1980年以来、約40年ぶりに民法の相続法制に関する分野で大幅な見直しがされることになりました。
2020年までに段階的に施行されることになっています。
まずは2019年1月13日から施行された「自筆証書遺言の方式の緩和」について解説します。
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目次
相続法改正のポイント
民法ではトラブルを防ぐため、相続の基本的なルールが定められています。
相続遺産に関するもの
遺言に関すること
です。
相続行為はこの相続法にかなっているものでなければ認められていません。
見直される背景には、高齢化社会の進展、親子関係や夫婦関係に対する国民意識の変化があるといわれています。
相続なんて関係ないと思っていても、だれにでも突然降りかかる問題でもあり、他人ごとではありません。
知らないと後で損をする点もいくつかあるのではないでしょうか。
今回改正された項目は多岐に渡ります。
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新たに設けられた制度を含めた以下がおもな内容です。
・ 配偶者の居住権を保護するための方策
・ 遺産分割に関する見直し等
・ 遺言制度に関する見直し
・ 遺留分制度に関する見直し
・ 相続の効力等に関する見直し
・ 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策
自筆証書遺言は遺言制度の見直しに含まれている
遺言制度に関する改正点は大きく分けて4点が挙げられます。
(2) 自筆証書遺言の保管制度の創設
(3) 遺贈の担保責任の規定の整備
(4) 遺言執行者の権限明確化等
遺言は被相続人の最終の意思表示です。
死ぬ間際に書かれる意思表示の遺書とは違い、死に最も接近した時点の意思表示、という意味で使用されています。
これは、被相続人が遺産の継承について自分の意思を表せる唯一の方法です。
法律上、遺言が効力を持つためには、民法で定められた一定の形式に則したものでなければなりません。
この形式は多種ありますが、一般的には3つに分かれます。
・ 自筆証書遺言
被相続人が自分で書き記して作成したもの(民法968条)
・ 公正証書遺言
公証役場で公証人に作成してもらう遺言(民法969条)
・ 秘密証書遺言
内容を秘密にしたまま存在のみを証明してもらう遺言(民法970条)
改正前の自筆証書遺言は、被相続人自らが全文を自書しなければならず、代筆やパソコンなどでタイプしたものを印刷した文書は認められていませんでした(改正前民法第968条)。
また、添付する目録もすべて自筆とされていたので、詳細な記載事項も多いため作成の負担が大きく、記載ミスも起こりやすかったです。
改正された民法968条2項には目録について自書することを要しませんが、この場合には各ページに署名捺印をしなければならないと定められました。(改正前民法の2項は3項へと繰り下げられています。)
改正された自筆証書遺言の書式については政府広報オンラインに記載されているので参考にしてください。
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目録にはどんなものが含まれる?
土地や建物、預貯金、有価証券等を種目ごとにリストアップした一覧表を財産目録と言います。
目録は法律上、作成の義務はありませんので、書式についても決まっていません。
裁判所のホームページに遺産分割調停申立の書式が掲載されているので参照してください。

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財産の種類は?
不動産(土地、建物)、金融資産(預貯金、投資信託、株式)、動産(自動車)等そのほか、財産の所在、数量を自筆で作成しなければなりませんでした。
法改正によって文書作成ソフトを使用することができるほか、預貯金通帳のコピーや登録事項証明書の添付でも認められようになりました。
これによって自筆をする手間が省けるだけでなく、財産の内容に変更があった場合に反映しやすいというメリットがあります。
この改正によって自筆証書遺言の作成件数が伸びることが期待できるのではないでしょうか。
新しく制定された自筆証書遺言の保管制度の創設とは?
今まで、自筆証書遺言のほとんどが被相続人の自宅にある金庫やタンスの引き出しなどで保管されてきました。
そのため紛失や近親者により偽造されるなど、相続人同士の紛争を引き起こす原因にもなっていました。
今回の改正では自筆証書遺言の保管に関するトラブルをなくすため、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」が新たに制定されました。

保管を行うためには被相続人が法務局に自筆証書遺言の原本を持参し、手数料を支払って申請しなければなりません。
法務局では原本とともに画像情報化して保存されます。
その後、相続が開始されると相続人・受遺者・遺言執行者等 は、遺言の閲覧や画像情報の証明書の交付を自由に請求できます。
今までは、相続が開始されると家庭裁判所で遺言書は確かにあるということを確認してもらう「検認」の手続きが必要でしたが、改正後は不要になりました。
「法務局における遺言書の保管等に関する法律」の施行期日は、平成32年7月10日と定められました。
なお、施行前には、法務局において遺言書の保管を申請することはできませんので、ご注意ください。
自筆証書遺言の方式緩和は公正証書遺言のメリットをなくすものなのか?

自筆証書遺言が今回の改正で普及していけば、弁護士や公証人に費用を支払ってまで依頼する公正証書遺言は必要なくなるのでしょうか?
なかなかそうとも言えない理由があります。
法務局は、法務省令で定める様式にのっとっているかという点において、遺言書の中身を確認します。
それは保管をするために必要な範囲の確認であり、遺言書の内容について審査をするわけではありません。
つまり、一定の法定相続人に認められる、
・ 遺言執行者の指定がなされているか
・ 遺言書の詳細が法律を侵していないか
・ 遺言能力の有無など
すべてを確認してくれるわけではないのです。(参考元:法務省「法務局における遺言書の保管等に関する法律」)
遺言の目的である、被相続人の意思を果たす内容にするためには、記載ミスがより少ない公正証書遺言に頼る方が良い場合もあります。
今回の改正により、相続の手続きの簡素化と効率化が図られ、残された相続人の生活を一日も早く安定させることで、私たちの生活に寄り添うものになるよう、期待したいものです。(執筆者:松村 茉里)