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最近の業績をおさらいしよう

靴の販売で有名なABCマート。読者の皆さんも一度は店舗に足を踏み入れたことがあるのではないか。
この会社は1月9日に、2018年3~11月期の業績を発表した。
参照元:ABCマート 2018年3~11月期決算短信(pdf)
この期間の連結売上高は前年同期比4%増の1962億円。都心を中心にスポーツ系商品に力を入れたことで販売が伸びた。
決算期を変更した2002年2月期以降、ABCマートは17年間連続で増収を達成しており、今のペースだとどうやら今期末も増収での着地となりそうだ。
営業利益はというと2018年3~11月期は前年同期比2%増の333億円で、この期間として3年ぶりに最高を更新した。
増収増益でも、投資家には大きな不安が…

売上高と利益が増えること自体は悪い話ではない。
しかし、今後も今の経営方針が続くと、投資家のトータルリターンが低下していく可能性が高いようにみえる。
トータルリターンとは、「株価上昇による値上がり益」と「配当収入」を合わせたもので、これを得ることこそが投資の目的である。
話をABCマートに戻すと、この会社の資本効率は年々悪化し続けている。
具体的には、ROE(自己資本利益率)が2008年2月期の26%をピークに、2018年2月期には13%まで低下している。この10年間で、ピーク時の半分の水準まで悪化したことになる。
これは、会社が年々お金を効率的に増やせなくなっていることを意味する。
背景には店舗数を増やし続けていることがある

アパレル業での店舗数増加が資本効率の低下につながるのはイメージしやすい。
利用者が複数の店舗に分散することで、1店舗当たりの収益が減ってくるからだ。
ABCマートの店舗数は2002年2月期末の57店舗から2018年2月期末の1203店舗まで、この16年間で20倍近く増えた。
一方で、1店舗当たりの年間売上高は5.7億円から2.1億円に、営業利益は1.7億円から0.4億円に、それぞれ7割近く減少した。
コスト削減効果が相殺することでROEは2008年2月期まで改善が続いたものの、店舗収益悪化トレンドの影響は大きく、翌2009年2月期以降は低下傾向が見てとれる。
ABCマートは資本効率が低下し続ける一方、配当性向(利益のうち配当に回す割合)を引き上げることで投資家のリターンを稼いできた。
しかし、事業の収益性が低下し続ける以上、配当の源泉となる純利益の増加スピードは鈍くなるばかりで、結果として頭打ちになるタイミングも早めてしまう。
配当の長期的な増加が見込めないのは、投資家にとって非常に痛いことである。
参照元:ABCマート 各年度の売上高・営業利益・店舗数・ROEなどの数値データ
このままだと株価が下落する可能性も高まる

1月中旬現在のABCマートの今期予想PERは17倍と、東証1部に上場する企業の平均値である13倍を上回っている。
東証1部上場企業の中で、平均以上の利益成長が予想されているということになる。
ただ、企業の利益成長には利益の翌期への再投資が重要である。
ファンダメンタルズ分析では、成長の予想スピードを表す重要指標として「サステイナブル成長率」というものを用いる。
これは、ROEに内部留保率(利益のうち配当に回さなかった割合で、配当性向の逆)を掛け合わせたものだ。
この値が高くなればなるほど、将来的に大きな利益成長が予想され、結果として高水準のPERが正当化される。
現状でABCマートはROEが低下する一方、配当性向を引き上げ続けているので、このサステイナブル成長率が急低下している。
要するに利益の予想成長率が下がっている状況であり、それはPERの低下、つまり株価の下落へとつながる。
「配当が増えない」「株価が下落する」、この2つは前述したトータルリターンの直接的な悪化を意味する。
店舗を拡大し続けるという方針は、高いROEをキープもしくはさらに高めることができ、利益を配当に回さず再投資した方がいいとみられる成長企業がとる戦略である。
これらを踏まえると、今のABCマートの経営方針は財務状況や事業環境とのミスマッチが強いように思われる。
参照元:東証1部企業の平均PER
投資家ならば、会社の資本効率に目を向けよう!
あくまで増収増益は、前年度の業績との比較に過ぎない。
小売業の場合、各店舗で黒字を確保できている限り、店舗を増やし続ければ増収増益も続く。
しかし、それで投資家が幸せになるかというとそうではない。
株式投資では、投資先を吟味する際に「効率重視」という姿勢を常に忘れないことが重要だ。(執筆者:高橋 清志)