2017年衆院選で、希望の党の公約に挙がって話題になった「ベーシックインカム」。
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労働の担い手が人工知能にとって代わられた場合に、国民はベーシックインカムによって生活が保障されるという話があります。
ただ、政党公約として語る場合は財源論がどうしても問題になります。
ベーシックインカムそのものではないものの、財源論をある程度克服できるものとして給付付き税額控除というものもありますが、今回の衆院選ではあまり話題になりませんでした。
年末調整や確定申告で税を意識する時期に入り、理解しておいたほうがいい制度です。
目次
負の所得税という概念を導入
一般のサラリーマンですと住宅ローン控除が典型的ですが、例えば給与等から徴収された所得税が10万円で、住宅ローン控除の額が20万円の場合、最終的な所得税額は0円となり、年末調整もしくは確定申告で還付される額は10万円です。
ところがここに「負の所得税」という概念を導入すると、所得税は△10万円となり還付額も20万円に増えます。
税額控除が20万円と計算されたとしても、所得税が20万円を下回ったら所得税額分しか税額控除が使えません。
それをどのような所得税額でも税額控除が20万円と国民が等しく使えるようにし、税制という枠組みに低所得者への給付金を組み込むのが「給付付き税額控除」です。
例)定額の税額控除を設けた場合
例えば年間60万円という定額の税額控除を設けたとします。
月5万円のベーシックインカムを国民全員に配るのに比べると、控除前の所得税額が0円の低所得層なら満額もらえますが、60万円を超える方は全くもらえないことになります。
消費税増税の際に導入が検討された
安倍政権の官邸や公明党の意向で、2019年10月の消費税10%増税の際には、食品や新聞に軽減税率が導入されることになっています。
ただ軽減税率は購入する全国民が恩恵を受け、必ずしも低所得者対策にならないことから、旧民主党・維新の党などは給付付き税額控除で低所得者対策を行うよう求めていました。
定額の税額控除を、最低生活費にかかる消費税分に設定すれば、低所得者にとっては給付が生活必需品の助けになるというわけです。
給付金申請と確定申告、給付と財源の一体化も可能
ベーシックインカムを導入するとなると
「他の社会保障は廃止されるのか?」
という疑念・疑問がわいてきます。
給付付き税額控除の場合は、給付財源としての所得税・住民税を増税することも可能であり、この制度1つで給付・財源とも意識したものになります。
扶養控除や保険料控除などの所得控除は、
となり税率の高い高所得者に有利になるので、税額控除化も議論されてきました。
財源確保のためには税率を上げることだけでなく、所得控除を税額控除化することも考えられます。
その上で、既存の給付金を整理しつつ給付付き税額控除を導入するのです。
例えば母子・父子家庭が対象になる寡婦・寡夫控除と児童扶養手当を、給付付き税額控除に1本化するなどです。
このようにすることで税制と社会保障が整理され、対象者を絞った形のベーシックインカムも可能になります。
また児童手当など自治体からの給付金には、多くは前年の所得を基にした所得制限がついていますが、所得制限にひっかかると気づく時には、年末調整や確定申告をすでに終えています。
給付付き税額控除であれば、給付を意識しながら確定申告を行うことも可能なように思えます。
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最後に
希望の党でベーシックインカムの公約化で考えていた候補者は、すでに民主党 → 民進党で議論されてきた給付付き税額控除を念頭においていたという一部報道もあります。
ただ税務に絡む給付金制度ですと有権者に難しく見えるので、わかりやすい形で訴えたのかもしれません。
急な解散総選挙のせいでしょうか、ベーシックインカムという給付と財源論が嚙み合ってなかったように見えてしまったのが、残念なところです。(執筆者:石谷 彰彦)