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安楽死と尊厳死
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日本は戦後の一時期、毎年250万人が生まれていたが、2016年の出生数はなんと100万人を切った。一方で、移民の受け入れは極僅かという状況が相変わらず続いている。
また、平均寿命と健康寿命の差は10年以上もあり、それが縮まるどころかこれから広がっていくと予想されている。
以上のことから、今後、病で苦しむ高齢者の皆さんを十分に介護するのは、日本では限りなく不可能になっていくことは想像に難くない。
社会保障制度の持続性が不安視される中、高齢者介護がますます厳しい状況になっていく前に、日本でも安楽死(少なくとも尊厳死)について国民的な関心を高め、将来の法制化に向けた議論を進めていくべきだと筆者は思う。
過去に寄稿した記事で、日本ではタブー視されがちな「死のあり方を考える」ことについて書いた。
よく誤解されがちな安楽死と尊厳死の違いや、安楽死をテーマにした映画も紹介しているので、関心のある方々に是非読んでもらいたい。
欧米諸国と日本を比較
あまり知られていないことだが、オランダは高齢者ケアの先進国として、世界の先端を走っている国だ。安楽死の法制化はもちろんのこと、在宅医療・在宅介護が国中に浸透している。
オランダは病院死が世界で最も少ない国であることがその象徴であろう。
欧米諸国と日本における病院死を含む死亡場所
以下に比較をした。
各国で調査時期が異なっており、日本は2014年のデータで比較的新しく、アメリカは2007年と少し古いが、各国の状況を大まかに比較するには支障はないといえよう。
・ スウェーデン 病院死42%・自宅死20%・施設その他38%
・ アメリカ 病院死43%・自宅死26%・施設その他31%
・ フランス 病院死57%・自宅死25%・施設その他18%
・ 日本 病院死80%・自宅死13%・施設その他7%
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データは DIAMOND ONLINEの記事を参考に筆者がまとめ、数値は適宜、四捨五入している。
参照:約8割が病院で亡くなる現状から「脱病院」路線へ 変わりはじめた日本人の「死に方」/オランダでは安楽死が「転倒する不安」「認知症」で認められる
日本人の約80%が病院で亡くなっている
欧州諸国では病院での死亡者は格段に少なく40%から50%台に過ぎないことが分かる。その中にあって、病院死が30%を下回っているオランダは際立っているといえよう。
ダイヤモンド・オンラインの記事でも言及しているが、日本で「病院死」が多い理由は病院信仰が根強いことが考えられる。
オランダやスウェーデンの死亡場所
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「施設・その他」での死亡割合が40%前後と比較的高い。
その理由として、近年の欧州ではナーシングホームなどの施設が充実していることがあげられます。
自宅にいる時とほぼ変わらない環境や部屋づくりで、自宅から引っ越した高齢者が「第2の自宅」として穏やかに最期を迎えることができるからだと本記事では指摘している。
精神的苦痛も加味されたオランダの「安楽死」
オランダで法制化されている安楽死は、当初はがん末期患者の身体の苦しみを解放することを主な目的としていたが、その後、終末期の枠が外され、精神的苦痛も加味されたとのこと。
さらに、現在では認知症でも安楽死できた人のケースがあるようだ。
安楽死が適用される許容範囲が広がり、ここまで受け入れられているのかと正直驚いてしまうが、
「死のあり方」や終末期医療においては、家族任せ、医者任せの日本とは隔世の感がある。
オランダの安楽死の割合
オランダで安楽死した人は、2016年に約6,000人に上っており、亡くなった人の総数の4%を占めているようだ。
そして、安楽死を選んだ人のうち、がん患者が最も多く68%の4,137人であるとのこと。認知症の人は2.3%の141人でまだ少数派ではあるが、その比率は年々着実に増加していることが公表されている。
もちろんオランダで安楽死か認められるためには、以下の複数の条件を全て満たす必要がある。また「家庭医」という存在が、オランダ国民の健康生活・介護・終末期医療に大きな貢献をしていることは興味深い。
安楽死が認められる条件
・ 本人が死を望んでいる
・ 家庭医が正確に病状を伝える
・ 家庭医でない別の医師1人も安楽死を承認する
・ 死後に検視官が問題はないかチェックする
・ 検証委員会が死の経緯を調査する
オランダの家庭医事情
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オランダ国民は、自宅近くの地域の家庭医(診療所)に全員が登録をして、その家庭医からどのような病状・症状であっても診察(内科、外科、耳鼻科、皮膚科、小児科・・・但し歯科を除く)を受ける。
つまり、すべての診療が同じ家庭医によって行われるのだ。
その家庭医には、家族ぐるみで登録している場合が多く、医師は普段から家族一人ひとりの健康状態をしっかりと把握している。
患者の人生の歩みやライフスタイルを家庭医は熟知しており、その延長線上で安楽死にも深く関わっているということなのだ。
延命処置について
折しも、日野原重明さん(聖路加国際病院 名誉院長)が2017年7月18日に105歳で亡くなられた。延命をしないというご本人の意思があり、無理に命を残す治療に反対をされていたと報道されている。
日野原さんが、105才で延命治療を受けられないことは至極普通であると感じたが、「何歳なら延命措置を施さなくていいのか?」と素朴な疑問も湧いてくる。
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何歳であっても、死に際して本人の意志がもっと尊重される社会であって欲しい
例えるなら、60歳代でも胃瘻、点滴、人工呼吸器はしたくないという人もいるだろうし、そうでない人もいる。
人は生まれたからにはいつかは死ぬ。生まれる時は自分の意思によらず生まれるのだから、死に際は自身の思いにしたがって死にたいと思うのが自然なのかもしれない。
ご自身にとって「望ましい生き方を実践」された日野原さんの訃報を知って、人間らしい生き方、死に方を深く考えさせられた。
安楽死が法的に認められているオランダを一つのモデルケースとして、我が国日本は、
・ 人間らしい生き方・死に方を実現できる社会
を目指して、安楽死についての理解を深めていくことが必要なのではないだろうか。(執筆者:完山 芳男)