株を相続しても、持ち続ける意味がないと考えるのであれば、空き家になってしまう不動産のように売却してしまおうとなるはずです。
金融・証券税制は税制の専門家でも理解しづらいところはあります。
まして普段株式投資をやったことの無い人が、株式売却の確定申告を行うというのも結構ハードルがあります。
目次
源泉徴収あり特定口座で取引していた株か
被相続人が源泉徴収あり特定口座を開設し、この口座の資金で購入した株を相続しているのであれば、売却時に所得に対して20.315%の所得税・住民税が徴収されます。
この場合は所得税・住民税ともに(証券会社などの)金融機関経由で納めているので、確定申告不要です。
源泉徴収あり特定口座で取引せず、売却時に所得税・住民税を納めていない場合は、確定申告が必要です。
非上場の未公開株の取引に関しては源泉徴収制度が無いので、こちらも確定申告が必要です。
確定申告すると節税になる場合も
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上場株式の相続税評価
所得税の確定申告と直接関係ないですが、上場株式の相続税評価額は、素直に考えれば相続発生日の終値(例えば国内現物株であれば、株式市場がクローズする15時時点での金額)に思えます。それより低い金額を選ぶことも可能です。
相続発生日が平成30年7月20日であれば、7月20日終値の他、平成30年7月の終値平均・6月の終値平均・5月の終値平均の4つの中から、最も低い金額を選択できます。
相続税額の取得費加算による節税
株式の売却を行った場合、譲渡所得は売却金額から購入金額(取得費)や譲渡費用(株式の場合、売買手数料)を差し引いて計算します。
相続税の申告を行った結果相続税を納めた場合は、相続税のうち売却した財産分だけ、取得費に加算できます。
後述の理由から、源泉徴収有り特定口座での売却分に関してはあまりお勧めできないのです(所得税の還付対象にはなります)が、詳しくは「相続した資産を売却して確定申告する方へ 「相続税の取得費加算の特例」を理解しよう」で解説しています。
株式投資に不慣れなら、いたずらに申告しないほうがいい
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所得税の還付対象になるにもかかわらず、なぜいたずらに申告するのがお勧めできないのかというと、臨時的な所得の申告で弊害も出てくるからです。
自治体の健康保険や介護保険に加入している場合は、申告所得に基づいて保険料を計算します。このため申告することにより、保険料を押し上げる要因になります。
また例年税法上の扶養範囲内の所得しかない場合、申告することで扶養対象外になる恐れもあります。
金融・証券税制と呼ばれるものは、申告の選択肢が多いのが特徴です。
ただ世帯内の家族の税額に影響したり、あるいは税制と関係ない社会保障(所得制限のある給付金・負担軽減制度や、所得に基づいて計算される保険料・保育料など)に影響したりと、一種のトラップも多いのです。
申告の手間もかかるので、株式関係の所得は申告せずに済むならやめておいたほうが良いと考えます。(執筆者:石谷 彰彦)