厚生労働省自殺対策推進室および警察庁生活安全局の発表によると、毎年2万人を超える人々が自殺によって命を絶っています。
原因はさまざまで、十把一絡げにすることはできませんが、経済・生活問題、健康問題、家庭問題、勤務問題、学校問題、男女問題など、あらゆる要因が連鎖することによって「自殺」という選択をしてしまう人がいると言えます。
さて、
今回は、自殺と生命保険について解説します。
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目次
保険法には、自殺は保険金支払い対象外と明記されている
すべての保険は、「保険法」という法律によって基本的なルールが定められており、それに沿った運用が行われます。
保障の開始時期や保険金の支払い、契約が取り消しになる条件など、さまざまなことが保険法によって決められています。
この保険法に、以下のような「保険者の免責」(51条1号)という項目があります。
死亡保険契約の保険者は、次に掲げる場合には、保険給付を行う責任を負わない。
ただし、第3号に掲げる場合には、被保険者を故意に死亡させた保険金受取人以外の保険金受取人に対する責任については、この限りでない。
一. 被保険者が自殺をしたとき
二. 保険契約者が被保険者を故意に死亡させたとき(前号に掲げる場合を除く)
三. 保険金受取人が被保険者を故意に死亡させたとき(前2号に掲げる場合を除く)
四. 戦争その他の変乱によって被保険者が死亡したとき
(保険関係法規集より引用)
少し難しい言葉を用いていますが、要は被保険者が自殺した場合は、保険会社に保険金の支払い義務はないということが明記されているのです。
実際は保険金が支払われることもある
保険法の上では上記のように定められていますが、実際には死因が自殺であっても保険金が支払われる可能性があります。
効力は保険法<約款
保険法で定められていることから、「自殺は免責に該当する」と結論づけるのは早計です。
実は、保険法はあくまで「任意規定」であり、保険会社と契約者の間に別の約束事、つまり約款に「自殺による死に対しても保険金を支払う」と解釈できる記載があれば、保険金が支払われるというルールになっています。
ただし、免責期間が設けられている
どんな場合も自殺による死亡ならば保険金がおりるというわけではありません。
どんな生命保険にも「免責期間」が設けられており、免責期間内の自殺であれば、基本的に保険金は支払われません。
免責期間の長さは保険会社や保険商品によりますが、1~3年です。
約款には、以下のように記されています。
責任開始期から〇年以内の被保険者の自殺
裏を返せば、所定の期間を経過した後の自殺であれば、保険金が支払われます。
なぜ免責期間があるのか
例えば、自殺を企図している人が、保険金を不正に得る目的で保険に加入するということが考えられます。
こうした人にも、他の加入者と同じく保険金を支払うのは、平等とは言えません。
保険は、公平性を元に成り立っているシステムですから、保険会社の信頼や経営を脅かす可能性のある加入者は排除されるべきだと考えられています。
そこで、一定の免責期間を設け、保険を悪用しようと画策する加入者を除外しているのです。
また、仮に死を決意した人が保険に加入しても、一定の期間が経過すれば状況が変わる可能性があります。
そのために、数年間の免責期間が設けられているのです。
精神疾患が自殺の原因なら、保険会社の判断による
うつ病の診断基準に「死について繰り返し考える」という項目が挙げられています。
このことからも、うつ病と自殺は深い因果関係があるという見方が強いようです。
・ 自由な意思決定をすることができない状態で自殺した場合
以上の条件を満たせば、免責期間内の自殺であっても保険金が支払われる可能性はありますが、保険会社の判断によるため、一概に申し上げることはできません。
生命保険は万一の場合に遺族を救うもの。だけど自殺では救われない!
死因が自殺である場合も、保険金が支払われる可能性はあります。
が、最初から自分の命と引き換えに遺族にお金を残すことを目的とするのは、本来の生命保険の役割とはかけ離れています。
また、たとえ自殺によって保険金を家族に残せたとしても、遺された人たちが救われることはないと、思うのです。
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お金のことで悩んでいるならば、自己破産や生活保護、その他の手段によって解決策を見いだせないか、まずは国や自治体に相談してみてください。
うつ病などの精神疾患を患う家族を持つ方は、「死」という道を選ばせないよう、支えになってください。
もしも抱えきれないなら、さまざまな人や機関に頼ってみてください。
保険金目的で悲しい選択をする人が1人でも減るようにと願っています。(執筆者:近藤 あやこ)