「かぼちゃの馬車」…一見してなかなかイメージできないネーミングです。
これは都内で展開する女性専用シェアハウスのブランド名です。
ところが突如、不動産会社から投資家に、家賃の支払いが止まりました。
投資家はローン返済ができなくなったのです。
一体何が起こったのでしょう。
この投資商品の全容、ローンのスキームを紐解き、また投資する側の問題も考えていきたいと思います。
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目次
キーワードは「サブリース」
「サブリース」…この言葉がキーワードになります。
家賃保証や空室保証などを行うところもあります。
投資物件を買った投資家は、部屋を借りている人からではなく、不動産会社経由で家賃収入をもらいます。
何もすることはありません。しかも空き部屋になってもちゃんと保証してくれます(期間限定ではありますが)。
一見、投資家にとってはなんのリスクもないように見えますが、「かぼちゃの馬車」物件に関して、このサブリースの家賃支払いを不動産会社が停止したのです。
突如30年間の家賃保証契約を停止し、今後一切賃料を支払わないということになったのです。
それは、投資家にとっては不動産担保ローン返済ができないということにつながります。
「頭金は不要」、「30年間の家賃収入を保証する」などと勧誘された投資家が、1棟あたり約1億円の融資を受けてシェアハウスを購入しています。
一括借り上げで家賃を保証する「サブリース」という仕組みが投資家の心を動かしたのは事実です。
今回の物件の大半が、横浜市内のスルガ銀行の支店から不動産取得資金を借りていました。
投資家は1億円の借金だけが残ったのです。
そもそも女性専用シェアハウスの入居率は、2017年10月末時点で40%だったそうで、残り60%は空室ということになっていました。
空室保証となると、不動産会社の費用の持ち出しは増えるばかりです。
いずれ時間の問題で立ち行かなくなるのは、誰が見ても明らかです。
この物件のポイントは30年間のサブリース契約と、この後説明する金融機関の融資スキームでした。
さらに、スマートデイズという会社の経営体質にも問題がありました。
不動産会社の経営体質に問題が
スマートデイズ社は、毎月の売上利益と銀行からの融資金で補てんする自転車操業でした。
銀行から融資を受け続けなければ持ちこたえられない状態でした。
全室サブリース契約し、さらに購入者に対して家賃以上の収入を保証するという非常に魅力的なプランが問題でした。
賃借人がついてきちんと家賃を支払ったとしても、投資家への保証との差額は持ち出しとなっており、本来のサブリースの概念とはかけ離れたビジネスモデルだったようです。
そもそも物件の立地にも、空室になる要素があったようです。
スマートデイズのメインバンクであるスルガ銀行が、会社への融資をストップしたことが、今回のことの始まりのようです。
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銀行の責任
スルガ銀行の融資体制にも問題があると指摘されています。
以下、朝日新聞電子版(2018年3月17日)記事の抜粋です。
「シェアハウス投資で約束された賃料がオーナーに支払われなくなった問題で、金融庁は、多くのオーナーに融資した地方銀行のスルガ銀行(静岡県沼津市)に対し、銀行法に基づく報告徴求命令を出した。シェアハウス投資では、オーナーが不動産仲介業者に託した融資書類で改ざんなどの不正が多数確認されている。スルガ銀行は自主調査を始めたが、監督する金融庁としても実態を詳しく把握する必要があると判断した。」
「また、オーナーがシェアハウスを購入する際、不動産仲介業者を通じてスルガ銀行に出した融資関係書類で、預金残高の改ざんなどの不正が多数発覚している。スルガ銀行は返済が難しくなったオーナーに対して返済を事実上猶予したうえで、オーナーへのアンケートなどを行うなどして融資実態の調査をすでに始めている。」
これは、不動産販売会社と銀行が手を組んで融資を通りやすくしているということです。
お互い「Win-Win」の関係で、販売会社は銀行融資が通らないと物件を販売できないので、どんな人でも融資をおろせる銀行や担当者を望み、銀行は融資案件をより多くもて来てくれるパートナーを探しています。
不動産会社の持ち込んだ融資案件を無事こなせば次の紹介につながります。
このお互いの利害関係に、融資書類の「改ざん」という、融資を通すためには何でもするという構図ができあがったのでしょう。
住宅ローンにも関係する返済比率
スマートデイズの提携金融機関であるスルガ銀行です。
スルガ銀行は不動産投資に積極的に融資をすることで知られています。
特にワンルームのマンション経営には積極的で、一般的に他行では借入できないような属性の人にも融資をしています。
通常、借り入れできる上限額は、返済比率というものから割り出します。
返済額が年収のおよそ25~30%が最大となり、それ以上は通常融資を受けられません。
例えば、年収1,000万円であれば年間の返済額が250万~300万円が上限になりますので、それ以上になる場合は融資の対象にはなりません。
返済額には対象不動産とそれ以外の返済も全て含みますので、借り入れがあり収入が少なければ融資はかなり厳しくなるでしょう。
住宅ローンやカードローンも含まれます。
数式で表すと、分母に年収(これが額面で手取りではありません)、分子に対象不動産のローン返済額(返済初年度1年分)と他の借入れ(1年分)の合計となり、これで割り出されたものが、通常は25~30%の範囲に納めるというものですが、スルガ銀行の場合は、これが50~60%となっているのです。
つまりその枠が広がる分、分子の数字を大きくすることができるのです。
他に借り入れがあっても、新たな不動産購入ローンを組みやすいということになります。
他行でローンが断られた人でも、スルガ銀行では融資が受けられる仕組みはここにあります。
スルガ銀行独自の融資スキーム
さらに、スルガ銀行独自のスキームが存在します。
不動産を購入する際、1割~2割の頭金を入れるのが一般的だという認識の方は多いと思います。
しかし、自分で住む不動産(実需と呼ばれます)の場合は頭金を入れますが、投資用不動産の場合、頭金を入れないケースが多分にあります。
投資用物件から得られる収益も、ある意味、融資の担保となるからです。
スルガ銀行は融資する案件ではほとんど物件価格の100%を融資します。
そのため頭金がない人でも不動産を購入できるのです。
すでに投資用の不動産を所有している場合はさらに枠が広がります。
既存の所有物件の家賃収入を年収に足して計算するからで、そうなると、先ほどの数式の分母が大きくなるのです。
先ほどの年収が分母、1年間の返済額を分子とする数式で割り出されたものを「返済比率」と説明しました。
俗に「ローンが通りやすい銀行」と言われるは、この返済比率の枠が大きいところとなります。
バブル真っ最中の頃、破綻したリーマンブラザーズ系列の住宅ローン会社(日本法人)では、この返済比率を80%にしていたという話も聞いたことがあります。
場合によっては年収が少ない人でも、金額が大きい物件を購入するためのローンが組めるということになります。
「借りられる」と「返せる」とは違います。
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ローンが通りやすい銀行=「困ったときのスルガ銀行」だった
話はそれますが住宅ローン相談でも、住宅ローン購入ありきでローンの話をする人が多いです。
「ローンが通りやすい銀行はないか」とよく聞かれます。
住宅ローンを扱う会社等では「困ったときのスルガ銀行」と言われていました。
また、ローンを通すために動ける人を「住宅ローンにつよい」と評価されるようです。
それは住宅販売側からも、また購入者側からもです。
また、借入れをする人の属性、ドクターだとか弁護士などの、一般的に社会的地位がしっかりしているとされる人たちには借入れ金利を下げる仕組みもあるようです。
毎月の返済額を低く抑えることができますので、不動産会社とうまく組めば、投資用物件販売促進にもつながります。
普通に考えれば破綻予備軍を作っているようなもので、銀行側としても、目先の数字(ノルマかもしれません)を達成することはできますが、長い目で見てどうなのでしょう。
融資審査を、本店決済ではなく支店決済でやっている可能性を感じますね。
融資書類の改ざん疑惑
さらに問題とされるのが融資資料の改ざんです。
国会でも問題になっていますが、データ改竄です。
通帳の原本を確認せずに融資をしていたとニュースになっていましたが、スルガ銀行以外でも通帳コピーで審査するところもありましたし、賃貸借契約書も原本確認しないところもありました。
「かぼちゃの馬車」とは違う案件ですが、都内投資用物件審査で、源泉徴収票を書き換え、給与明細を書き換え、預金残高を書き換え、挙句の果てに生命保険審査結果表のデータも改ざんしていた現場を見たことがあります。
購入する収益物件の家賃予想データの水増しは日常に行われていると聞きました。
収益物件の家賃予想は返済比率にもかかわることで、先ほどの分母を大きくするために、水増しした家賃収入で審査をしているようでもあります。
ネットで周辺物件の家賃相場を聞いて改ざんするという手のこりようでしたね。
「融資が通る」と「返済ができる」ということを、物権を買う人はどう考えているのでしょう。
不動産販売会社と銀行との関係にも問題はありますが、買う側のモラルも疑われます。改ざんは買う側も知ってのことだと思われますね。
これ、ここだけの話ですよ。
物件を買う(投資する)側にも問題がある
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「かぼちゃの馬車」問題は、投資する側の自己責任という要素もあるかと思います。
「30年保証」というおいしい話に乗ったことも問題ですが、きちんと物件の状況、会社の状況を調べたのでしょうか。
冷たい言い方になりますが、投資家の自己責任です。
そもそも何もしなくても良い、何もしなくてもお金が入ってくると言うスキームに乗る投資家にも問題があります。
ちゃんと投資物件を見に行ったのでしょうか。収益計算はご自身でされたのでしょうか。
今回「かぼちゃの馬車」案件では、融資を通すためにさまざまな改ざんを行った形跡があります。
それは銀行側がやったのか、不動産販売会社がやったのか、お互い事実は知っていたのか、購入者側も加担していたのか…
不動産販売側は、融資が通らないと物件は売れません。
物件を買う側も、物件を買うために融資を通してほしいと願っていて、奇妙な三角関係が奇妙なバランスで成り立っていました。
利害が合致しているのです。それが「どんなことをしてでも融資審査を通す」という一点で結ばれているのです。
販売側は売れればそれでいい、銀行側は(よくわかりませんが)融資できればいい、一番リスクを背負うのは物件購入者です。
ローンを組む債務者です。それがどんなことをしてでも融資審査を通してほしいと思うことがよくわかりません。
人間には「欲」がありますので、このような問題は後を絶たないのでしょうね。(執筆者:原 彰宏)