平成30年7月豪雨の後、財産を失った場合に、確定申告で雑損控除や災害減免法に基づく所得税減免が使えることは、私以外の寄稿者を含めて紹介しているところです。
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ただ失ったのが自分の持ち家ではなく、他人に貸し付けていた物件となると、不動産所得を生む資産ですので、当然扱いは変わってきます。
また不動産投資の規模によって確定申告の仕方が変わる点は、気をつけなければいけません。
目次
事業的規模かどうかにより申告の仕方が変わる
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不動産投資を「事業的規模」により行っているかで、確定申告の仕方は異なります。
事業的規模とは、アパートやマンションのような区分所有の建物であれば、10室以上所有して貸し付けていることを指します。
独立した一軒家であれば、1棟で2室分とカウントされます。事業的規模の基準は、5棟10室基準と言われています。
事業的規模の場合
事業的規模の場合、青色申告を行い税務署に提出する決算書で貸借対照表を作成している場合もあります。
貸借対照表上の資産が失われることにもなりますので、不動産所得における必要経費(損失)として計上することになります。
この損失は「被災事業用資産の損失」と呼ばれます。
青色申告を行っているかどうかに関わらず、各種所得の合計(不動産譲渡、株式譲渡やFX取引による所得は対象外)から引き切れない不動産所得の損失は、3年間繰り越しが可能です。
損失額は、雑損控除と同様に
で計算します。
事業的規模でない場合
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一方事業的規模でない場合は、不動産貸付は事業とみなされないため、被災事業用資産の損失にはなりません。
ですが2通りの方法で申告が可能です。
業務用資産の損失
細かい用語の違いになりますが、事業用資産の損失ではなく「業務用資産」の損失となり、不動産所得の必要経費とすることができます。
業務用資産の損失額は、被災事業用資産の損失と同様に計算されますが、引ききれない部分の損失繰越は不可です。
例えば、業務用資産の損失を除いて不動産所得の金額が100万円と計算された場合に、業務用資産の損失が1,000万円であっても、差し引ける業務用資産の損失は100万円だけです。
雑損控除の場合
上記のように被災の損失が不動産所得を上回る場合は、雑損控除を選択するという方法もあります。
雑損控除の額は、各種所得の合計(=総所得金額等、不動産譲渡・株式譲渡なども含む)×10%を足切限度額として、
として計算されます。
例えば、
不動産所得以外の所得が300万円
被災による損害額 - 損害保険金などで補てんされる金額が1,000万円
とすると、足切限度額は40万円になるため、雑損控除額は960万円と計算されます。
所得合計(総所得金額等)が400万円のため、雑損控除のうち引ききれない額が560万円となります。
この分は、雑損失の繰越控除として、翌年以降3年間で所得から差し引くことができます。被災の損失が大きい場合は、業務用資産の損失よりも雑損控除を選択したほうが良いです。
事業的規模における被災事業用資産の損失と比べると、足切限度額の分40万円だけ繰り越せる金額が低くなります。
しかし被災事業用資産の損失と違って雑損失の繰越控除は、株式やFX取引・不動産譲渡による所得からも差し引くことができます。(執筆者:石谷 彰彦)