を定年退職及び、継続雇用期間終了で完全に離れた後も、何らかの形で働いてたとえわずかな金額であっても定期的な収入を得る方法を現役時代のうちから考えてそれに向けた準備をしていくことが大切である。
会社員時代に培ってきた知識・経験・ノウハウが活かせる仕事であれば理想的だが、未経験分野の仕事であっても専門性を必要としなければ、シニア向けの求人はたくさんあるだろうし心身に無理のない範囲でチャレンジするくらいの意気込みや柔軟性は必要だ。
起業するという選択肢も
また、自身で起業するという選択肢もある。
法人を設立するまでもなく個人事業で始められる規模・内容のビジネスの方が、開業資金は少なくて済むしリスクも小さいので始めやすいだろう。
収入がたとえ月額3万円~5万円程度のお小遣い稼ぎ程度であっても悲観的になることはない。
サラリーマン時代のようなストレスにまみれた仕事とは違い、自分がやりたいこと、やりたかったことを妥協せずにやれるのならそれで良いと思う。
筆者の知り合いで、60歳を少し前にして金融機関系の会社を退職した後、起業して自分のやりたい仕事にこだわったので最初の1年間は全く仕事がなかったという人がいた。
でも、彼はそんな状況をそれほど深刻には考えず楽観的だった。
起業後3年ほど経った今では、報酬の多寡はあまり問わず様々な仕事依頼を受けて、彼は会社員時代とは比べものにならないくらい充実した日々を送っている。
週末にも様々なテーマに関するセミナー講師を務めたり、ボランティアや自治体主催のイベントに参加したりして、多忙な日々送っているが、サラリーマン時代とは違ってトストスがないので忙しさは全く苦にならないといっていた。
健康面でも精神面でもシニアライフを豊かに
収入の多寡に関わらず、退職した後も何らかの形で働き続ける(生涯現役とまでは言わないが)ことが、経済的な助けになるだけでなく健康面でも精神面でもシニアライフを豊かにし、結果的に老後を先送りすることになる。
なぜなら、「働くことを辞めた時から老後が始まる」のだから。(執筆者:完山 芳男)