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寝たきりの親と旅行へ
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「冥途の土産に、あの店で食べたいなぁ」
そうだね、お父さん。できるもんなら連れてってあげたいよ。
でもね、飛行機に車椅子で乗っている人を見たことないよ。新幹線で車いすから座席にどうやって移乗しようかね。
バリアフリーの部屋はホテルにあっても、寝たきりの人は設備を使えないし、介護用のベッドまで用意してあるホテルってほんとに少ないんだよ。
それにね、旅行先でもお母さんが介護しないといけないね。お母さん、旅行を楽しめないね…。
言葉にできない言葉を飲み込み、
と言って話をそらすご家族が多いのではないでしょうか。
きっと何か手立てがあるはず、と思いつつ話をそらし続けてきた私でしたが、コップを持つ力も衰えてきた父をみて、旅行、行ってきました。
同じような思いをされている方、今後こういうことがあるかもと心配な方に少しでもご参考になれば幸いです。
父について
昭和13年生まれの79歳。
職場の健康診断で「A」以外マークしたことがない健康優良おじさんでしたが、完全退職して半年後の74歳11か月の時に脳梗塞を発症。
一命は取り留めましたが、脳の左半分が壊死し左半身不随です。自分で寝返りを打ったりできません。
電動車いすは右手で多少動かせるでしょうが、左半側空間無視があるので危険です。
脳梗塞発症当時は右手で箸を持ち豆も器用につかめましたが、5年くらい寝たきりなので、今は右側の筋力も衰えています。
体重は60キロちょっと、要介護度は5です。
同行者について
母74歳。
10年近く前にステージⅣの卵巣がんになりましたが完治。
免疫力が落ちているときに三叉神経痛を発症し、元々腰痛もあり、治療を受けつつ父の介護をしています。
他、弟とお嫁ちゃん、私と夫の6名ご一行様となりました。
旅行の目的
夫の妹夫妻が石川県金沢のお隣、野々市市下林で寿司店を営んでおり、美味しい寿司とお酒をいただくこと。
交通機関の選定と料金
往路は北陸新幹線で、復路は今後の参考のために飛行機を利用することにしました。
JRの場合、新幹線特急券は割引にはなりませんが、第1種障害者である父と介護者の母の金沢までの乗車券は半額です。
東京から金沢までの閑散期料金で、乗車券と新幹線特急券を合わせて1人1万250円。
JR東日本のインターネットサイト「えきねっと」限定の前売り割引切符「えきねっとトクだ値」より2,270円安い計算です。
同行者は「えきねっとトクだ値」を利用し、1人1万2,520円。
モバイルSUICAを利用した「スーパーモバトク」なら1万2,030円とさらに安いのですが、「えきねっとトクだ値」をきっぷ受け取り前に払い戻しする場合の手数料が310円であるのに対し、「スーパーモバトク」は1,200円(東京~金沢の場合)かかります。
父の体調が悪化し旅行をキャンセルすることを考え「えきねっとトクだ値」を利用することにしました。
今回はJR東日本メインでの旅行でしたが、JR各社にも割引運賃が設定されています。
ネット限定の料金と通常の割引料金、場合によってはチケットショップの料金と比較されるとよいと思います。
ちなみに北陸新幹線には現在のところ回数券の設定が無いため、チケットショップで安く買えることはありません。
車いす対応座席にするために
新幹線には車いす対応座席があります。しかし「えきねっと」などインターネットでは座席指定できません。
同じ列車内での座席変更は何度でもできるため、まずは「えきねっと」で車いす対応座席周辺の席を予約しました。
次に父の身体障害者手帳を持ってみどりの窓口に行き、新幹線対応座席と母のために隣の席を予約しました。予約時には専用の申込用紙への記入が必要です。
窓口スタッフが新人さんの場合、実際には車いす対応座席が空いているのに「空いてないですね」とか「インターネットでもわかる通り予約済みです」などと言われてしまうことがあります、というより今回そのように対応されました。
「車いす対応座席は通常の座席とは違う手配方法のはずですが」と突っ込みを入れると、30分以上かかってやっと発券に至りました。
それでも不備があり、後日ベテランスタッフに発券し直してもらいました。まずは食い下がってみる、重要です。
なお、新幹線または特急列車の乗車駅であれば電話でも予約ができます。
乗車駅まで行けない場合は、JR各社のお問合せセンターで受けてくれるか、乗車駅に電話をつないでもらえます。
諸条件ありますので、電話で詳細をご確認ください。
JR東日本 050-2016-1600
JR東海 050-3772-3910
JR西日本・JR四国 0088-24-5489(平成29年9月30日まで)
JR九州 050-3786-3489
新幹線は、窓側より3座席の通路側(C席)が1席分空いており、そこに車いすを置けます。
なのでA席とB席を座席指定しました。父は座席への移乗が大変なので、車いすごとC席におりました。
東京駅には30分程度早く到着し、JRのスタッフの方にホームから新幹線へのアシストをお願いしました。
車いすとC席を固定するベルトが未設置のままでしたが、車いすのストッパーをしっかりかけていたので事なきを得ました。
車内では途中交代したJR西日本の車掌が、体調を確認したり声掛けをしてくださいました。
金沢駅では情報が東京駅から申し送りされており、駅に到着して他の乗客が全て降車した後、スタッフが改札の外まで介助してくださいました。
JR利用については、座席予約以外はとてもスムーズでした。
復路の飛行機の場合
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復路の飛行機は、予算と時間帯と帰着空港の都合で全日空の旅割75を利用しました。
予約時に、車いすが必要なこと、自力歩行ができないこと、介助が必要なことも合わせて入力しておきました。
身体障がい者運賃であれば出発時刻前なら取消手数料はかからず払い戻し手数料430円のみです。
しかし、旅割75は出発日に近づくほど取消手数料がアップし、搭乗日13日前~出発時刻前は運賃の約60%相当額と払い戻し手数料430円がかかります。
日本航空の同様の割引運賃であるウルトラ先得やスーパー先得の取消手数料は、取り消し日にかかわらず運賃の約50%相当額と払い戻し手数料430円がかかるので、キャンセル時期によって全日空でよかったね、日本航空でよかったね、ということになるのでしょう。
情報は仕入れていたものの、飛行機での移動は想像以上に大変でした。
機内に向かうための車いすに移乗、機内で座席に向かうための車いすに移乗、その車いすから座席に移乗。ホップ、ステップ、ジャンプの移乗となります。
搭乗用の車いすに父を移乗させた後、クッションなど外れやすいものは外して袋に入れ、自分の車いすは手荷物検査を通して預けました。
予約時に座席指定をしていましたが、一番前の2列を航空会社が用意してくださっていました。
ただ1番前は足元のピッチは広いけれどアーム(肘あて)が動かせない、2列目は通常のピッチだけどアームは動かせる。悩ましい選択でした。
アームを動かせなければ、60キロちょっとの父を持ち上げるようにして移乗させる必要があるし、2列目だと介助者が体を入れるスペースが取りづらい。
結局1番前でよっこらドスンにしましたが、空港スタッフは相当大変そうでした。
降りる時も逆回しの同じステップです。しかもオープンスペースへの駐機、ターミナルまではバス。
バスへは昇降機で乗り降りできましたが、今後飛行機は無いな、と同行者一同無言で様子を見守りました。
やむを得ず飛行機に乗らなければならない場合や、不自由でも自力歩行や立ち上がりができる方でないと、なかなか手ごわいぞ、飛行機、と思いました。
なお両親は、東京駅までと帰着空港からそれぞれ介護タクシーを利用しました。自治体の割引クーポンを利用し、往復約2万円でした。
宿泊先について
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機能しない左足が痛いと毎晩父が母を起こすので、旅行の時くらい母をゆっくり休ませてあげたい。
利用料全額自己負担で旅行先に近い施設でショートステイができないか、別々の部屋を予約しようかなど、いろいろ検討しました。
結局、昼間は興奮して起きているだろうから夜は寝てくれるはず、父を1人にするのは可哀そうだということで、一般のホテルを利用することにしました。
ホテル選びは、車椅子からベッドに移乗するためにベッドを上からみて左側にスペースを大きくとれること、同行者が入室できる程度の広さがあること、できれば金沢駅まで徒歩圏であること、という条件で探しました。
今回は駅から徒歩10分弱で広さが30㎡ちょっとの部屋を、サービス料と税込み約1万4,000円で3部屋利用しました。
いつもは宿泊予約サイトを利用することが多いのですが、今回はホテルの公式サイトから予約し、予約時に部屋のリクエストを文章で残しておきました。
宿泊予約サイトからでもよかったのですが、公式サイトから直接予約することで、部屋についてのリクエストが万一届いていなかった場合でもしっかりクレームできるだろうという小心者の発想です。
当日、部屋のリクエストは伝わっており、車いすから移乗するためのスペースも空けてありました。
事前にベッド高を確認するのを忘れておりましたが、ロースタイルのベッドだったので、車いすとベッドの移乗はわりとスムーズにできました。
朝食のビュッフェは、車いすのままテーブル席に座ってもちょうどよい高さだったようです。
なお全国各地にあるほとんどの「かんぽの宿」には、介護ベッドと介護リフト(天井から吊るされた移動用リフト)を備えた部屋が用意されており、リフト付きの家族風呂がある宿もあります。
機会があったら利用してみたいと思います。
現地サポートの手配と料金
いつも父の介護をしている母が旅行先で疲れてしまうことは確実です。
普段は口出し介護の同行者4名が精一杯サポートするとしても、果たして酔っ払いが酔っ払いの介助ができるものだろうか、介護保険を利用せず全額自己負担で介護ヘルパーは利用できないものか、と情報を集めました。(同行者がお酒をいただかないで介助するという選択肢は思いつきませんでした)
「金沢 車いす 介護 手配」とインターネットで検索してみたところ、石川バリアフリーツアーセンターがヒットしました。
石川バリアフリーツアーセンターは、障がいのある人や高齢者が旅行する際に必要な情報を紹介、対応していただけるNPO法人です。
父の状況および旅行についての希望を伝え、同行者も混乗できる介護タクシー(ドルフィンケアサポートの女性ドライバー)と介護ヘルパーの手配をしていただくことにしました。
ホテルによってはレンタルの介護ベッドを部屋に入れることも可能ということでしたが、今回は介護ベッドなしとしました。
介護ヘルパーについては当日トラブルが生じたため、酔っ払いと母で父をベッドに寝かせました。
旅にトラブルはつきもの。同行者の介護スキルや体力も、旅行の成否を左右する条件だと実感しました。
なお介護ヘルパー料金は2時間単位で1回4,200円+ヘルパーさんの交通費(車代)500円とのことでした。
介護タクシーは時間貸し切りとしない限り、観光時間に荷物をタクシーに乗せたままにはできません。
チェックアウト時に、おむつやタオルなどが入った大きな荷物をホテルから自宅に宅配しました。
今回はたまたま他の予約が入らなかったとのことで、手持ちの荷物はご厚意で車内に置かせていただきました。
料金は通常のタクシーメーターに一般的な迎車料金や待機料金が加算され、障がい者割引や遠距離割引が適用されるシステムでした。
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旅を終えて
私は旅のパンフレットを作るほど旅行の手配が好きなのですが、多くの方にとってこれらの手配は面倒でしょうし、トラブルがあると旅行中イライラしてしまうかもしれません。
一方、100%希望ピッタリな行程のガイドやヘルパー付きの車いすツアーは限られます。
専門の業者に委託するとそれなりにお金もかかります。
JRや航空機については是非記事をご参考に、現地のサポート手配については今回お世話になった石川バリアフリーツアーセンターのように相談に応じてくれるところを探してみると、きっと力になっていただけると思います。
さいごに
今回の旅行でかかった費用(宿泊料と主な交通費1名分)
北陸新幹線 運賃と料金
【東京→金沢】 閑散期
両親 1万250円
同行者 1万2,520円
宿泊(朝食込)
両親 6,745円
同行者 6,745円
兼六園入園料
両親 0円(身体障害者手帳、65歳以上を証明する書類提示)
同行者 310円(1名は介助者として無料)
小松→首都圏(飛行機)
両親 7,540円
同行者 約7,540~1万490円
介護タクシー
観光及び、空港送迎で約3,500円
その他飲食代、土産代、駅や空港までの交通費がかかりました。
旅行中に急に体調が悪くなった場合に対応してもらえそうな病院を調べておいたり、同行者がどんなシーンで気前よくサポートしてくれそうか、得意なことやツボな言葉をリサーチしておくことも旅を楽しく過ごす重要なファクターであることを最後に添えたいと思います。(執筆者:古川 みほ)